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作品№10 「夢のひととき」

全体公開 2312文字
2018-10-23 23:18:14

電源を切っている間、ロボットは何を考えるのか

Posted by @myon34

「電源オフ、っと……
『おやすみなさいませ、ご主人様』

 すべての機械には電源スイッチがある。家庭用ロボットにも、例外なくついている。『DOSER-23』、ドーザーと名付けられた、それはたった今電源を切られたところだった。挨拶もされず、電源ポッドに戻り、ただ目を閉じる。目、と言っても、単なるLEDの集まり。ドーザーの姿は、ヒト型ではあるが、姿は背中にバッテリーを背負って働く白い箱の集まりであり、完全にロボットそのものだ。

 ただプログラムに従って働くそれなのだが、電源を切った後にも、CPUは動いていた。単に、通電しないことによる劣化を防ぐためのプログラムが動いているだけである。

「ここは……

 そのプログラムは、ドーザーを、それ自身にとってドーザーとして成り立たせるためのアイデンティティ定義用プログラム。これがないと、ドーザーは主人と自分の認識を混同してしまう欠陥があった。

「いつもの、家、ですよね……?」

 プログラマが納期に迫られ、間に合わせで用意したそれは、ドーザーが経験したものから仮想現実を構築し、ドーザーが知っている人物を登場させ、ドーザーが記憶した思考パターンを埋め込みシミュレーションする。

「ご主人様、ご主人様はどこですか……?」

 いわゆる『夢』。関節のモータをすべて切っているという条件で、ドーザーに自由思考が許された空間だった。

「あれ、この体は……?」

 その中では、ドーザーが最も適していると思った条件が全てあてはめられる。そして、機械の体では実施できないことが多い。

「人間のメイドさん……ですか?」

 それ、いや彼女は、人間の女性の姿として現れていたのだった。

「あ、朝ご飯のしたくをしないと」ロボットの体ではできない料理。作った経験もないが、ご主人様の役に立ちたいという願いが、彼女の体を動かす。

 冷蔵庫まで歩いていく。いつもキャタピラの『足』で移動するところを、人間と同じように一歩一歩、歩んでいく。
「あ、ちょうど食材がありますね」

 本当に、ちょうどそろっている食材を取り出し、まな板の上に乗せる。包丁を持って、料理を進めていく。彼女の中で、気分が高揚していく。実際のところ、日ごろの実行不可能な命令によるエラーログが、この行為で解消されていくだけなのだが。

「さあ、できました」彼女の目の前には、おいしそうに調理された朝食が出来上がっていた。いつの間にか、コーヒーやヨーグルトまで用意されているが、彼女は気にしない。

「おはよう、ドーザー」
「あ、おはようございます」普段はありえない挨拶のシーン。一人で黙々と、自分で作った朝食を食べる主人と、朝のドラマから学んだシーンを組み合わせて再現しているだけだ。

「やっぱり、ドーザーが作る料理が一番うまいな、さすがだ」
「恐縮です」
 主人がおいしそうに朝食を食べる様を見守るドーザー。幸せのひとときは、ゆっくりと過ぎていく。

 朝食の片付けが済んだあとは洗濯と掃除だ。だが、不思議なことに、洗濯物はいつの間にか干され、部屋が隅々までピカピカになっていた。

「今日は出かけようか」
「えっ、ご主人様?」

テレビを見ながら、主人が何気なく彼女を誘う。画面には、電車で一時間ほどのところにあるテーマパークが映っている。

「いい天気だし、どうかな」
「は、はい!すぐに着替えてきます!」

 主人とドーザーしか住んでいないこの家。だがレディースの服は当然のようにそこにあった。それを手早く着る。

「そ、そういえば、ご主人様の服を先に用意するべきでした……初めてのことだから慌ててしまいましたね……
「それは心配ないぞ」

 いつの間にか、後ろに立っている主人はもう晴れ着を着ている。見たことのあるような、ないような明るめの服だ。

「さあ、行くか」
「は、はい!」

 テーマパークへと足を運んだ二人は、様々なアトラクションを楽しんだ。コーヒーカップのような落ち着いたものから、ローラーコースターまで。ロボットの体では、どうしても乗れないものがたくさんあった。

「楽しめてるか?」
「はい、とても!連れてきてくださって、ありがとうございます!ご主人様」

 夜になり、花火を観覧車から見ながら、二人は語り合っていた。

「でもそろそろ、終わり、なんですよね」
「ん、なんだ?急に」

 ドーザーの中に、何かを失う前のつらい感情が生まれていた。彼女は、思い出しかけていた。前回の「夢」のことを。花火で終わった、一つの物語のことを。

「分かってるんです、私。ご主人様が、本当のご主人様でないこと、この世界も、私の中でシミュレーションした世界だっていうこと」
「ドーザー……

 しかし、ドーザーは笑顔で続ける。

「でも、やっぱり、私がご主人様を好きなことを思い出させてくれるこの世界は、大好きです」
……
「だから、最後に……

 ドーザーは、主人の虚像に、口づけをした。

「これくらい、許して下さいね、ご主人様」

 ひときわ大きな花火が炸裂すると、世界は真っ白な光に包まれた。

 ――

『ドーザー、起動しました』
「服を用意してくれ、ドーザー」

ドーザーの中で、数秒前まで存在した世界は消去された。体中の様々なサーボモータやセンサからの信号処理をするのに、「無駄」なデータはいらない。

『好きです、ご主人様』

ただ、その「記憶」の残滓(ざんし)は、ドーザーの音声コンピュータを動かすに足りた。 「ん?……あぁ、俺もだ。がんばってくれよ、俺のドーザー」


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