#RO夏の創作交流会2018 にて作成した、♂ロイヤルガード×♀ソーサラーのお話です。
シリアス寄りながら全年齢向け。
文:平成の自爆王( @Marine_Sphere )
絵:あやの@まことさん ( @ayano_makoto )
現役だからこそ書ける話を追求した結果、こんなお話になりました。
@Marine_Sphere
―AREA16
アレスという名の一人のロイヤルガードが、この世に疲れたという表情で手頃な岩に腰掛けている。ギルドにも所属せず一人旅を続けてきた彼の心中を察することが出来る友は既に存在せず、アレスは空虚な目で冒険者達を見守っていた。
周りの冒険者達も彼に構うことなく、それこそ自分の目的を果たすことしか余裕が見いだせない状況故、端から見れば「自分以外をNPCか何か」としか見ていないような状況だった。だから、宇宙人が飛来したと言われるこのAREA16には人こそ多いが、活気ある風景とはいえない。
(ここいらが潮時だな。天津の故事成語曰くの、老兵は死なずに去るのみ…この世の摂理だな)
いわゆる「ボウリングバッシュスタイル」と呼ばれる、少しぼさっとした銀髪が風に揺れる。周りの冒険者達に同業者は存在せず、前衛募集のチャットでさえ、そこに入る者はドラム族という猫型の亜人種であったり、神官であった。
剣士系の上級職である騎士系の需要が壊滅したと言われて久しいが、それは受ける方向性のベクトルが変わってきた事による、時代の変遷に何一つついて行けなくなっているのが一番の原因だ。
つまるところ、モンスターの火力の先鋭化が行きすぎた所為で、騎士系の防具で正面から耐えることが愚策とすら言及されている。勿論騎士団でも対策は講じているが、そもそもの職の指向性からして噛み合わなくなっている。
また、冒険者達の所要経験値と呼ばれる概念が天文学的に跳ね上がった結果、冒険者達も所謂「経験値効率」だけを見るようになり、それが原因でいさかいが起きる事もあった。
いわゆるパーティ狩りでも、少しミスをしただけで晒し上げに処されることも珍しくなく、それが原因で冒険者を引退し中には自殺にまで追い込まれる者も居た。
(効率、効率、か。《ディボーション》を使える俺達なんて、このご時世ただの使い捨てタンクとしか見られていないんだろうがな)
アレスの視線に、一つのチャットが目にとまる。それは所謂ペア狩りのものだが、ペア狩りも言ってしまえば、最適化の末に生み出されたものである。同業者達が、その手の心なき冒険者達によって傷つけられ、挙げ句の果てには文字通り生命すら失われるという意味で「死亡する」まで使い倒されたという事例もいくつかある。旅の中で、アレスは冒険者達の心なき言葉を幾つも聞いている。
元々アレスは知り合いに頼まれて攻城戦にも参加していたが、知り合いの彼も攻城戦で戦死した今、アレスにとってギルドに未練は無かったため、すんなりとギルドを離脱した。
そこでアレスは、国の建前である「健全で楽しい攻城戦を」等という触れ込みはただの綺麗事、理想主義にしか過ぎないことを知る。蓋を開けてみれば、攻城戦の実情たるや誹謗中傷やヘイトの扇動、事実無根の情報でギルドを壊滅させる、果てには戦略のためだけに恋人を寝取るといった、人の欲望や負の感情のるつぼと化している。
攻城戦による憎悪が原因による殺人事件も枚挙に暇がなく、更に現状はドラム族による侵略が著しいとも言われており、攻城戦の廃止やルール変更は急務となっていた。
それらの事象が収束した結果、アレスは冒険者としては名を残しながらも、現状はこの世界に絶望していた。聖堂騎士の上級職故に神の声を聞くこともあるが、彼も嘆いていた事は記憶に新しい。単純に騎士系の没落を憂いただけではなく、この世界全体の歪みに対して、神もアレスも希望的観点が持てなかった。
