@myon34
人は祈る。星に願いを。空に望みを。叶える力なんてないのに――
今日は街のいたるところに笹が飾られている。全国的に晴れの予報ということで例年よりも賑わっているようだ。年に1回の特別な日、普段よりもたくさんの願いがボクらのもとに届く。そんな中ボクはひとりの少女を見ていた。とある病院の一室の窓から両手を合わせ一心に祈っている。毎日同じ時間に、しかも1日もかかさずやっているのだ。ボクが彼女に気づいたのはもうだいぶ前で、もしかしたらもっと前からしていたのかもしれない。彼女の願いをボクは知っている。彼女の願いは――
「...もういいのよ」
「だってママ、わたしのお願いは」
「大丈夫。こんなにも一生懸命お願いしているのだから、お星様はきっと見てくれてるわ」
「...うん。お星さま、はやくわたしのお願いをかなえて...!」
ここはお母さんのいる病院。お母さんの病気が悪くなったらしくて毎日ここですごしている。わたしが幼い頃お母さんがよく『良いことも悪いこともお星様は全部見ているの。あなたが良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが返ってくるよ』と言っていた。だからわたしは良いことをするように心がけ、毎日お星さまにお願いをしている。きっとお星さまならお母さんの病気を治してくれるから。
今日も学校が終わって病院についた。病院と学校を行ったり来たりするのは大変だけど、お母さんと一緒にいられるのだから辛くはない。今日は7月7日、七夕の日。お星さまゼリーをお母さんにプレゼントするために院内のコンビニに寄っていく。これならお母さんも食べられるし喜んでくれるかな、そわそわしながらお母さんの病室に向かうとなんだか騒がしい。最悪の事態が頭をよぎる。わたしは走った、そして勢いよく扉をあけ――
「お母さんっ!!」
響く機械音、叫ぶような医者の声。なにが起きたのかはわからなかった、それでもお母さんの命が危ないというのは誰が見ても明らかだった。
「お母さん!お母さんを助けてください!」
「お嬢さん、大丈夫、お母さんは私たちが助ける。お嬢さんは外で待ってなさい」
突然のできごとに頭が追いつかないまま、今は待機室のベンチに座っている。ふと窓の外を眺めると夕焼けの時間が終わろうとしていた。いつもならばお星さまにお願いをしている時間くらいだろう。わたしは急いでお母さんの病室にもどる。いつものあの場所ならお星さまもすぐ見つけてくれるだろう。こんな時こそ…どうか、お願いします...お星さま!
…彼女の様子がおかしい。いつもなら数分で祈りをやめ、母親のもとに戻っているのに、今日は両手を合わせてから微動だにしない。そしてボクは彼女の願いから異変のわけを理解した。ボクたちは無力だ。人は星に祈る。しかし神とは違って信仰を力に、なんてできないし、願いを叶えることなんてできないのだ。古来より人が星に願うのは『頑張るからお星さま見ててね!』という意味合いが強い。ボクたちは無力だ。それでも毎日祈ってくれた彼女のために、ボクからできることを。人の見る夢は本人の願望が反映されることがあるらしい。それならばボクは――
人は夢を見る。星に願いを。空に祈りを。
星は夢を見る。穹に願いを。天に祈りを。
彼女の願いが届かないのなら、彼女とボク(ふたり)の夢(ねがい)を、ボクが届けよう。
それは星の降る美しい夜のことだった。
「お母さん…今日ね、夢を見たんだ。お星さまがお母さんの病気を治してくれたんだ…わたしのお願いがついに届いたんだよ。…だから、お母さん…起きてよ……」
結局ボクは無力だった。次の日の夜、病室を覗きこむと、もう誰もいなくなっていた。寂れた病室の窓際に1枚の短冊が落ちていた。
『お星さま、どうかお母さんと一緒にいてあげてください』
ボクでなければ叶えられないこの夢(ねがい) 今度こそ―――