@akirenge
【お昼ご飯】
居候になれてしまった。
ミアは夢野幻太郎の寝室で目を覚ます。添い寝をするのも慣れた。夜中までオンラインゲームをして寝て、起きて今の時間だ。
寝たときに幻太郎は居なかったので、自分が寝入ってから来たようだ。
体温があると、落ち着くようになってしまった。幻太郎を起こさないようにベッドから出て充電をしていた多機能情報端末を手に取る。
乱数からの連絡が入っていた。
みんなで幻太郎の家でご飯を食べようとある。今日は仕事が半日で終わるのだと書いてあった。
「……お昼まで残り2時間ぐらい……」
全員、集合するだろう。
有栖川帝統とか最近連絡が取れていないが無事だろう。帝統だし。
何を食べるのと返信すれば、少ししてから準備しててね待ってるよ、とある。つまりは作ってくれと言うことだ。
伸びをする。
ミアは仕込みをすることにした。
調理器具もおすすめされたものをつかっている。乱数は食事に関しては一切指定をしてこなかったので、好きに作っても良いのだ。
「カレーにしよう」
決定する。
その前に朝食を食べなければと軽いものを食べることにした。
夢野幻太郎が起きたのは十一時だった。ミアは既に起きてしまっている。身支度を調えてから下に降りれば、ミアが調理をしていた。
「朝から……カレーかい?」
「乱数が来るのよ。連絡、読んだ? お昼ご飯をここで食べようってなったの」
エプロンを着けたミアにも見慣れた。鍋で作っているのはカレーのようだ。鍋を覗き込んでいる。緑色のカレーが季節の野菜と共に
煮込まれていた。四人分よりも多めに作られているが、帝統が大量に食べるからだろう。
言われて幻太郎は自分の多機能情報端末を確認する。乱数からの連絡だった。
「小生、朝からカレーを食べることになろうとは」
「軽く食べるなら、チーズ入りのパニーニがあるけれど、食事と一緒に出す予定だったの」
「それでいい。グリーンカレーなら、白米と食べるので。炊いてますよね」
「炊いてる」
前に炊飯器で白米を炊き忘れていたりしたので聞いておくと彼女はやや不機嫌になって言う。確認を嫌がったというか、
二の舞はしないとは想っているのだろう。ミアがカレーを仕込みながらチーズ入りのパニーニを取り出し、オーブントースターで焼き出す。
同居生活にも慣れた。ミアがヨコハマ・ディビジョンで帝統の賭博に巻き込まれ、賭の対象になった事件から、この生活が始まったのだ。
ミアは一人暮らしをしているが、一人では不安だからと住まわせた。ミアも精神的に安定はしてきたのだが、帰るとは言い出さない。
「今日は一日乱数が振り回すでしょうね」
「乱数も、おねーさんとご飯を食べていれば、となるんだけど」
おねーさん、とミアが言うのは乱数の姉とかではなく、取り巻きの女性だ。乱数はとても人気がある。オーブントースターが
パンが焼けたことを音で知らせた。ミアはオーブントースターを開けて白い皿にチーズ入りのパニーニをのせて、上から彼女は包丁で切る。
チーズがとろりと溶けた。ミアは皿を幻太郎の前に置いた。飲み物として桃の水が出てくる。ミアが好んでいるものだ。
この生活を始めてから彼女の好みも同居をし始めた。
「何か食べました」
「半額で買ったパンをいくつか。今日ぐらいは持つけど、明日は冷蔵庫の中身がきついわ」
「明日、買い出しに出かけましょう。ミアの欲しいものを買いますよ」
「それなら、夜中の通販でやっていた」
「嘘ですけど」
「買ってよ」
笑いながら話せば、いつものように、慣れたようにミアが応対する。チーズ入りのパニーニは熱を通したパンととろけたチーズのバランスが良い。
余り食べない方が良さそうだ。グリーンカレーが待っている。
「何が欲しいんです」
「ダイヤモンドコーティングフライパン、あると便利そう」
「嫌です」
今のフライパンで十二分だろうにと幻太郎は断る。彼女は、通販に煽られたらしい。
話しつつ調理が終わるまでは待つ。手伝えるところは手伝うつもりだが、一軒家全体に響くように来客を告げるチャイムが鳴った。
幻太郎が来客を機械で確認する。
『来たよー。幻太郎。ミア』
『飯、食いに来たぞ』
「帝統と乱数です。迎えに行きますよ」
「任せる。仕込みは終わったから、お皿、並べるね」
ミアが準備をしている間に幻太郎は二人を迎えに玄関まで行き、ドアを上げる。お邪魔しまーすと乱数と帝統が中に入った。
幻太郎が住んでいるのは一軒家である。一人暮らしだったがミアが最近ではいる。
「久しぶりに見ましたがまだ食べている方ですね。帝統」
「理鶯さんのところに世話になったりもしていたけれどよ。食べてる方、とかなんだよ」
「空腹のイメージがありますので」
「ミアは何を作ってくれてるの」
「グリーンカレーです」
理鶯はヨコハマ・ディビジョンの毒島メイソン理鶯のことだが、彼の世話になっていったらしい。
「元気になってるみたいで良かったよ。ミア。ヨコハマのことは無事に終わったしね」
「アレは本当に悪かった。アイツが元気になってるなら……」
「回復はしていますよ。おかげさまで」
触れるところは触れて触れないところには触れない。ヨコハマの賭博事件は帝統が原因と言えば原因だが不可抗力のようなところがあったらしい。
リビングに入れば四人分の昼食が準備されていた。深皿にグリーンカレーが盛られていて、白い皿にはチーズ入りのパニーニと別の皿には白米、