神曰くの「現状は私の管轄外の神が行った事であり、何度か抗議を申し立てたが受け入れられなかった」ということである。いっそのこと、世界を見限って神の元に旅立つか―と、アレスは覚悟を決めて立ち上がった時、彼の身体を《バキュームエクストリーム》と呼ばれる風魔法が束縛する。
「ちょーっと待ちなさいよー!」
《バキュームエクストリーム》の術者である女ソーサラーが、彼にしがみついて動きを止める。幸い、他の冒険者達がこの光景は見ていなかった。この世を見限り自殺するつもりだったアレスにとっては寝耳に水、思わず彼女の挙動に反応してしまった。
「やっと見つけたわ、アレス!」
「…俺の名前を、知っている?」
終始独りで戦いに明け暮れていたアレスは、人の名前を覚えることを半ば忘れてしまっていた。覚えているのは、モンスターの名前くらいだった。
「覚えてるわよ。それとも、この可愛いメルちゃんの事を忘れてしまったの?」
メルと名乗ったソーサラーの少女は、アレスを《バキュームエクストリーム》で束縛したまま、深緑色の美しい長髪を揺らす。このままではにっちもさっちもいかないから、仕方なくアレスはメルに顔を向けた。彼女の幼くかわいげがある顔を見ていると、自然とアレスもメルの名前を思い出せた。
「…それでメルティーナ、いきなり俺を拘束して何の用だ。お互いギルドに所属していない今、特につながりは無いと思うが」
「それって無愛想とか鉄面皮とか、そう言う次元だと思うのよね。あんたがこの世に絶望して今すぐ自殺しますみたいな顔してたから、強硬手段を執らせて貰ったわ。まったく、アレスを探すのにすっごく苦労したんだからね。聖堂騎士団に問い合わせてみても有給を取ってるって言われたし…とにかく、逃がさないから!」
《バキュームエクストリーム》による拘束が終わるや否や、メルはすぐさま《スパイダーウェブ》も駆使してアレスの身動きを束縛し続ける。それにしても、表情から心境を読ませないようポーカーフェイスを務めていたはずだったが、何故メルには心中を悟られたのか、アレスにはまだ理解できていなかった。
しかし、現状二段構えの拘束手段を執られている以上、アレスには打つ手がない。最後に話くらいは聞いても良いだろう、と観念して両手を挙げた。
「アレスがギルドを抜けてるって聞いて、探すのに苦労したんだから。とにかく、今はあたしと付き合いなさい。返事は?」
「………仕方ない。だが、その前に一つ聞かせて欲しい」
「なに?」
観念したアレスから疑問を投げられて、メルは少しだけ意外に思う。彼が覚えているのかは分からないが、パーティを組んでいたとしても、アレスはモンスターの殲滅など大抵の事を一人で片付けてしまうからだ。メルもそれをよく知っている。
「俺を拘束したことの是非は良い。表情を読まれないようにしていた筈だか、何故メルティーナは俺の感情を読めた」
生きる意味と活力を失っていたアレスの顔を、人々は憔悴した顔と評することはあったが、メルティーナ―愛称で言えばメルのようにアレスのことを的確に指摘した者は居なかった。故郷の家族は飛行船墜落事故で全て失い、身寄りの無い彼を深く知る者がもうこの世に居ないので、なおのことだ。
「簡単すぎて、魔法を使うまでもないわ。だってアレスから生きる気力が抜け落ちてるのが分かったもん。だから、あたしと付き合いなさい。大事なことだから、二回言ったわよ」
アレスはこのとき気づいていなかったが、メルの表情がほんのり赤かった。
―ミョルニール山脈・展望台
