@toasdm
吹く風の冷たさは日毎に増して、木枯らしが街から奪った緑の代わりに、あちこちに飾り付けられたクリスマスツリーの深緑には、赤や金が舞う。今年は何を贈ろうか、あの人はどんなもので喜んでくれるだろうか、と、行き交う人々の笑顔にどこか幸せな雰囲気を感じてクリスは、ふっ、と目を細めて笑った。
「私もそろそろ、贈り物を決めておかなければなりませんね……」
独り言は白い息になって、雑踏の中に紛れて消える。決めなければ、とは言ったものの、何を贈るかはもう決まっていて、あとはそれを探すだけなのだが――…。
「……やはり、どこにもないのでしょうか」
百貨店や雑貨店を軒並み訪ねて歩いてはそれと似たようなものを見つけはするものの、どれもクリスの求めるものには少し足りない。主に、長さが。今日も収穫ナシですね、と苦笑して百貨店のエスカレーターを降りている時、ふ、と目に入ったのは手芸コーナーだ。この時期らしくベイクドカラーでまとめられた温もり溢れる店先のディスプレイの中に、ふっくらとした毛糸玉と編み針があって、クリスは思わずエスカレーターを逆走しそうになり、寸でのところで踏みとどまった。行儀良くエスカレーターから降りてすぐさま真裏に回って、今通り過ぎた階の手芸コーナーへと向かう上りエスカレーターだけは行儀悪く、その長い脚で二段ほど段差を飛ばして駆け上がってしまったが。
「これなら……!!」
手芸コーナーにたどり着いたクリスは毛糸玉と編み針一式、それと本とを抱きしめてぱぁっと笑顔を咲かせた。百貨店から出てきたクリスは紙袋の中に、詰め込んでいた。
「ないのであれば、作ればよいのですよ……!」
企みと、夢と希望を、詰め込んでいたのだ。
「お疲れ様です、プロデューサーさん」
うきうきとした足取りは見なくてもわかる。靴音と、声音。お疲れ様ですと返した彼女が振り向けば、やはりそこには期待通りの、思っていた通りの嬉しそうなクリスの姿があった。
「クリスマスプレゼントをお持ちいたしましたよ」
「え? クリスマス?」
まだ先ですよ、と返した彼女の目の前で、クリスは紙袋からふわりと――…。
「マフラー、手編みに初挑戦してみたのです」
「えぇっ!?」
情報過多で追いつかない、と目を瞬かせる彼女の前で、クリスはマフラーを広げる。
「ってか長っ!!」
「ええ! この長さが欲しくて、ですがどこでも取り扱いがなかったもので」
まさか、とマフラーとクリスとを見比べる彼女の前で、この冬一番の笑顔が輝く。
「ふふふ、はい! ないのであれば、作るまでです!」
驚くほどの行動力、溢れんばかりの好奇心、そしてなによりクリスからは、最愛の彼女へ向けた、絶え間なく押し寄せる波のような愛情があった。
「匠の処女作ですよ」
「……っふふ」
自分で言うんですか、と笑う彼女の首に、クリスはマフラーの端を巻きつける。
「自画自賛になってしまいますが、上出来だと思うのです」
ふわふわと、毛足の長いニットの素材が心地よい。形もきちんと整えられていて、確かにこれは、誰かに自慢したくなるような出来栄えだと、彼女も素直に思った。
「でもこれ、長すぎ……えっ!?」
「さあ、立って下さい」
問答無用で手を引かれ、彼女は立ち上がらせられる。反対の端を首に巻きつけたクリスはにっこりと微笑んで、立ち上がった彼女の肩を抱き寄せて、耳打ちした。
「恋人巻き、と、言うのですよね?」
憧れていたのです、とはにかんだクリスよりも恥ずかしそうな彼女があわあわとしている間に、クリスはそのまま事務所の中を歩き回る。
「身長差がありますから、ある程度の長さが必要だったのです。これなら座ることだってできますよ!」
あまりにも嬉しそうなクリスの様子に、彼女はツッコミすら入れられず黙ってついて歩き、二人でソファに腰掛ける。
「……はぁ。満足です」
ワントーン落ちた声の調子に、彼女は思わず隣のクリスを見上げた。目の下のクマ、少しだけ充血した目、もしかして――…。
「ふふふ……どうしても、早くあなたとこうしたくて、徹夜が続いてしまいましたよ」
少しだけ休ませてくださいね、と彼女の肩にもたれたクリスが、すぅすぅと穏やかな寝息を立てるまで、時計の秒針は一周できなかった。思い込んだら真っ直ぐな人、とくすくす笑う彼女は赤面しながらも、ありがとうございますと呟いて、眠るクリスの髪をそっと撫でた。
メリヤス編みの優しさが、しばしの休息を、二人にそっともたらしていた。