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ミヅチ・カゲロウ プロローグSS

全体公開 2708文字
2018-10-15 15:05:59

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Posted by @Coltwing

(まずい……まずい──まずいッ)

 武骨なパイプが壁のところどころから覗き、裸電球が殺風景な地下空間を照らす。鉄道建設に伴って秘密裏に作られた都心直下のシェルターを駆け、十字路を抜ける際に煙幕と金遁。非情な追跡者を、果たして撒けるだろうか。

 否。既に回り込まれている。

「クックック……既に左腕は上がるまい。経絡秘孔と暗器による大幅なアレンジを取り入れた中国忍法、敵はないアル」

「ジャパーンのニンジャアーツ。どれ程のモノかと思いましたが、期待外れだったようデース。今度はミーが本場のメリケンNINPOを見せてやりマース」

「インド仕込みのカレー忍法で苦しみの内に絶命したくはないカレー? 大人しく脳改造を受け、我らの尖兵として利用されるカレー」

「ヴヴォオオオオワァァ!!!! ニャァアアヴォヴォヴォヴォヴォ!!!!」

 老獪な点穴忍者、剛腕のサイバネ忍者が行く手を阻み、カレー忍者とタスマニアデビルの着ぐるみが背後より現れる。巳槌みづちの里の忍者は皆毒への耐性をある程度持っているが、致死のスコヴィル値を叩きだす激辛カレーでセキュリティホールを突かれてはひとたまりもない。一人ワケの分からん奴が混じっているが、いずれも引けを取らぬ凄腕ばかりであった。政府と癒着したコングロマリット、よもやここまでの武を誇るとは。

「罠、か──」

 通称『K文書』。とある多国籍企業と政府の癒着を示すメモリスティックを盗み出すというのが彼、ミヅチ・カブトに課せられた任務。だがその情報自体が彼を洗脳して情報を引き出し、目障りな巳槌衆を一網打尽にせんとする企業の計略、隘路に追い詰められ、ついに万事休すかと思われた、その時。
 どこからか飛来したコインが、カレー使いの顎を揺らして昏倒させた。
 どよめく多国籍忍軍。コインの飛んできた方向には何もない。いや、鋼鉄の配管にさっきまではなかった凹みがあった。

「跳弾で──!?」

 音も無く降り立った影が振るうクナイをアメリカ忍者の鉄腕が弾く。意識外からの強襲すら捌いて見せる、侵襲義肢によるサイバネ忍術!
 さらに敵影を認めた中国忍者が通路を埋め尽くすほどの鍼を投擲!

「カーハハハハァ! 誰だか知らぬが全身の秘孔から血を噴き出して死ねェい!」
「知らんというなら」

 布の翻る音。全ての鍼が乱入者のマフラーに絡め取られていた。
 驚愕する老人が自らの額に刺さる打ち物に気付いたときにはもう遅い。
 さらにタスマニアデビルの背後から爬虫類めいた巨大な口が突如として出現、丸呑みにして虚空の狭間へと消える。

「ニャヴォッ……!?」
「覚えて死んでいくといい。巳槌が忍び衆筆頭、ミヅチ・カゲロウ」

「わ────若!!!」

 カブトが驚くのも無理はない。そこに立つスーツ姿の陰気な男。彼は次期頭目の呼び声も高い巳槌の里最強の忍び、カゲロウその人だったのだから。
 彼が感涙するのを見てカゲロウは少し眉をひそめた。

「勘違いして貰っては困るが、君を助けに来たわけではないよ。里を守る為だ……それにまだ終わってはいない」

 壁に結界陣のようなものが現れ、そこからまた大口が覗いて食らいついた。しかしその咬合を躱して見せる者がいる。高感度センサーを備えた鋼鉄のサイバネ義肢、死角はない。

「その通りデース! 鉄腕忍法・カラテハリケーン!!」

 技の名が示す通り、嵐のごとき乱打乱打乱打! 最適化された演算ルーチンがより合理的な打撃軌道を叩き出す! さしものカゲロウも軽々には捌けぬ様子であった。元来、正面切っての戦闘が彼の本領ではない。莫大な資本と超技術をつぎ込んで作られたサイバネ忍者は不意を打っての一撃の通らぬ、いわば天敵。
 膠着した戦場へ8つの手裏剣が飛来した。
 カゲロウへのアシストである。サイバネ義肢のセンサーはそれすら完璧に捉えて弾き、あるいは躱す。あまつさえ高速で飛ぶ手裏剣のうちひとつを掴み取り、円の軌道で投げ返して見せた。背後から悲鳴が上がる。
 カブトは右腕の健を切られ激痛にあえぐ。稼げたのはほんの僅かな動きのズレのみ、それすらすぐに修正されるだろう。

 だが、十分だ。カゲロウにとっては。

 隙とも言えぬ隙をこじ開け、中国忍者から絡め取った鍼を肘関節の微小な隙間に打ち込んだ。それは肘が伸びる動きに伴って砕け、鉄腕の動作に僅かな遅滞を生む。そうして振るわれた拳を最小の動きで避けてクナイで外装を切り裂く、0.1手のリードが0.2手に。義肢が少しずつ解体され、詰め将棋のように、膠着していた戦いは結末へと折りたたまれていく。

「よくやった! 行けッ!」
……ッく、させまセーン!」

 男が壁のレバーを降ろすと、中忍の行く手にシャッターが下りる。平時ならば問題なく切り裂けるだろうが、両腕を負傷した今となっては多少の足止めにはなる。

「技術秘匿、機密保持の為敗北したサイバネ忍者の義肢は自爆しマース! こうなっては死なばもろとも、お前らも道連れデース!!」

 カゲロウが目を見開く。
 閃光が通路を埋め尽くした。
 




……どうして」

 所々が溶解し、火の手が上がる通路に項垂れる影。
 彼の前に、半身を吹き飛ばされたカゲロウの体がある。

 鉄腕忍者が自爆する一瞬前、彼が魔人能力「六道煉獄門」を使用し、召喚した竜の体内にカブトを飲み込んだのだ。
 結果、カゲロウ本体は身を守る事が出来ず、直撃した爆風がその命を奪った。

「なんで。俺を助けに来たわけじゃないって……言ったじゃないですか……! 里の為だって……それなら、若が生き残れば良かった……!! どうして──」

 焼け焦げたその口がいらえを返すことはもうない。巳槌の至宝が失われた。俺が弱かったから。

「あなたは、優しすぎます……

 地下通路をひとり分の慟哭が響く。それはいつまでも鳴り止むことがなかった。


***


 慣れない寝床で目を覚ました。即座に膝立ちになって周囲を窺う。
 古びた洋館の一室のようだった。埃が積もっており、暫く使われていなかった部屋だと感じさせる。奇妙なのは埃を踏んだ跡が無い事だ。どうやってここに来たのだろうか。いや、それよりも──。

「生き、ている」

 あの時、ミヅチ・カブトを庇って、俺は。

『──いや、死んでいるよ』

 あざ笑うような声が、耳元に響いた。


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