ミョルニール山脈の中腹部には、観光客や冒険者の休憩所としての展望台がある。ここに来るまでが大変なのだが、展望台から見える絶景を見るために観光客が絶えない。
その見た目とは裏腹に体力のあるメルは、アレスを伴って展望台へとやってくると、受付の女性がメルを見るなり挨拶をする。
「いらっしゃい、メルちゃん。旦那でも連れてきたのかい?」
「やだおばさん、あたしの知り合いよ。それにまだあたしは未婚なんだから」
後ろで話を聞いていて、メルが未婚というのはアレスも意外だと思っていた。彼女ほどの社交的な性格ならば、交際相手も居るだろうに。受付を済ませたらしく、メルがアレスの手を引いて展望台の奥へと連れて行く。
「…俺に見せたいものは、これか」
展望台から見える絶景を、アレスは知らなかった。彼とて元を正せば、まっとうな青年だった。しかし、攻城戦におけるトラブルの数々や、現状の冒険者事情で彼の心は、世界に絶望するに至る程に淀みきっていた。邪道に落ちなかっただけマシとすら言えよう。
「あたしは嫌なことがあると、よくここに来てたのよね~。受付のおばさんと顔見知りなのもそれが理由。ねえアレス、どうしてあんなに暗い顔をしてたのか、教えてくれない?」
思えば、メルとこうやって話をしたのは、タナトスタワーにおける臨時パーティ、俗に言う「臨時公平」の時以来だろうか。あの時を少し懐かしんでから、アレスは口を開く。何よりも、澄んだ空気が流れている展望台でメルを見ていると、少しだけ気分が軽くなった気がした。
「…平たく言えば、この世界に絶望していた。攻城戦の事は知っているか、メルティーナ」
攻城戦、と聞いてメルも表情をこわばらせる。彼女も攻城戦には良い思い出が無かったらしい事は、アレスにも理解できた。
「俺も友人に頼まれて攻城戦に参戦していたが、人の醜さや負の感情のるつぼを目の当たりにさせられたよ。聖堂騎士団として、攻城戦が原因の殺人事件も数件当たったことがある。攻城戦への参加を頼んだ友達も、攻城戦が原因で殺された。何より、俺自身生きることに疲れてるのかな…冒険者として鍛えてきたが、そろそろ限界かもしれない」
展望台から少し足を踏み出せば、このまま飛び降り自殺が出来るかもしれない、と心の中でアレスは思いながらも、不思議と実行する気にはならなかった。隣に居るメルに負い目があったわけではないのに、不思議とだ。
「そっかー、アレスも疲れてるんだね。じゃあアレス…」
メルは頭一つ近い身長差があるアレスの頭を、母が子をあやすようにゆっくりと撫で―
―生きることに疲れてるんなら、生きることを休もうよ
その言葉の意味を額面通りに受け取ってしまったアレスは、冬眠でもすれば良いのかと返してしまったが、その後に彼はメルの言葉の意味が、この展望台に来て理解できた。
「あたしもギルドで嫌なこと沢山あったし、ギルドを抜けて一人で世界のいろんな所を巡ってみたわ。それで分かったことなんだけど、アレスは生きることに疲れすぎてるだけ。昔のあたしと似てるから、親近感湧いちゃうかも」
間近に迫ったメルの顔にアレスはどきりとする。こんな感情自体、抱くのは何時ぶりだろうか。
「それで、俺をここに連れてきたというわけだな、メルティーナは。言われてみれば、空気が澄んでいる…故郷のフィゲルを思い出す」
素直に、アレスは展望台からの絶景を眺めていた。故郷のフィゲルも、こんな空気だったのを思い出せた彼は、何故メルがここに自分を連れてきたのか、その理由が少しだけ分かった気がした。
「アレス、折角なんだからあたしの事メルって呼んでよ。本名で呼ばれると、他人行儀にしかならないし、ギルドでの嫌なことを思い出すから」
「…すまん。それにしても、展望台の風景は綺麗な物だな。地平線まで見えそうだ」
