@toasdm
暑くなくなったというよりも、寒くなってきた。ここ数日の朝晩は、そんな雰囲気だ。北国では紅葉も始まった、と耳にする時期、徐々に迫ってくる秋の気配に、道夫は温もりを求めるように彼女の手を握った。
「……やはり、冷えているな」
「え……?」
「女性の方が筋肉量も少なく、手足などの末端が冷えやすくなると聞いたことがある」
日の落ちる時間も早くなり、夕映えはあっという間に宵闇に取って代わられる。周囲の明るさを感知して灯る街灯もまばらな住宅街の狭い道、いつものように道夫は彼女を家まで送り届ける道すがら、そっと手を繋いだ。
絡めた指先はひんやりとしていて、道夫の中にある熱を少し冷ましてくれているように思えた。息こそ白くはないものの、肌寒さは肩から背中にかけてぞくりと襲い掛かってくるようだ。ぶる、と一瞬身震いをした彼女の、今度は肩を抱き寄せて、道夫は立ち止まり、じっと顔を覗き込んだ。
「寒くはないか?」
「ちょ、ちょっと、寒かった……ですね」
「うん?」
彼女の言葉が過去形であることに、道夫は首を捻る。今はこうしてるので、と甘えるように道夫の腕に頭をもたれさせた彼女の仕草に、道夫は胸が跳ねるのを感じた。
「ありがたい、と思うが」
眼鏡をすっと上げて口元をうまく隠して、道夫はこっそりとにやける。
「本格的に寒くなる前に、手袋やマフラーなどを準備しよう」
お揃いですか?とまた悪戯に見上げて笑う彼女に、君がそうしたいなら、と今度こそにやけて、道夫は揃いの防寒具で彼女と出歩く冬を想像した。
恐らく、それはとても仲良さげに映るだろう。街のショーウィンドウをちらりと見た時、信号待ちの車に一瞬映りこむ二人の姿、そういうふとした瞬間に、最愛の人が隣にいてくれるという幸せと、コーデのワンポイントに揃いの柄がちらりと見える喜び。そういったものを噛み締めて過ごす冬が、これから先何度も、あるのだろうという事実。
「私は、そういったことにも幸せを感じる」
ストレートな物言いに、彼女はかぁっと頬を染めた。ちらりと周囲を見渡して人気がないのを確認すると、道夫はぎゅっと彼女を腕に閉じ込めた。
「……ペアルックですか?」
「うむ。君さえよければ、全く同じものでなくても、例えば柄をあわせるなど」
「あー、リンクコーデもいいですね。シミラールックとか」
「リンク……? シミラー……英語の、シミラーか……似たような柄で、ということか?」
ファッション用語には明るくなくとも、元々の知識量とそれらを結びつける知能とが高いのだろう、道夫は難なく正解を導き出す。
「はい、SNSとかで流行ってるんですよ」
腕の中で道夫を見上げて、彼女は微笑む。
「流石に、バリバリのペアルックは恥ずかしいかな、って」
「私は一向に構わない」
「少しは気にしてください!」
即答する彼女はますます顔を赤くする。その様子も愛おしい、とたまらず道夫は彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。外気の冷えを置き去りにして、二人の間に熱がこもる。
「……む」
キスの最後にそっと目を開けて、道夫は眼鏡を外した。
「曇ってしまったな……君の熱が原因だろうか」
「みっ、道夫さんだって、真っ赤じゃないですか……」
おずおずと伸びてきた彼女の手が、道夫の赤い頬に触れる。ひやりとしたそれは、先ほど繋いだ時よりも随分と冷たく感じた。それほどに、自分が彼女に熱を上げられたと自覚して、道夫は笑った。
「フッ……そうだとしても、私をここまで真っ赤にできるのは北風か君ぐらいなものだ」
「ふふふ、じゃあ頑張ってあっためて脱がしましょうか?」
冗談を言う彼女を最後にもう一度ぎゅっと抱きしめて解放して、道夫は手を差し出した。
「ならば、夜にお願いしよう」
「あ、や、あの、そういう意味じゃなく」
ははは、と楽しそうに空を見上げて笑う道夫の手を取り、彼女は恥ずかしそうに俯く。
「夜も冷えるようになってきた」
さっと眼鏡の曇りを拭きあげると再び眼鏡をかけ、道夫は幾分軽い足取りで歩き始めた。
「君が風邪をひいてしまう前に、家まで送り届けよう」
二人の頬が赤い理由が増えた帰り道、歩く姿は実に仲睦まじかった。