「え……? あっはは、なんですかそれ」
ほくほくと深夜のコンビニで遭遇してしまうPさんのお話です。長くなるから前編と後編に分けます。後編は後ほど…。
@toasdm
夜半の空腹感に負けて、彼女はメイクもそこそこに普段着のまま外へ出た。日の出ている時間帯はまだ暑いと言ってもおかしくはないが、この時間ともなれば肌寒いと言った方がしっくりくるような、ひんやりとした夜の匂いのする中を、彼女は一人で歩いていく。目的地は近所のコンビニだ。
明日は休みだから、お酒も買っちゃおうかな。おつまみは……作るのも面倒だし、適当につまめそうなお惣菜とか買おうか。
一人深夜の悪巧みを考えて、くふふ、と笑いを漏らした彼女がコンビニに足を踏み入れた時、後ろから、ちょんちょん、と肩を突かれた。
「チャオ☆」
できれば、今一番会いたくない人だ。
仕事関係だから、というのももちろんあるが、こんな、どうでもいい格好のときに、ハイクオリティな顔面を見たくなかった。せめてマスクでもしてきたらよかった、と思ったところで後の祭り、アフターフェスティバル。なんだそれは、と混乱する頭がはじき出した和製英語未満の言葉に心の中でツッコミを入れて、彼女はぎこちなく笑うしかなかった。
「もしかして、お腹すいちゃった、とか?」
「はは……ええ、まあ」
「うーん……」
入り口前というのもなんだから、とドリンクの冷蔵庫前に移動して、北斗はちらりと彼女を見てから顎に手を当てて考え込む。
「俺はナチュラルなプロデューサーも素敵だと思いますけど、そういう問題じゃないんですよね」
「う……」
完全に、読まれている。もう一度自然な雰囲気で嫌味なく、素敵です、と微笑む北斗は、白のTシャツにベージュのジャケット、下は色落ち感の強いスキニーデニムという出で立ちだ。格好いい人って何着てもサマになるなぁ、と溜め息をついた彼女は、ラフ過ぎる普段着のまま深夜のコンビニで、北斗と遭遇してしまった。
「深夜のコンビニって」
冷蔵庫のガラス扉を開けて、北斗はいつの間にか手にしていたカゴの中にミネラルウォーターを何本か入れながら彼女に話しかける。
「なんだか、すごく悪いことしてる気分になりません?」
「あ……ちょっと、わかります」
ですよね、とウインクをした北斗のルックスも所作も、深夜のコンビニを高級食材が並ぶハイソなスーパーのような雰囲気に変えてしまう。ような、気がした。
「……伊集院さんも、コンビニとか来るんですね」
「え……? あっはは、なんですかそれ」
ぽつりとそんな事を漏らした彼女の顔をまじまじと見つめて、きょとんと一瞬虚を突かれたような表情を見せて、それから破顔して、北斗は心底おかしそうに笑う。
「俺だって、コンビニでカップ麺くらい買いますよ」
「う、嘘だ!」
「嘘じゃないですよ、ほら」
ポテトチップスだって好きですよ、とすぐ後ろの棚からポテトチップスを二袋もつまむと、それもカゴに入れてみせる。コンソメ味なんだ、と素直に自分の中に湧き上がってきた感想にくすりと笑った彼女に、北斗はニコニコしながらさらに言う。
「笑わないでくださいって。プロデューサーは、スイーツかな?」
「え、あ、ええと……」
どうしよう、酒とつまみとか、おじさんくさいこと、言い出せなくなっちゃった……。まごつく彼女と北斗は、いつの間にか自然に、一緒に買い物するような雰囲気で店内を歩いてまわっている。スイーツのコーナーで、どれにしますか?と北斗が聞けば、俯いたまま少し頬を赤らめて、彼女は観念したように、蚊の鳴く様な声でぼそぼそと白状した。
「……酒、と…………つまみの、惣菜……」
「………………ッふふ」
「あぁぁぁ笑わないでください!!」
もうやだ、ととうとう両手で顔を覆ってしまった彼女の肩をぽんぽんと優しく叩いて、北斗は涙目になった彼女に柔らかく話しかけた。
「一人酒です?」
「はぃ……」
もしよかったら、と北斗は声を潜めて、彼女の耳元で囁く。
「俺でよかったら、付き合せてください」
つまみなら作れますから、という北斗の声が多少真剣だったことと、もうここまできたら恥ずかしいものなんかなにもない!と開き直った彼女は、北斗のその提案を受け入れることにしてしまった。
行きましょうか、とカゴを持ち上げてみせた北斗に、彼女はついていく事にしたのだ。