X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

作品№12 「私の夢」

全体公開 4591文字
2018-10-23 23:36:18

駆逐艦、電の葛藤を描いた作品です。艦これSSです

Posted by @myon34

 夜二十二時。太陽はとうに沈み、月明りと星々が世界を彩る頃。暁型四番艦、電は人知れず港を歩いていた。
(……綺麗)
 眠れなかった。さして珍しいことではない。しかし、今日に限っては、何故か心の中を不安が渦巻いていた。夜風に当たれば、くすんだ心も少しくらいは晴れるかもしれない。不安の正体も分かるかもしれない。そんな気分転換だった。
(海も、空も、星も、本当はこんなに綺麗で……)
 こんな時に思いを馳せるのは、いつだって戦いに赴く自分の姿。
 多くの命を救いたい。そんな大義名分が、小さな自分を突き動かしている。しかし、言葉の重みは、不意に自分を押しつぶす。責任、重圧、

ーー奪った敵艦の命の数。

 本当は、戦いたくなんて無い。命を奪いながら、命を救いたいと願い続ける日々に、使命と本音が、常に葛藤していた。こうして悩んで一人の時間を過ごすのだって、もう何度目かも分からない。しかし、何度悩んでも、答えは出なかった。
……さむっ」
 少し強い向かい風が、声をあげて電の頬を撫でた。案ずるな、とでも言われているようだ。気にしたところで、これまでのことも、これからのことも、変わることは無い。
(早く戻らないと、お休みする時間も無くなっちゃうのです)
 こうして悩みの種を心の内に仕舞って、いつも通りの日常に戻るのも、何度目か分からない。けれど、それで良いんだと思えるから。今日も悩む自分を夜の所為にして、眠ってしまおうと思った。
 しかし、この夜は、いつもと違った。
……あれ、は」
 工廠から、小さな作業員……妖精が何人も出てくるのが見えた。どうやら一仕事終えて休憩をするところらしい。
(こんな時間まで……)
 工廠の外で妖精が夜風を浴びたり、コーヒーを飲んで休憩したり。毎日見かけるはずの、そんな光景に、電は何故だか惹かれて工廠へと足を運んだ。
(休憩の邪魔は、しないように……)
 特に何をするわけでもなく、電は工廠から少し離れたところで、妖精の休憩を眺めていた。楽しそうに話している姿や、疲れ切った顔で溜息を吐く姿など、妖精とは言え人間とさして変わらない生活模様が、そこにはあった。
 ふと、一人の妖精が、電の視線に気づく。
(あ……)
 電を見るなり、手をひらひらと振って挨拶をした。電もそれに倣って手を振りながら、その妖精の元へ歩み寄る。
「ごめんなさい、お邪魔するつもりはなかったのです」
 申し訳なさそうに苦笑すると、妖精は気にしていないという風に笑った。そのまま少しの間、他愛のない会話をした後。
「え? あ、建造が終わったんですね」
 妖精が指したのは工廠の中。深夜とはいえ、建造を終えたばかりの工廠からは眩しいほどの光が漏れている。
「ちょっと、中を見ても良いですか? ありがとうございます」
 妖精からの許可を得て、電は中へ入る。こういう時、賑やかな艦娘なら通されないのかもしれない、と心の中で少し笑う。
 見上げるほどの高い天井に、見渡す限りの機械。使い方も分からないような複雑なそれらが、威厳をもって電を迎えた。
(今建造されたということは、一度眠らせておいて、朝になってから秘書艦に案内させるはずなのです。その秘書艦は私だけど……)
 工廠を奥まで歩いたところで、建造用の作業場へと辿り着く。鉄製の自動扉と、左には「建造完了」の文字。勤務中によく見る光景が、今日はまるで違う世界に見えた。勤務時間外であり、気持ちが違っていることといつもはあるはずの作業音がまったくないからだろう。
 (この中に……)
 無意識だった。何を考えるより先に、電の足は動いた。
 自動扉が開く、その音にさえ驚くほどに、電の足は無意識に動いた。
……

 中へ入る。数歩進むと、背後で扉が閉まる音がした。
 息が詰まるような沈黙と、暗闇に覆われた部屋。それが相まって、いつになく緊張感がある。
 さらに数歩進んだところで、部屋内の照明が点灯する。
(まぶしっ……)
 唐突な明転に、電の視界は慣れるまで数秒を要した。
ゆっくりと目を開け、建造された艦娘を見る。
「あ…………?」
 長い茶髪に小さな体。裸の少女は目を閉じたまま、硬質な椅子の上に座っていた。
 身体は多くの管が繋がれ、その脇に見慣れたセーラー服が置かれている。そして少女の真後ろ、壁に設置されたモニターに表示されているのは、
『残り時間00:00:00 建造:暁型駆逐艦四番艦 電』
「私と、同じ……
 聞いたことはあった。艦娘という、人に近い存在。しかしそれは明確に人とは言えず、艦の記憶と戦闘能力を持った特異な存在である。
 艦の記憶というものは、正確には存在しない。記録として残されているものはあれど、艦は思考回路を有さないためだ。しかし、それほど曖昧であるがゆえに、妖精の力をもって建造された艦娘は、時に同一の艦を対象とした記憶、能力を有する。
(二隻目として建造された艦娘は、所定の手続きをもって改修素材となるか解体する決まりとなっているのです……つまりこの子は……)
 秘書艦として、見たことが無いわけではなかった。ほとんどは報告書の作成と手続きで済ませてしまっているため、その現場もあまり見たは無かったが、それでも事実として知っていた。しかし、いざ自分と同じ姿をする艦娘を前にすると、複雑な心境にならざるを得なかった。
(……この子が目を覚ますのは、私が秘書艦としてここに来る、つまり今から半日後。それまでの干渉は司令官さんの許可を得ないといけない……)
 提督どころか、艦娘さえも寝静まっている時間。本来なら、電もここにいてはいけないはずの時間。電は気分転換というだけで、入れさせてもらったに過ぎない。
(……ごめんなさい、司令官さん)
 しかしこの日だけは、何故かいてもたってもいられなかった。電は工廠の外へと走り出した。

