@akirenge
【麻雀狂想曲】
「麻雀、やらないか?」
良く晴れた帝都の午後、矢来区の筑土町にある最新のビルヂング、銀楼閣の三階にある鳴海探偵社のオフィスにて
所長である鳴海はこう切り出しました。昼食後のことです。
「鳴海さん……事件を追わないと」
「息抜きだよ。息抜き。お前と花龍が麻雀牌とか集めてきたしやろうぜ」
学校から帰ってきた……十四代目、葛葉ライドウは鳴海に意見を言いますが鳴海は取り合いません。
このところ鳴海探偵社はある事件を追っていまして、事件の規模がどんどん大きくなっているような感じが致しますが
鳴海は休もうと言っておりました。
「集めた奴は悪魔もやみつきになるって聴いたことがあるよ」
「僕は麻雀を知りませんが」
「面白いぜ。麻雀は。ライドウはルール知らないのか。サマエルは知ってるか?」
ソファーに座っていたのは矢絣模様の着物に袴を着た十代前半の少女でした。花龍と周囲には呼ばれています。
ライドウは鳴海の言葉に頷きます。二人は仕事で調査をしているときに麻雀の道具を手に入れていきましたが、
使い方はさっぱり分かりませんでした。とりあえず鳴海に渡していただけです。
鳴海は椅子に座りながら、クッキーとコーヒーを配ろうとしているサマエルに話を振りました。
サマエルは金髪碧眼の青年で鳴海探偵社では召使いのようなことをしています。
「……麻雀なら打てることには打てるけど」
「それならライドウとかに教えてやれよ。打ちたいんだ。最近打ってなくてさ」
「四人なんだけど、残り二人は……」
「残りは悪魔でも出せばいいだろう」
ライドウと花龍に二人の好みの味にしておいたコーヒーを渡しながらサマエルは鳴海に答えました。
昔にサマエルは麻雀のやり方を教わっていたので麻雀は打てます。鳴海はどうしても麻雀を打ちたいようでした。
呆れながらサマエルが鳴海に言おうとすると声が止まります。鳴海が遮ったようにも聞こえましたが
サマエルはそれよりも速く声を止めました。
「それならあたしがやるんだよ。サマエルは見てればいいし、細かいルールは紙に書いて欲しいんだよ」
「ルールか。分かりやすいのにしてやる。残りは悪魔を入れるぞ」
「……鳴海さんってば……今、選びますから」
花龍が挙手します。鳴海は花龍に言われ、机の上の紙と万年筆でルールを書き始めました。
その様子を見ていたのはサマエルとライドウと足下の黒猫です。
悪魔を入れることは決定済みであるらしくライドウはマントの下から管を取り出しました。
管には細工がしてあり、中には悪魔が入っています。ライドウは悪魔召喚師であり、その力で悪魔を使役し、
従わせることが出来るのです。
『貴様が麻雀を打てるとはな……』
「……以外だよ。オレも言われるまで知らなかった」
黒猫がにゃあ、と鳴きますが鳴海以外の面々には言葉として聞こえました。黒猫の名はゴウト、ライドウのお目付役で、
本当に猫ではなく黒猫の死骸にある者の魂が宿っている状態ではあります。
サマエルは鳴海に聞こえないように小声で言っていました。手には盆を持った状態です。ゴウトとサマエルは
意外そうにしていました。そしてその原因が、現れました。
『出来るわよ。麻雀ぐらい……私なんだから……』
音もせずに現れたのは、黒髪の女性でした。髪の量は多く、腰よりも下まであります。
着ているのは黒一色のゴシックロリータでした。肌は真っ白です。彼女の名はリア、花龍と盟約を交わしている
『カルヴァリア』の化身です。彼女の声は鳴海には聞こえません。
サマエルが黙ったのはリアのせいでした。メンバーをどうするかサマエルが聴こうとするとリアがなら
私があの子に教えてやると言いました。あの子というのは花龍のことです。
ゴウトもサマエルもリアが麻雀を打てることを知りませんでしたし、花龍も知りませんでした。
そこそこに付き合いの長い花龍やサマエルはリアの言葉にゴウト以上に驚いたものです。
「麻雀というのはどういう遊戯なのですか?」
『ポーカーみたいなゲームよ』
「……ぽーかーというのが分かりません」
麻雀を知らないライドウにリアが説明しますが、ポーカーをライドウは知りませんでした。
ライドウは幼い頃から悪魔召喚師となるために修行ばかりしていましたので、遊びには疎いのです。
「あの牌を集めて、決まった形にするんだ。それで点数を競うんだよ」
「ルールは決めたぞ。見てくれ。ライドウ、悪魔は決めたか?」
「ジャックフロストとモー・ショボーにしました。始まったら出します」
サマエルが簡単に麻雀についてを言いました。
鳴海が紙を出してきました。花龍が紙を受け取り、サマエルやライドウに見せるようにしました。紙には有効な役と
ルールが書かれています。『東場のみの東風戦』『裏ドラ、カンドラ、カン裏ドラ有り』『四風連打、
四人リーチ、九種九牌、四開槓は流局』などと癖のある字で書かれています。
