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風切 凪 プロローグSS

全体公開 2499文字
2018-10-15 23:26:25

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Posted by @Coltwing

 十七歳の夏、風切かざぎりなぎは死んだ。


 凪は小説が好きだ。
 凪はよく「まずは死体を転がせ」と言うくらいには小説が好きだ。
 その本人が死ぬなんて……笑えない。
 正直、考えたこともなかった。

 死因は交通事故。
 街灯もまばらな田舎道で起こった、不幸な事故。
 例え、運転手が酒に溺れていなかったとしても、きっといつか起こったと思う。
 だから、これは

 『不幸な事故』

 ……なーんて、そんなのもう聞き飽きちゃった。


*


 何回やっても、墓前に手を合わせるのは、不思議な気持ち。
 つい数日前まで生きていたのに、凪はもうこの世にいない。
 近くて遠いって、こういうことを言うんだろうか。

 「凪はいつも笑ってたよね」

 凪は好奇心の塊だからね。
 凪の世界にあるのは、好きと大好きの二つだけ。
 でも、知らないでしょ? 特別な好きもあるんだよ。

 「それなのに、同じだけ泣いてた」

 凪は感受性が豊かなんだ。それに『乙女の涙は切り札』だからね。
 うん、これも口癖だった気がする。
 なんだか懐かしいなぁ。涙が出る度に言ってたっけ。
 凪はかわいいから、意外と絵になってたと思うんだ。

 「走ってる時は結構カッコよかったよ」

 当然。
 凪はかわいいけど、カッコイイから。
 きっと、それはいつまでも変わらない。
 だって、この世は惚れた方が負けだからね。
 だから、凪はずっと君の理想だよ。

 「どうして死んじゃったの」

 理不尽な言葉が飛んでいく。
 それは凪の胸を貫いて……あぁ、もうダメだ。
 死人に口無し。塞いでいたのに、ぽっかりと穴が空いちゃった。

 『凪だって生きたかったさ』

 漏れ出した言葉が突き刺さる。
 胸が痛い。やだなぁ、涙が出てきそうだ。


 「約束、一緒に走りたかった」
 『ごめん、破っちゃった』

 「全国で借りを返すはずだったのに」
 『ごめん、勝ち逃げちゃった』

 「神さま。ねぇ、私の声、届けてよ」
 『届いてるよ』


 やっぱりダメだ。
 凪の墓前で嵐が生まれる。
 大粒の涙は雨、泣き声は雷模様。
 あの世とこの世に、交わらない声が響いた。

 君の声は届くのに、凪の声は届かない。



*



 「じゃあね、また来るから」
 『またね、親友』

 凪の声は届かない。凪の姿は映らない。

 自分の墓にずっと座っていても、

 親友の隣で泣いてみても、

 もうこの世に風は吹かない。

 そう思うと、また泣きそうになる。
 凪は泣き虫だから、君がいないとダメなんだ。
 あぁ、凪の心の曇天は、いつまでたっても変わらない。



*



 白の正装を身に纏う男が立っていた。名をGeorge。荒くれマフィアの鉄砲玉だ。
 相対するは青いジャージに身を包んだ女子高校生風切凪
 二人はこれから戦うのだ。
 新たな生を求めた者同士、壇上へと上がるための零回戦が行われようとしていた。

 「君に勝って、宴の主役をいただくよ」

 凪は人差し指を向け、勝利を宣言する。
 Georgeも負けじと反論。しかし、凪に英語はわからぬ。残念ながら英語かどうかもわからぬ。

 「なんて言ってるの?」
 『お嬢さんが降参したら、俺が死んでから積み重ねた財産を全部くれるってさ』
 「へぇ、粋だね」
 『どうする? 降参するかい?』

 審判役の幽霊がニヤついたまま語りかける。
 凪はそれを見て鼻で笑う。目には目を、嘲笑には嘲笑を。

 「風切凪は靡かない」

 試合開始。
 それと同時にGeorgeは銃を突きつける。
 凪はそれを見て驚愕。本物の銃なんて見たことが無いのだ。動かない心臓も反射的に飛び上がる。青のポニーテールがぴょこんと揺れた。

 「Fire!! Fire!! Fire!!」

 Georgeは早打ちが得意だった。世が世ならキッドにだって負けはしない。彼の口癖だ。
 それは事実だった。道が違えば、現代でもオリンピック選手として歴史に名を刻んだだろう。
 しかし、それは所詮その程度。現実理不尽を受け止めることは叶わない。

 「――――《断空疾走》エアロドライブ!」

 パン! と、言う音と共に、凪の姿が消えた。
 否、正確にはGeorgeの視界から消えたのだ。

 《断空疾走》エアロドライブは風を切る能力。
 風は常に世界を巡る。そして、ありとあらゆる場所で、鍔迫り合いのように勢いが拮抗している。
 凪は自身の前方、Georgeとの間にあった風を切った。抵抗が一瞬で消え去ったのだ。
 もはや邪魔するものはなにもない。勢いは決壊したダムのように怒涛となって吹き荒ぶ。
 
 「shit!!」

 凪を貫くはずだった弾丸は、風に煽られてGeorgeを貫いた。
 風の影響を受けるのは、それだけではない。

 「ばいばい、かっこいいお兄さん」

 風に運ばれた凪による鉄山靠体当たりが、Georgeの身体を吹き飛ばした。



*



 拝啓
 凪の親友様

 凪は、死霊の宴会場に来ています。
 ここは凄いよ。何が凄いって、ご飯が美味しい。
 もうちょっと待っててね。最後の夏には間に合わせてみせるから。

 かしこい凪ちゃんより


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