@roco_buturi
「…………そっか、じゃあ君はマノンじゃなかったんだ」
「はい、私は……本当は胡堂彩羽です」
向かいに座っているナイン・テイル=ココノツのその言葉に、私は頷いた。
『NEXT』事件が収束し、私の『目的』は達成された。
その先なんてないものだ、と思っていたんだけど……あの子にああいわれちゃ、そうもいかない。
あの後、『クリプト』は解散して、残った主要社員たちは新たに会社を立ち上げて再スタートを切ったとのことだ。
私のことも知られたので声もかけられたけど…………私は断った。
今の彼らに私は必要じゃないと思ったし、何より……今の私がやりたいことは『そちら』ではない。
『バリエル』の特殊部隊からも記憶消去と引き換えに退役できた。
どこまで記憶を消されるのか、と思ったが今となってはどの程度消えたかもわからない。
少なくとも今後の生活に支障をきたすものでもなかったようだ。
イツビ組の隊長たちにも話は通って……今は正式な隊員。
一緒に掛け合ってくれた副隊長には感謝する必要が出てきてしまった。
引っ越しの手続きも進めて、新しい生活への準備は万全。
なのだけど、やっぱりあの人にもすべてを話しておかないと。
この島に残るのなら、けじめをつけないといけないから。
だから私は一度本土に戻って私を引き取ったナイン・テイル=ココノツに会いに行った。
そして、私の正体について、今までやってきたことについてを明かした。
「申し訳ございません……結果的に、貴方を騙していました」
ナインは話を聞いていて驚いていた、当然だ。
事故で引き取ったはずの親戚がとっくに死んでいて、ここにいるマノンは別人だったのだから。
「…………大丈夫、そんな深々と謝らなくてもいいって」
「え……?」
「もちろん、今の話はすっごく驚いたけどね、マノンがここにいないってのはショックだったし」
「でもね、聞いてて不思議と納得しちゃってね、やっぱそうだったんだって」
「ほら、記憶喪失だったとしても……なんか雰囲気とか、昔と違ってたから?」
「…………むむむ」
「なんてっ……私の方こそごめんね。あまり力になれてなかったから」
「そんなことありませんよ」
だって、貴方たちを巻き込みたくなかったから。
「…………だから、お姉さんはわかってるって」
なのに、私なんかのために、こんなに笑ってくれて。
「じゃ、これまでの話はここまででおしまいにしちゃって」
「彩羽って呼んでいいよね、これからはどうするの?」
「……常夏島に残りたいと思っています」
「あそこは……私にとってかけがえのない故郷ですから」
「…………ん、決めてるならしょうがないや」
「この前もそうだけど……向こうで友達一杯作ったみたいだしね」
「それなら、私は止めないわよ……もちろん寂しいけどね」
「……はい」
「でも、たまにはこっちに戻ってきてもいいからね」
「マノンじゃなかったけど、今はもう君も家族なんだから」
「…………ありがとうございます」
「あ、でも無理しちゃダメよ?身体張るお仕事なんでしょ?」
「ちゃんと戻ってくるときには元気な姿でね、それが私とのルールだから!」
「……当然です」
その夜は久々の『我が家』に泊まった。
ナインたちに、これまでの思い出を話して、常夏島のみんなの事を紹介して。
翌日常夏島へと戻るときには名残惜しさに泣きつかれてしまってこちらが疲れてしまった。
ありがとうございます、ナイン。
私にも、帰りを待ってくれる人がいたのですね。