@toasdm
コンビニに並ぶスイーツの色が清涼感のあるクリアなブルーから、こっくりとしたベイクドカラーに塗り替えられて、街路のあちこちにはオレンジ色のカボチャが並ぶ。おどろおどろしいモンスターやお化けモチーフの飾りがぶら下がり、もうすっかり、ここ最近は日本の文化に定着したハロウィンがやってくる。
「仮装ー?」
「はい。きっと、想楽さんにはぴったりだと思うんです」
そういって差し出したのは、先日たまたま百円ショップで見つけたかぼちゃの被り物だ。相変わらずすごい趣味だよねー、と苦笑して、その被り物をとりあえず被って、想楽さんは困った顔でこちらをみている。
「明らかにサイズが合ってないよねー……」
「百円じゃこうなっちゃうのかなぁ……」
そういう問題じゃないと思うけど、とそれをテーブルに置いて、想楽さんはスマートフォンを取り出す。
「バーチャル仮装なら無料だけどねー」
トントンと画面をタップして、想楽さんは自撮りアプリを起動する。インカメラに切り替えて画面を顔より少し高い位置に掲げると、またトントン、とアイコンをタップして、想楽さんはスタンプを選んだ。
「そうだなぁー、例えばー……」
顔の位置を自動で認識してスタンプをリアルタイムに合成してくれる機能、そういえば、最近のアプリにはそんなのもあったような気がして、私も画面を覗き込む。
「ふふ、一緒に撮ろっかー?」
「え、あ、いやあの、私は」
ぐい、と肩を抱き寄せられて、画面には慌てたような私の顔と、にんまりと嬉しそうな想楽さんの顔とが並ぶ。
「にゃんこー」
パッ、と並んだ二つの顔、頬には手書きのような猫のヒゲ、鼻の位置には猫の鼻。髪の毛の生え際にはふわふわとした印象の猫の耳が合成される。
「にゃー」
画面の中の想楽さんが、手を猫のようにくいくいと動かしてにっこりと笑う。プロデューサーさんもだよー、と促されたけど、うわ、これ、恥ずかしい……!
「にゃ、にゃぁー……」
「っふふ」
私の精一杯のにゃーを笑って、想楽さんはシャッターボタンをタップする。撮影された画像は、仲良く並んだバーチャル仮装の私と想楽さん。迷うことなくそれを保存して、想楽さんはまた別なアイコンをタップする。
「これとかー」
「ドラキュラ……?」
「あ、プロデューサーさんはこれかなー?」
「うわ、ウサギの耳生えた!」
画面の中の私の頭に、小さめながらもぴょこぴょこと動く、ウサギの耳が生えてくる。可愛いー、と想楽さんが画面を確認しながら私の頭に生えた、そのウサギの耳をさわさわと撫でている。
「ふ、ふへ、ひゃっ、な、なんか、くすぐったい、です……!」
「実際生えてるわけじゃないのにー?」
「んんん、だ、だってぇ……なんか、なんか……っひゃ!」
けらけらと笑う想楽さんと、真っ赤になった私の画像が躊躇なく保存される。あとで送るよー、と嬉しそうな想楽さんは、まだ画面の中でウサギの耳を生やしている。
「あの、こう…………こういう、感覚、でして……」
「…………うわ、なんか、ちょっと、わかったかもー……」
画面の中の私の手が想楽さんのウサギの耳を掠めた瞬間、想楽さんは思わず肩をすくめた。くすぐったいねー、と困ったような顔をした想楽さんが、今度は別な、全体をキラキラしたハートが舞い散るスタンプに切り替えた。
「はい、これでラブラブだよー」
「ら、ラブラブ……」
気恥ずかしさここに極まれり、とでも言わんばかりの特大の恥ずかしさが、画面のリアルタイム補正を上回る勢いで私の頬に真っ赤なチークを乗せていく。
「ラブラブっていったら、することはひとつだよねー……?」
「……っ!」
チラチラと、画面を横目で確認している想楽さんの唇が、ゆっくりと私の頬に寄せられる。恥ずかしさに閉じた目は何も見えないけれど、確かに触れた唇の感触に小さく声を上げたのと同時に。
カシャ。
「……ふふふ、撮っちゃった」
目を開けると、にんまりと、極上の笑み。消して、とは、言い出せなかった。