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[雨P♀]手編みのセーター

全体公開 1739文字
2018-11-06 12:46:27

「参った……。してやられたよ、お前さんには」

Pさんに手編みのセーターをリクエストした雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 してやられた。
 真っ赤になった雨彦は、テーブルに突っ伏した。
 向かいの彼女も真っ赤だが、どこか誇らしげでもあり、二人は嬉しそうでもあった。

 事の発端は半月ほど前に遡る。雨彦が彼女に、なんとはなしに言った一言が原因だ。単に憧れていたというのももちろんあるが、雨彦は彼女に、手編みのセーターをリクエストした。
「誕生日プレゼントとかクリスマスプレゼントとか、そういう記念日関係ではなく、ですか?」
「好いた女が自分の為に用意してくれたもんを身につけたいと思うのは、おかしくはないだろう?」
 そうだな、と少し考えて、雨彦はちらりとカレンダーを見る。自分の誕生日からは少しだけ離れていて、クリスマスにはまだ遠い。確かに、なにか特別な意味を込めたプレゼントというわけにはいかないだろうが、それでも、雨彦は彼女の反応に気をよくして笑った。
「できない、と言わないところをみると、お前さん編むことはできるんだな」
「う……し、素人の、手習いですけど……一応……
 編めます、と消えそうな声で呟いた彼女の頭をぽんと撫でて、楽しみにしてる、と雨彦は彼女に全てを託した。
 それから半月の間、たまに編みかけのセーターを肩にあてられたり、色の好みを聞かれたりもしたが、雨彦は全容を把握できないまま期待感だけを募らせて過ごした。ちらりと見えたそれは薄いアイボリーのシンプルな糸で編みたてられていて、出来上がるまではナイショです、と目を閉じるように言われていたから見ることはかなわなかったが、背中にあたる凹凸からいって、恐らくは、何らかの編み模様が施されているようだった。楽しみだ、とにやける口元を隠そうともせず、雨彦は一日千秋の思いでセーターの完成を待ち望んでいた。
 そして、今日。
 とうとう、彼女が丁寧にラッピングされたセーターを雨彦に手渡してくれた。
「あまり、上手ではないかもしれませんが……
 どうぞ、と差し出されたそれを受け取る手が、歓喜で震えていることに雨彦は溜め息をつくしかなかった。たかがセーター一枚、されどセーター一枚。彼女が一目ひとめ自分の為に編みこんでくれたそれを、どんな顔をして受け取ればよかったのだろうか。他にどんな顔があったというのだろうか。ニヤニヤとだらしない顔になっている自分の頬をぺちんと一度平手で打って、急く手でラッピングを丁寧に解く。クリスマスにはまだ早いものの、クリスマスカラーの深い緑色は最近街でよく見かけるようになった。金色のリボンをするりと解き、雨彦はゴクリと喉を鳴らして、指先でそっと、包みを開く。
…………へぇ」
 今にして思えば、もっと気の利いたことが言えたはずだ、と雨彦は少し後悔したが、それでも、その時の雨彦にはそれが精一杯だった。
「凝ってるな。お前さん、器用だ」
「サイズ、多分ぴったりだと思います……
 試着を促されて、広げたセーターに恐る恐る袖を通す。ハイネックの首元はゆるく立ち上がっていて、ふわりと纏わせるように形を整えてくれた彼女が、にっこりと微笑んでほっと溜め息をついている。
「よかった……似合う……
「着丈も身幅も、袖もちょうどいいな」
 何度も合わせてくれていたからだろう、雨彦の為のフルオーダーは本当に、ぴったりだった。ケーブル模様もきっちり整えられていて、店頭に並んでいたとしても引けはとらない出来に見えたし、なによりも――
……お前さんの、手編みのセーター、か」
 嬉しいぜ、と自身の身体ごと、まるで宝物でも扱うかのように雨彦はセーターを抱きしめた。
…………で、あの……
 実は、と彼女は、テーブルの下からニットの塊を取り出して、そっとテーブルに置く。
……………………は?」
「毛糸が余ったんです!」
 真っ赤になった彼女が広げたそれは、今雨彦が着ているものと、同じ素材、同じデザイン。違うのは、サイズだけ。つまり――
「は……はは……揃い、かい…………?」
 真っ赤になって頷く彼女を目の前に、雨彦はテーブルに突っ伏して呟いた。
「参った……。してやられたよ、お前さんには」
 二枚のセーターが、真っ赤になった二人の間で、ほっこりとした冬を、約束してくれているようだった。


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