リアが花龍の両肩に両手を乗せながら見ていました。とは言え、リアは幻影のようなものなので重さは感じないのですが。
威圧感がありました。
『大体、分かったわ』
「オーソドックスだね」
「……意味が分からないんだよ」
「何かの暗号ですか?」
リアやサマエルはどういうルールで行うか、見ただけで解ったようですが花龍もライドウも知りません。この二人は
麻雀をしたことがない初心者です。鳴海は準備をしています。
「準備できたから。悪魔を喚んでくれ。ライドウ。花龍はそっちに座れよ」
『妙な細工はしていなかっただろうな』
「……心配ない。していたら切る」
「お願いします。モー・ショボー。ジャックフロスト」
鳴海が自分の正面の席を指さします。時計で言うと鳴海は十二時のところに座っていました。花龍は六時のところに
座ります。ゴウトがイカサマを心配していましたがサマエルは軽く手を動かします。
普段は鳴海探偵社で雑用や業務をしていますが戦闘能力もありました。
花龍のようにどこからかサマエルも武器を出すことが出来ます。
ライドウは管を二本取り出すと、悪魔を出しました。青い帽子を被った雪だるまのような悪魔と羽の生えた少女の悪魔、
ジャックフロストとモー・ショボーです。
「ヒーホー!」
「わーい。やろやろ!!」
「始めるぞ」
鳴海がモー・ショボーとジャックフロストに座る位置を指定しています。
リアが自分の波長を変え、声が花龍やゴウト、ライドウやサマエルだけにしか聞こえないようにしたあとで言いました。
『ところで十四代目って悪魔は一体しか喚べないんじゃ……』
「……戦闘に使わないならそれなりに喚べます。戦闘は力がいりますから」
花龍の背後で浮き上がりながら首を傾げているリアの疑問にライドウは答えます。
こうして麻雀が始まりました。
ライドウ、サマエル、ゴウトは花龍の後ろにいました。慣れない手つきながらも花龍はリアの指示通りに牌を集めます。
最初の親は鳴海でした。鳴海は手際よく牌を人差し指で叩いて落とします。
リアは悪魔達からも姿が見えないように、声が聞こえないように調整をしていましたのでその気になれば全員の牌を
後ろから見ることも出来ましたがしません。麻雀のルールを説明していきます。
(役を憶えるのがしんどい)
『簡単なのから憶えていきなさい』
牌を三個や二個の特定の組み合わせにして集めて出来る役を誰が一番速く組み立てられるかを競うのが麻雀ではありますが
憶えることは多く、そのたびにリアは説明してくれますが、内容が多いのです。
花龍は心の中で返事を返しました。
ジャックフロストやモー・ショボーは麻雀はそんなに強くないらしく、気をつけるのは鳴海だけとはリアは言ってました。
「サマエルは何処で麻雀を習ったんですか?」
「師匠とかがね……やろうと言われて」
ライドウに聴かれてサマエルはぎこちない笑顔を見せました。サマエルは魔術を教えてくれた師匠が居ますが、
師匠に対しては余り話したがりません
「葛葉の里でも麻雀教えればいいのにな。憶えておけば人付き合いが進むぜ」
『馬鹿か』
『探偵さんの言う事はあながち間違ってないわね……それきって。左から五番目』
(中国語で言っても良い。分かる)
ゴウトが鳴海の言葉を否定しますがリアとしては麻雀を憶えておけば人付き合いが上手くいく面があるというのを
知っていました。麻雀は奥が深いゲームなのでやりたがる人が多いのです。
麻雀の牌を現すのは中国語ですが花龍は中国語が分かりました。最初に居た組織に憶えさせられたのです。
「リーチ!」
モー・ショボーがリーチを宣言しました。これは一つ牌を引けば役が完成すると言う事です。
場に緊張が走りました。モー・ショボーが、自分の役が完成させられる他の者が捨てた牌を拾うか、
役を完成できる牌を引くか役が完成します。リアは捨てられた牌を眺めていました。
『持つから、役を完成させて』
指示通りに花龍はゲームを続けます。鳴海もジャックフロストも牌を捨てて、花龍も捨てました。モー・ショボーも
自分が拾った牌を捨てます。
「リーチ」
『花龍もリーチになったようだな』
「誰が最初にあがるかな……」
「鳴海さんがやや真剣になっています」
花龍がリーチになりました。ゴウトが言い、サマエルはお菓子の準備をしています。ライドウは鳴海が真剣になっているのを
感じ取りました。初心者ばかりの勝負とは言え、負けるのは嫌なのでしょう。
「何だかね。オレも速くリーチになりたいんだけど」
「……それ、ロン」
「ロンか……」
鳴海が捨てた牌を花龍が指さし、宣言して揃えている牌を倒しました。役が出来ています。鳴海は顔を引きつらせながら
煙草に火をつけて口にくわえました。
「この役は……」
向こうの方ではサマエルがライドウに役について説明をしていました。ロンでゲームが終わった場合、牌を捨てた相手から
