X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[想楽P♀]エレベーター

全体公開 1723文字
2018-09-21 12:42:40

「手、繋いでた方が落ち着くかもだよー?」

古いテレビ局の古いエレベーターに閉じ込められた想楽君とPさんのお話です。

Posted by @toasdm

「この建物も今日で最後なんだねー」
 感慨深げにそう呟いて、想楽は隅々まで目に焼き付けるようにして廊下を歩く。放送局の新社屋は来月には本格稼動が決定しており、この古い局の建物は月末には取り壊しが始まる。
「名残惜しいですか?」
「僕が最初にテレビ局のお仕事をしたのが、ここだからねー」
 初めてって特別な思い出でしょ?と彼女に微笑みかけて、想楽はほぅと溜め息をついた。古めかしい印象の壁に埋め込まれたエレベーターのボタンを押して、彼女もぼんやりと、建物内を眺めた。
「建物はなくなっちゃいますけど、思い出はなくなりませんよ」
「そうだけど……ふふ、やっぱり名残惜しいや」
 チン、とアナログチックな音を立てて、エレベーターのドアがゆっくりと開く。するりとそこに入り込めば、箱はずしんと揺れる。
「このエレベーターさんとも今日でお別れかー……
 全ての動作が緩慢で、古くすえたような匂いが染み付いたエレベーターは二人を乗せて一階へと降りていく。テロ対策にと、複雑に入り組んで作られているテレビ局の中を、想楽はいつの間にか案内なしに歩けるまでにここで仕事をしてきた。名残惜しいなー、とぽつりと想楽が呟いた瞬間、急にエレベーターが大きくガクンと揺れて停止した。
「うわ」
「え、なっ、何っ!?」
 ジジ、と頼りない照明が音を立ててフッと消える。きゃあ!と叫ぶ彼女のそばで、想楽は天井を見上げる。
「すぐに非常灯がつくと思うけど……
 スマートフォンを取り出してライトをつけると、想楽はパネルを照らして非常連絡ボタンを押し続ける。
「すみませんー、エレベーターが止まりましたー」
 スピーカーから雑音交じりにオペレーターの声を伝える。どうやらコントロールセンターでもそれを感知しているようで、すぐにメンテナンス要員が向かうとの連絡を受けて、想楽はほっと一息ついた。振り返ると、エレベーターの隅でしゃがみこんで、彼女は小刻みに震えていた。
「プロデューサーさん、多分三十分もかからないと思うから」
「そ、んなに……?」
 声まで震えた彼女の顔は、ようやくついた非常灯の薄暗い灯りに照らされているせいもあるのだろうが、随分と青ざめている。よいしょ、と想楽はその隣に座り込んで、彼女に手を差し出した。
「はい」
「え……?」
「手、繋いでた方が落ち着くかもだよー?」
 すぐだから大丈夫、といつも通りの穏やかな笑みを浮かべて、想楽は彼女の手をそっと握った。ふっ、と肩から力が抜けて、彼女は思わず、ぽろりと涙を零した。
「こんなに震えて、大丈夫ー?」
「だい、じょぶじゃ、ない……です」
「閉所恐怖症とかじゃなかったよねー?」
「違う、と、思います……でも」
 よしよし、と繋いだ手の甲を親指で撫でて、想楽はゆったりと語りかけた。
「僕が一緒だから、大丈夫だよー」
「うぅ……
 根拠はないけどねー、と溜め息をついて、想楽はどうしたものかと再び天井を見上げた。今の自分に出来ることといえば、なんだろうか……。気がつけば想楽は、自分の持ち歌を口ずさんでいた。
「♪~……
 狭く、暗く、音のしないエレベーターの中に、想楽の歌声が響いて満ちる。やっと
呼吸が落ち着いた彼女は、想楽の手を優しく握り返してじっと待っていた。
「あ、ついた」
 パッ、と再び照明が復旧し、エレベーターがまたガクンと揺れて、ゆっくりと、今度はすんなり一階まで下り始める。よっこいしょ、と立ち上がり、想楽は彼女に手を差し出した。
「立てそうー?」
「な、なんとか……
 よろめきながらも想楽の手を掴んで立ち上がり、彼女はふぅ、っと鋭く息を吐いた。
「あの」
「なぁにー?」
 エレベータのドアが開く直前、彼女は上目遣いに想楽を見上げた。
……すごく、頼りになるな、って思いました……
 そっかー、と満足気な想楽は彼女の手をぎゅっと強く握ってから、そっと離す。
「ほんとは僕も怖かったんだけどねー」
 ドアが開いて、一歩踏み出して、二人は密閉された空間から吐き出される。
「頼りになるとこ見せられて、よかったよー」
 三十分ぶりに吸い込んだ外の空気は、思いの外清々しく感じられた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.