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暴食の竜(3)

@sin_niya_b
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2018-09-14 22:42:03

登場…ニール( @himawari_153 )、グンヒルド、ティべリオ( @mikadorobo )、フレデリック( @N_ichiichi )、アラン( @nnmy_ssrn )




3.

 森の奥、開けた――平らかにされた――場所で、騎士たちは神妙な面持ちで言葉を交わしている。
「水場が荒らされてないからおかしいとは思ってたんだ」
 川縁からこちらを見る鹿、無傷の井戸。ティベリオは手についた鱗の欠片を払い落としながらそう言った。
「水が苦手なことがわかった以上対処は少ししやすくなったけど、問題はあの冗談みたいな再生能力だな」
 千切れ飛んだ肉片が見る間に寄り集まり肉体を再形成したあの様は、人の身に絶望を与えるに余りある。再生能力を持つ魔物は数あれど、あのレベルのものはなかなか稀有である。
「……そのことなんだが」
 沈痛な空気の中、ニールが口を開く。
「あいつの再生能力は魔法というより……物理的な法則に則ったものに見えた。千切れた尻尾はもう一本生えてくるんじゃあなくて、千切れたものを回収するような形だった」
「そうだな、マナの流れにも異常は無かったから……あれはあくまで『ものすごく傷の治りが早い』能力だ。治癒魔術とは違う。……そもそもワイアームに魔術を扱う知能は無いしな」
 フレデリックがその言葉を肯定すると、ニールは軽く頷いた。青い目は静かな光を湛えている。
「つまりあの再生能力には物理的な対処が可能なんじゃないか? 例えば……」
 ……それからニールが提案した作戦に、騎士たちは暫し考え込んだ。その作戦は理にかなっているように聞こえたが、そう都合よく物事が運ぶとは限らないだろうとも思われた。
 だが、少し考えた後グンヒルドはこう口を開いた。
「……悪くない。逃げ切れないなら、奴を二度とこの辺りに近寄る気にならなくなるくらい痛め付けるか、倒すかしかないんだから」
「そうは言ってもあいつをどうやって『そこ』まで連れ込むかが問題だろ、井戸にすら近寄らないくらいにはあいつは水を避けてる」
 グンヒルドの言葉を引き取るような形で続けたティベリオはどことなくニールの返答を想定しているような、呆れがかすかにうかがえる声色をしていた。それにニールは顔色も変えずに答えた。
「俺が囮になる」
 そうなるよなあ、とティベリオは想定通りの回答に頭を掻いたが止めはしない。他の面々もその答えが自己犠牲や陶酔からではなく冷静に能力を鑑みた結果の判断であることを知っていたため、表立って反対する者はいなかった。
 その中において、グンヒルドは少し不本意そうな表情でニールを見ていた。
「本当にやれるのか?」
「あいつを引っ張ってくればいいんだろ、花形じゃないか」
「隊長が囮をするなんて聞いたことがない。その間の指揮は誰がするんだ」
 ニールは胸元につけていた隊長章のブローチを外すとグンヒルドに放り投げる。咄嗟にそれを受け取ったグンヒルドは、ぐっと眉を寄せた。
「お前がやっておいてくれ」
「……」
 苦虫を噛み潰したような顔をするグンヒルド。やり取りを見ていたティべリオが眉を下げて口添えする。
「……グンヒルド、ニールが一番適任なのはわかってるんだろ? 足の速さだけならオレでもいいけど、体力のことを考えるとやっぱりニールが妥当だ」
 ティベリオを見、周囲の騎士たちを見、最後にニールを見たグンヒルドは小さく溜め息を吐いてブローチを投げ返した。
「一時的に別行動になるだけだ、お前が隊長のままで良いだろう。その間の代理は任されてやる」
「そうか」
 短く答えたニールは胸元にブローチをつけ直し、それからティベリオの方を見た。
「舞台にする場所を探すぞ。先導頼む」
「はいよ」
 ぐっと両手を持ち上げ伸びをしてから、ティベリオは口角を上げてみせた。


 作戦を実行するのに相応しい場所を見付けた騎士たちは、ニールの指示に従って準備を始めた。……眼下に川の流れを見下ろせ、人間が複数人動くのに不自由しない程度のスペースがある場所。そこでワイアームを迎え撃つのだ。
 グンヒルドたち前衛を受け持つ騎士たちは武器の確認と準備運動、連携の打ち合わせをしていた。ティベリオたち索敵班は周囲の警戒にあたっていた。
「どうだ、いけるか?」
 ……そしてそれらの騎士たちから少し離れた木の陰で額を突き合わせてなにやらごそごそとしているアランとフレデリックに、ニールが声をかけた。
「水場が近いから別の場所でやるよりは安定する筈だ、今のところ七割は成功してる」
 そう答えるフレデリックの横で、アランは真剣な表情で宙に両手をかざし――球体を包むような手つきで――集中している。その掌の間でゆらりと空気が揺れると水の玉が出現し、アランがぐいと腕を広げるのに合わせて大きくなり子供一人を包み込めるほどの大きさになった。
「あまり練習しすぎると本番に響くからそろそろ所定の位置につくか……」
「もう少しだけ、」
「駄目だ。きみの力量と今の状態だとこれ以上練習しても自前の魔力が枯渇していくだけだ」
 フレデリックの言葉に口をつぐんだアランは水球を消すと促されるまま移動したが、その足取りは少しだけ怪しい。ワイアームとの交戦で受けたダメージはまだ回復しきっていないのだ。口惜しそうに唇を噛む相手に気付いているのか、ニールは静かに言い聞かせるようにアランへ話し掛けた。
「アラン、わかってるな。何があっても前に出るな。お前の役割を果たすんだ」
「……ええ」
 恐らく不本意なのだろう。アランの声は少し低く、沈んでいた。だが彼も熟練の騎士であり己の状態は理解していたし、彼には彼にしかなしえない別の役割が与えられていた。アランは静かな眼差しをしており無茶をしそうには見えず、フレデリックもその辺りはしっかり教えた筈である。ニールは不安なくその場を離れながら部隊の面々に向かって声をかけた。
「……じゃあ行ってくる。頼んだぞ」
「ああ、しっかりな」
 森の奥へと向かうニールを、騎士たちはあるいは心配そうに、あるいは特に表情を変えず見送った。


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