雲一つ無い澄んだ空を見ていると、不意にアレスの目から涙が零れていた。その事に自分自身でも気づかず、ただ空を見上げていた。
展望台で空を眺めて、三十分ほどが経っただろうか。アレスの隣でメルはただ彼の顔を見ていたが、彼が泣いていた理由はおおよそ見当が付いていた。自分と似ているのだ。だから、彼女は心中で彼を宥めるような言葉をかけようとも思っていた。
そして、不器用ながらも誠実な彼を、メルはどうしても放っておけなかった。後から考えれば、それは恋愛感情なのかもしれなかった。
(アレス、ホントに疲れてたんだね…)
空を眺め続けて時間を忘れていたか、不意にアレスは懐中時計に目をやる。特に予定はないが、時間を気にしてしまうのはかつてギルドで時間単位での動きを強要されていたからだろう。しかし気持ちに整理が付いたのか、絶望に染まった顔はそこにはなかった。
「少しは、落ち着いた気がする。ところでメル、何故メルは俺のことを追いかけてきたんだ?」
今更それを聞くのか、とメルはアレスの無粋さに腹を立てたくもなったが、彼の疲れた心を察して、その気持ちは抑えた。彼女もアレスとここまでの接点が無ければ、彼に興味を抱いていなかっただろう。
ギルドでの辛い日々を思い返した時、メルにとって心の支えとなったのは、アレスの大きな腕や背中だったと後に語っている。
「アレスはさ、タナトスタワーの事、覚えてる?」
「俺がメルと組んだ時のことか? 悪いが、殆ど覚えていないな…」
アレスの戦闘経験が自分自身より遙かに多い事は分かっていたが、メルにとってはショックが大きかった。でも、彼女は言葉を続ける。
「そっか…アレスとってはそんなものかぁ。ほら、決壊しかけた時咄嗟にアレスがあたしに《ディボーション》かけてくれたじゃない。アレのお陰で、執行する者の剣があたしの心臓に刺さった時の痛みをアレスが肩代わりしてくれて、それで文字通り生命を救われたからよ」
メルに事細かく言われて、アレスはあの時の事か、と思い出すことが出来た。タナトスタワーでの臨時公平パーティは、当時は職業戦闘経験値を積むのに最適と言われていたおり、アレスは俗に言う「献身」として需要があった。メルもソーサラーという職故、魔力や精神力の供給を《ソウルチェンジ》と《生命力変換》で行えることから需要があった。
だからといって、アレスが《ディボーション》で守った面々にお礼を言われたことは殆ど無いし、アレス自身もそれが「仕事」と認識している部分もあった。だが、目の前の少女は違った。
そして、彼女はアレスから見れば「些細なこと」であったとしても、自身の生命が助けられたことに変わりはないし、こういう形で報いることを望んでいた。
「わざわざ、それだけのために俺を追いかけてきたのか…」
分かっていないな、という態でメルはため息をつき、再びアレスに顔を近づける。自身の胸をアレスに押しつける程度に接近しているのは、自分でも大胆だと思ったが、こうでもしないと、眼前の鈍感な聖堂騎士は分かってくれない。
「あのね。あんたにとってはそれだけ単純なことかもしれないけど、命を救われた立場からすればそーでもないの。もし、あんたに生命を救われてなかったら、あたしはこうしなかったわよ」
ここまで言われると、アレスに反論の余地は無かった。自身が起こした行動でどこまで反響が及ぶのか、を考えずに行動してきたわけではなかったが、ここまでの影響を及ぼすものなのか。メルの胸が自分に当たっているのに気づいて、ここでアレスは今まで見せなかった恥じらいを見せた。
「…胸、当たってるぞ」
「当ててるのよ。ともかく、あの時に生命を救われた恩返しを、あたしはしたかったの」
「…そうだったのか」
