@myon34
吾輩には夢がある、無限の空を飛び回ると。
吾輩には夢がある、広大な海へ旅に出ると。
吾輩には――――。
ふと目を開けると見慣れた庭が目に入ってきた。
どうやら知らないうちに縁側で寝てしまっていたらしい。
歳のせいか、少し暖かくなるとすぐに眠ってしまう。
「ひぃちゃんや、お水飲むかい?」
寝惚け眼で部屋に目をやると、婆さんがお水を持ってきてくれた。
婆さんは昔より動きがゆっくりになったが、今でも家の事は自分でやりたがる。
息子夫婦が孫を連れて来たときもご飯の用意をしようとする、とても元気な婆さんだ。
しばらく前になるが、婆さんは1人で子どもを育てていた。そんな中、吾輩がこの家に来た。
忙しい婆さんの代わりに子どもと遊び、喧嘩をしたら慰め、寝食を共にした。
みんなが家族のように吾輩と接してくれた。
子どもが成人して居なくなってからは、婆さんと普通の生活を送っていた。
朝起きて、ご飯を食べ、お昼寝をする・・・目が悪くなっていた吾輩はあまり動かず、景色も変わらない日々を過ごすだけ。
「ひぃちゃん、病院はどうだったの?」
とても優しい声で婆さんが話しかけてくる。
何を隠そう吾輩は大の病院嫌いだ、昔は抵抗の意志を見せ、絶対に動こうとしなかった。
今?今は・・・息子夫婦のなすがままにされている。年齢もそうだが、思うように身体が動かない。
昔は嫌いだった注射も、今は壁を見つめていたら気づいたら終わるようになってしまった。
「ひぃちゃんが元気でいてくれると、私も頑張れる気がするのよ?」
優しい声のまま婆さんが呟いた、吾輩は振り向かない。
頷いてしまうとどこか消えてしまいそうに感じたからだ。
「ひぃちゃんが居てくれたからここまで頑張ってこれたよ、ありがとう」
婆さんの言葉にビクッとした、まるでお別れの言葉のように感じた。
待て、吾輩は何もしていない。何もしてやれていない。
吾輩の思うまま、ただ自由に暮らしているだけだ。
なにか恩返しをしたい・・・しかし、吾輩の身体はもう動けそうにない。
若い頃は何にもとらわれず、ただただ自由が欲しかった。
そして知らない世界へと旅立つ、そんな夢を持っていた。
今の夢は違う、若い自分に鼻で笑われるかもしれないが、もっと…もっと素朴なもの。
吾輩には夢がある、また婆さんに会うと。
吾輩には夢がある、次は吾輩が世話をすると。
吾輩には夢が――――。