野菜をふんだんに使ったサラダもあった。
「準備が出来たよ。グリーンカレーにしてみた」
「楽しみにしてたんだ。どんな料理が出るのかなって。カレーか」
「どうしてカレーだったんだ」
「漫画とか読んでたら美味しそうだったから」
幻太郎の家には貰った本や買った本もあるし、ミアも進められて読んだりしている。グリーンになった理由は分からないがカレーになった理由は分かった。
乱数が席を取り、帝統も座る。エプロンを外したミアの隣に幻太郎が座った。
昼時、食事が始まる。
グリーンカレーには季節の野菜と鶏肉が入っていた。スプーンですくい、一口食べてみるが辛さが丁度良い。後から辛さが出てくるが、耐えきれない範囲ではない。
口直しの水も置かれている。
「丁度良い辛さですよ。もっと辛くても良いぐらいですが」
「僕はもっと辛いのだと苦手かな」
「食えねえぐらいの辛さじゃないんなら。飯があるなら食えるだけ食っとくか」
「冬眠前の熊じゃないんだから、食いだめとか出来ないのに」
帝統と言えばいつも空腹な印象があるのだがこれはギャンブルで有り金を亡くしているところがとても大きい。宵越しの金を彼は持たない主義なのだ。
グリーンカレーの方は好評なようだ。
「カレーとか食べるの久しぶり。おねーさん達と最近食べたのはパスタとかオムライスとかだったんだよね」
「パスタとかオムライス。外食も良いかも。自分で作ったりしてるの飽きてきたっていうか、何か食べたい」
「それなら夕飯は外で食べようか。美味しい店、知ってるし、それでいいでしょ。幻太郎。帝統」
「構いませんよ」
「奢りなら良いぜ」
「えー帝統は自分のご飯をまかなうお金も無いんだ」
このところ、幻太郎とミアは三食、ほぼ同じものを食べているというか、幻太郎の原稿の目処がついたのが今日の夜だったのだ。それまでは目処が経たずに
ひたすら執筆をしていた。ミアも食事は作ることが出来るが、自分で自分の食事を作ると飽きることがあるらしい。
大事なのはバランスだ。
「食べ終わったら、何するの。賭け事だったらほどよくなら付き合うけど」
これから遊ぶことは決定事項であり、夜は外食とは決まったものの、その間の予定は未定だ。
「麻呂としては外に出かけたいでおじゃる。賭についてはまた今度で」
「シブヤの町を散策かなーそれでいいよね」
「構わねえけど。ギャンブルでも……お前のことはもう連れて行かないし、連れて行けねえしな」
「ほどよく遊びなら良いんだけど」
ギャンブル狂いの帝統が躊躇したのはヨコハマの事件があったからだ。ミアが水を飲んでから言う。幻太郎は一応は釘を刺しておくことにした。
「それでどれだけ僕たちやMTCに迷惑をかけたとおもうんです。一部の山田家の面々とか」
「――分かってるって。危険なところは行きたくない。対処が出来ないもの。ヨコハマはでも行きたいよ」
ヨコハマの事件で警察から庇ってくれたのはMTC、ヤクザと警察と元軍人のチームだったし、こっちも動いた。ミアを傷つけた犯人については乱数が
片付いちゃったみたいとか人ごとのように話していたが人ごとだったのかそれはそっとしておく。
「ヨコハマに行くんだったら幻太郎と行けば。幻太郎なら安心だし。僕も生きたいけれど仕事がね」
「左馬刻さんにも改めてお礼はしたかったしさ。銃兎さんとか、理鶯さんのご飯とか食べてみたいし」
「あれは美味えぞ」
「僕も打ち合わせとかがありますが、時間が空いているときなら」
「案外、幻太郎も忙しいわよね。担当さんの打ち合わせ、明後日だったかな。原稿はそれまでに仕上げないと」
案外とか、ミアに付けられる。案外とはなんですか、とは言いたくはなったが、ミアが微笑んでいるので気は抜いた。ミアが予定を話していく。
「お前、しばらくみないうちに幻太郎のマネージャーみたいなのになってないか」
「なってるような」
「いいんじゃないかな。楽しくやっていれば」
乱数がグリーンカレーを食べ終わりかけていた。量もほどよくしてあるため乱数サイズならばすぐに食べきれるものであった。
帝統の方はと言うとグリーンカレーの皿がすでに空で皿にかなり盛られた白米だけを食べている。
「楽しいから良いか」
「自己納得しているようですが、小生、家のことをして貰えれば居ても」
「やるやる。一人と二人とそんなに変わらないし」
あの事件で精神的にダメージを受けたミアだが回復はしているようだ。とはいえ、油断はならないが、
「大変だったことは終わったから良いんだよ」
「電話だ。取ってくるね」
多機能情報端末の音が聞こえた。着信メロディーはミアのものである。ミアは食事中に多機能情報端末は置き去りにしているため、取りに行っていた。
乱数がグリーンカレーを食べ終わり、各々も食事は終わっている。
「ミアを傷つけたアイツは再起不能になっちゃったし、さ」
「生きてはいますよね」
「んー生きてはいるよー?」
生きてはいるよ、と無邪気に言う乱数だが意味はいくつもある。あるのだが、
「元気ならよかった。俺もスゲえ責任感じてたしな……逃げるので手一杯だったし」
「貴方は本当に懲りてください」
「無理無理。帝統だもん」
いつも通りとなってしまったやりとりが始まる。ミアも帰ってきたら、さらにいつも通りが積み重なる。いつかおわってしまういつも通りだが、
それはそれでいいと幻太郎は考えつつ、完食したグリーンカレーの皿にスプーンを置いた。
【Fin】