絶景を眺めて心を洗い、メルにはっきりと目的を言われて、アレスは自殺しようと思っていた事が馬鹿らしくなってしまった。それに、メルの言葉が彼の心に深く突き刺さっている。
(生きることに疲れたら、生きることを休めば良い…か)
亡き家族と最後に撮った写真を収めたロケットを開き、家族の顔を見てからアレスは意を新たにした。どうせいつか死ぬのなら、戦い以外の生き方を知ってから死んでも良いのではないだろうか。横に居るソーサラーの少女が共にいるのなら、答えは見つかるかもしれない。
気持ちが軽くなったからか、アレスは素直に気持ちを告げることが出来るようになった。
「―ありがとう、メル。お陰で気持ちの整理が付いた。確かに俺はメルの生命を救ったが、メルも俺の生命を救ってくれた、ということか」
ありがとう、という言葉を聞いたことでメルも満面の笑みを浮かべる。二人の気持ちを入れ替えるためかどうかは知らないが、風が吹いてメルが頭に着飾っていたリボンのフリルが揺れる。
アレスはメルの笑顔を見て、彼女のような笑顔を守るためならば、再びこの手に槍を持って良いかもしれない。そう思えるほどには心が回復していた。
―プロンテラ
ミョルニール山脈の展望台で「休むこと」を知ったアレスは、休日にメルに呼び出され、彼女と一緒にプロンテラのブティックで服を物色していた。軍服であればアレスも予備はあったが、私服を持っていなかった。その事を知ったメルが「ファッションの一つくらい知りなさい」と、アレスを無理矢理引っ張ってきたのだ。
勿論、アレスとしては無理矢理引っ張られてきたことに抵抗はないし、自身の生き方の新しい道のヒントをくれたメルの願いを無視するつもりもない。しかし、いつの間にかアレスの服以上にメルのファッションの方に力が入ってきていた。それはそれで楽しいのだが、水を差す事態が発生した。
「あれ、メルティーナちゃんじゃん。こんな所で何してんの」
声の主は男レンジャーだった。彼の顔を見るなり、メルの表情が強ばり、アレスの後ろに隠れた。彼女の反応で、アレスは本能的に彼女を庇うようにして立ちはだかる。
「そこのレンジャーの人、一体何の用だ?」
「ああ、そのソーサラーのメルティーナちゃんと一緒のギルドだったんよ。突然ギルドを抜けたから、探してたんだ」
アレスはレンジャーの視線から、どこか下衆なものを感じていた。言い換えれば、メルの身体をどうやって楽しもうかという、そんな視線だった。レンジャーはアレスを無視するようにメルの手を取り、無理矢理引っ張る。
「こら、やめなさいよ!」
「何言ってんだよメルティーナちゃん、ギルドで楽しいことしてたの忘れたのか?」
「あんたにとっては楽しいでしょうけどっ、ね!」
必死に抵抗するメルを見て、生きる意志を取り返したアレスが何もしないはずがなかった。彼女に「生きる力」を貰った彼は、真の力を引き出さざるを得ないと確信する。
「折角のメルティーナちゃんのナイスバディを楽しませてくれな……!?」
白昼堂々、メルを引き寄せてから腰に手を回し、そのまま彼女の胸を触ろうとしたレンジャーだったが、アレスの気迫に、手を引いてしまった。
今がその時だ、とアレスはメルの手を引いて自身に抱き寄せてから、携帯していた聖堂騎士団の警察手帳を手に、レンジャーを威圧する。
このとき、レンジャーとメルの目には、アレスから黄金のオーラが出ている事が分かった。即ち、彼は「最大レベルに到達した」冒険者だったのだ。だが、そんなことよりも更に大きな事実が、メルとレンジャーに突きつけられた。
「―そこに直れ! 聖堂騎士団特別警務隊隊長アレス=ウィンザーの名において、貴様を強制わいせつ未遂の現行犯で逮捕する!」
「警備隊、隊長…?」