点数を貰えます。麻雀は点のやりとりをするゲームです。自分の持ち点がマイナスになろうとも
支払うときには支払わなければなりません。
『花龍が一番?ロンだからいっか……』
『次はオイラも負けないホー』
最初のゲームです。ロンなので点数が引かれなかったのかモー・ショボーとジャックフロストはほっとしていました。
序盤であり花龍の作った役は点数も低い方だったので、まだまだ巻き返せると想っているようです。
「次をやるぞ」
『探偵さん、やる気になったのかしら』
「窓を開けておくよ……煙草の煙は煙たすぎる」
鳴海が速く次のゲームをやろうと言っています。リアの声を聴きながらサマエルは窓の方に行くと窓を開けました。
麻雀は全員がそれぞれ親を最低でも一回ずつやれば一つの大きなゲームが終わりますが、親が上がり続けていれば、
ゲームは続きます。それもありましてなかなか東場は終わりませんでした。
モー・ショボーがロンで上がったり、花龍がツモ……自分で牌を引いて上がって全員から点数を貰う上がり方……を
したり、鳴海もツモで上がっていました。
「今の順位は花龍が一位でモー・ショボーが二位、鳴海さんが三位でジャックフロストが四位ですか」
『オイラ負けそうだホー。ライドウ、助けてホー』
「どうやって助ければ……すみません。解りません」
ジャックフロストに助けを求められてもライドウにはどうすることも出来ません。
「この辺りで一発逆転するしかないか……」
鳴海は火のついた煙草を手に持ちながら、考え込んでいます。
「もしかしたらこれが最後の勝負かも知れないね。そろそろ一巡しそうだから。コーヒーどうぞ」
『生クリームが入った奴にしたの? あれがいい』
「この時代で用意するのはきつかったがやったよ。鳴海さんはブラックでしたね」
サマエルはコーヒーを人数分入れると飲める者にだけ配りました。ゴウトには猫の餌をあげています。
モー・ショボーが要求したのはコーヒーの中に生クリームを入れたウィンナーコーヒーでした。
花龍とモー・ショボーにサマエルはウィンナーコーヒーを出します。鳴海にはブラックコーヒーを入れました。
「そこに置いておいてくれ」
「ライドウは砂糖とミルク……だね」
「今度、花龍達が飲んでいたコーヒーも飲んでみたいです」
「了解した」
コーヒータイムが始まり、花龍やモー・ショボー、ジャックフロストはコーヒーを飲んでいました。ジャックフロストには
入れた熱いコーヒーに氷をいくつか入れたものを出していました。鳴海はその間もコーヒーを飲まずに真剣に
考え事をしています。
『──』
(……どうしたの。本名で呼ぶなんて)
『次はアドバイスしないわ。素で打ちなさい』
鳴海を観察していたリアが花龍に呼びかけます。花龍にだけ聞こえるように声を調整していました。
「始めるぞ」
『コーヒーの一気飲みは身体に悪いぞ』
「鳴海さんが燃えています」
『このやる気を仕事の時にも出せば……』
意気込んでいる鳴海ですが、ゴウトとしては仕事の時に意気込みを出して欲しいようでした。それはサマエルも同じだったのか、
後ろで軽く頷いています。
次の勝負が始まりました。
鳴海が硬直していました。
花龍が首を傾げています。
『イカサマ、してないわよ? 探偵さん、貴方と違って、ね』
リアが笑いを噛み殺していました。勝負が始まろうとしたとき、いきなり花龍は役が出来たーと伏せた牌を広げました。
天和と呼ばれる役です。
これは牌を引くよりも前に役が出来ている状況のことを言います。
『鳴海の方は』
『してたわ』
ゴウトの問いにリアは答えます。リアはゴウトの側に立ち、両腕を背中の方で組んでいました。
「次の勝負やろうよ」
『やろやろー』
『今度は負けないホー』
花龍とモー・ショボーは乗り気です。ジャックフロストは一人と一匹に対抗しようと両手を拳にして振り回しています。
「鳴海さん、自業自得です」
「コーヒー淹れるか」
「何なんだ。お前等は……」
『――あの子、妙な運をしているのよ。イカサマとか災いとかを弾いちゃうの。私の加護じゃないわ』
ライドウが言い切り、青年の方はお代わりのコーヒーを沸かす準備を始めました。
奇妙な状況ではありましたが、イカサマをしていた鳴海です。花龍がまさかイカサマをするとは想えないのでこれは、
運です。運も実力のうちです。リアは鳴海のイカサマを見抜いていたようでした。
「ライドウ。鳴海さんが再起不能になりそうだから、俺とアイツと君と悪魔一体とで麻雀ゆっくりやってみないか?」
「分かりました。やってみましょう」
「まだ再起不能にはなってない!! もう一回だ!!」
『やれやれ……』
鳴海がやる気になりました。麻雀勝負はまだまだ続きます。ゴウトの嘆息をリアが微笑みながら眺めていました。
鳴海探偵社、今日は平和です。
【Fin】