……ありがとうございます。無理を言ってしまって、ごめんなさい、なのです」
 妖精が溜息を吐きながら、苦笑する。そして建造された少女の隣にあった操作盤のスイッチを押した。
 電は妖精へ、少女のスリープ状態の解除を依頼した。後で始末書を書かされる可能性は大いにあったが、普段より模範艦として働く電が起こしたそんな気変わりに、半ば好奇心も混ざりつつ、妖精は承諾した。
 少女の周りの管が外れ、少女の身体は背もたれに力なく傾いた。
……ん」
「あ……
 少女の目が、開く。ゆっくりと、生気を持って。覚醒しきっていない瞳は、どこか虚ろで、感情が少し薄いように感じられる。
「あなた、は……?」
……私は、暁型駆逐艦四番艦の、電です」
……あなたも」
 少女は驚いた表情で電を見つめた。対照的に、電の心の内は、既に冷静だった。
「本当は、建造されたらすぐにお勉強やいろいろ説明をしないといけないのですが……私のわがままを、聞いてほしいのです」
……?」
「私と、少しの間お話してほしいのです」

 港に、セーラー服の少女が二人。まったく同じ外見が、並んで歩いていた。
 冷たい夜風は相変わらず。しかし、先程までとは気分が違った。
「ごめんなさい。勝手に連れ出してしまって」
「いえ……大丈夫なのです。お話、するんでしたよね」
「はい。ちょっと、聞きたいことが合って……
 防波堤に腰かけ、並んで座る。穏やかな波が、心地よく耳に響いている。水平線は、この時間ではよく見えなかった。
「私で良ければ、何でも聞いてください……と言っても、同じ艦ベースで、私より長くここにいるなら、私が言えることは無いと思います……
「いえ、同じ艦をベースにしたあなた(わたし)だからこそ、聞きたいことなのです」
……?」
 深呼吸をひとつ。少し間を空けてから、電は独り言のように語り始める。

「駆逐艦電は、多くの人を助けることを望んでいます。きっと、あなたも同じことを考えていると思うのです」
……ええ」
「でも、実際は海に出て戦わなきゃいけなくて、もちろん敵さんにもいっぱい会います。そしてその敵さんを、倒さなくちゃいけないのです」
……
「助けたいのに、命を奪うのって、どうしたらいいんだろうって……ずっと悩んでいて……
「そう、だったのですか」
「あなたは、どう思いますか?」
 不安げな瞳が、少女に向けられる。
 しかし少女は、落ち着いていた。
「私はまだ、戦ったこともありませんし、過去の記憶と今聞いたことしかわかりませんが……
……

「『電』は、命を救うために戦っているのです」
……命を、救うために」
「助けたいのに命を奪う、は逆なのです。今目の前で襲って来る敵さんを倒さないと、守れない命があるのです」
「あ……
「確かに、全ての命を守りたいのは事実なのです。ですが……私が守れる、守らなければいけない命を、一番大切にしたいのです。思うだけじゃなくて、ちゃんと、行動で……
(……忘れていたのです。一番大切なことを。守るって言うのは、その場で何かをして終わるものじゃなくて、寄り添って、付き合って、少しでも幸せにすること……)

……なんて、私が話せるのはこんなことくらいなのです」
「ありがとう、なのです……おかげで、とっても大事なことを、思い出せました」
「何度も戦いに出ると、苦しいこともあるのです。建造されたばかりの私の話は、きっと初心を思い出す……そんなお話が、出来ましたか?」
「はい。その通りなのです……
 照れくさそうに、電は頬をかいた。
「私からも、一つ聞いてもいいですか?」
「あ、はい……! どうしました?」
「私はあなたと同じ艦をベースにしていますが、私はこれからどうなりますか?」
「あ……
 ほんの一瞬の沈黙。次に言葉を繋げようとした電の目には、既に何かを察した少女の表情があった。
 そっか。少女は小さく呟いた。
「特例が無い限りは……他の艦娘の近代化改修素材となるか、解体……なのです」
 電は俯いた。言葉の一つ一つが、上手く口に出せない。目の前の少女に、死刑宣告でもしているような心苦しさがあった。
「それなら、お願いをしたいのです」
「お願い……?」
 少女はじっと、優しい笑みで電を見つめた。
「私を、あなたの改修素材にしてほしいのです」
……!」
「あなたがちゃんと、初心を忘れないように」
……分かりました。私から、司令官さんにお願いしてみるのです」
ありがとう。そう言うと少女は防波堤を降りた。
「もう夜も遅いですし、今日はお休みしましょう。私も工廠へ戻ります」
「あ、はい……ありがとうございました」
「私の方こそ、貴重な体験をありがとう、なのです」
 電も防波堤を降り、示し合わせたわけでもなく、見つめ合う。
 数秒の沈黙は、何倍の時間にも感じられた。
 最後の一言は、少女からだった。
……また明日、なのです」
 そう言うと、少女は振り返ることなく工廠へと歩いて行った。
「はい。また、明日……

 冷たい夜風が吹いている。
 けれど、電の心は温かかった。
 兵器でもない、しかし人にも成り切れない。
 そんな彼女の「夢」は、再び確固たるものとして動き始めたのだ。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.