「ま、マジ…かよ…それよかあんた、まさかレベルカンス…」
レンジャーが怯んだや否や、アレスは持っていた盾を地面に叩きつけて衝撃を起こし、彼の逃走経路を断つ。それが《アースドライブ》とレンジャーが判断した時には、彼の意識と身体は地に落ちていた。
「メル、怪我はないか? もう安心してくれ」
「う、うん…」
「俺の目の前で仲が良いことを示したかったんだろうが…どのみち手篭めにしようとして、一方的な物だってのは俺でも想像が付く」
《アースドライブ》による衝撃で気を失っていたレンジャーの男は、アレスが通信用ジェムストーンで部下を呼ぶことで連行させ、事件は事なきを得る。部下が処理している間も、メルはアレスの大きな腕の中に収まっていた。レンジャーの連行が終わって、部下に当たる聖堂騎士の一人が、アレスに疑問の視線を注いだ。
「アレス隊長、突然長い有給を取ったから、聖堂騎士団のみんなが心配してたんですよ?」
「その事は悪かった。だが、もうじき俺の任期が終わる。そこから先をどうするか、考えてたんだよ」
「そうでしたか…でも、その様子なら結論を出されているみたいですね」
温厚で気配り上手な部下の聖堂騎士が、今のアレスの様子を見て状況を察した。咄嗟の勢いでメルを引き寄せ、彼女を腕で守る姿勢を取っていたことでも明確だった。
「ところでアレス隊長、その子とは何処で出会ったんですか?」
「…つまらん詮索はするな。とにかく、ご苦労だった」
「いえいえ、隊長があのレンジャーを直接逮捕してくれたお陰で、我々も動けるようになりました。彼のギルドの大半はいい人なんですが、ごく一部に問題があるとかねてから通報を受けていたのですが…一人でも逮捕できたことで、捜査が進みそうです。それではアレス隊長、自分は失礼します」
最後まで残っていた部下がアレスに敬礼し、事態は鎮圧した。一番驚いていたのは、アレスの腕の中で一部始終を聞いていたメルだった。
「ねぇ、アレスって…」
「俺が最大レベルまで育っていた事を隠していて、悪かった。だが、この高みまでたどり着いた時に色々と絶望してな。でも、戦う以外の生き方を知った今は、絶望しない。それで、もしよければ…め、メル、俺にもっと生きることの意味を、教えてくれないか」
失っていた感情を取り戻したアレスは、メルを抱き寄せていることが急に恥ずかしくなって顔から火が上がっていた。そんな彼のギャップをメルは嬉しく思いつつも―
「良いよ。あたしもアレスと一緒なら、もっと楽しく生きて行けそうだもん。お互い冒険者として疲れてたし、これからはいろんな所を冒険して、いろんなところで遊びましょ。アレスはあたしにとって命の恩人だし、それに…アレスとなら、何処でも行けるもん」
抱き寄せられた状態から、メルはアレスに満面の笑みを浮かべて抱きつく。周りにはレンジャー検挙からの一部始終を見ていた一般市民や冒険者もいたが、お構いなしだった。
「レベルはアレスの方が上だけど、人生経験はあたしの方が上だって自負できるし、これからはあたしがアレスの先輩だねっ」
「―そうかもしれないな。だから先輩、これからも」
「よろしくねっ」
アレスは、この日のことを一生忘れることはないだろう、と思った。それはメルも同じで、願わくば彼と共に人生を歩みたいとも、思っていた。
(そう、俺にとってのメルは…間違いなく―)

~余談:数日後のアレスの私室にて~
「ところで、メル」
「何よ」
「何故メルは、俺の膝の上に座ってるんだ。別に暖かいから良いんだけど」
「だって、あの時言ったでしょ。あたしと付き合いなさいって」
「………! いや、あれはお前が展望台に行くのに付き合えって意味だと」
「違うわよ! アレスのばか!」