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[次郎P♀]魔法使い次郎

全体公開 1 1678文字
2018-11-15 12:47:45

「さて、化学のお勉強だ」

使い捨てカイロの原理について説明とかしたりするじろちゃんのお話です。

Posted by @toasdm

 寒い寒いと手をすり合わせて、彼女は次郎にしがみつく。夜更け過ぎに雪になった冷たい雨は二人の頭と肩に冬を届けて、初雪ねぇ、と空を見上げた次郎の頬にも、ぽつりと落ちて解けて流れた。
「プロデューサーちゃんも、人気がないと大胆だよねぇ」
「っふふ、寒さを口実にしてるんですよ」
 初雪を手に受ける彼女は次郎の腕にぶら下がったまま、嬉しそうに跳ねている。はしゃいじゃってまー、可愛い、と人気がないのをいい事に、次郎も大胆に彼女の頬にキスをする。
「初雪ではしゃぐのは若い証拠、ってね」
「次郎さんははしゃがないんですか?」
「んー? おじさんくらいになっちゃうと、寒いとか面倒とかそっちの方が強くなっちゃうからさ」
 たはは、と笑う吐息も、降り始めた雪と同じくらい白い。手袋持ってきたらよかった、と次郎のポケットに遠慮なく手を突っ込んだ彼女は、その温もりに思わず声を上げる。
「あ、次郎さんずるい! カイロ持ってる!」
「あ、バレちゃった?」
 へらっと笑ってポケットから取り出した使い捨てカイロを見せびらかすと、次郎は彼女の冷えた手にそれを持たせてやる。携帯サイズの温もりに頬をすり寄せながら、あったかぁい、と目を細めた彼女の頭をぽんとひとなでして、次郎はまだぬくもりの残るポケットに手を入れた。
「さて、化学のお勉強だ」
「う」
 たまにこうして突発的に始まる昔取った杵柄は、彼女にとって楽しみでもあり恥ずかしさでもあった。毎度もっとちゃんと勉強しておけばよかった、とばつの悪そうな顔をする彼女を見下ろしながら、次郎は続けた。
「どうしてカイロってあったかくなるんだろうねぇ?」
「え……原理?」
 原理なら知ってる、と彼女は自信を取り戻す。得意げな顔をして次郎を見上げて、彼女は自信満々に答えた。
「中に入ってる鉄粉が酸化するときの熱を利用してるから……ですよね?」
「おー、さっすがプロデューサーちゃん、偉い偉い」
 大きな手がわしわしと、彼女の優秀な頭を褒める。えへへ、と目尻を下げた彼女がカイロをぎゅっと握り締めて、ご褒美は?と次郎を見上げるが、次郎の表情はいっそう意地悪く、まだ続きがあるんだけどねぇ、とニヤニヤしている。
「じゃあカイロの酸化反応の化学式は?」
…………え!?」
「化学反応なんだから式で表せるでしょ? ほら、鉄の元素記号は?」
「えっと、えっと……Fe」
「そーそ。 カイロは鉄の酸化だから、酸化に必要なのは酸素だよねぇ」
「酸化、サビだから、ええと……
 徐々に困り顔になっていく彼女が愛おしくてたまらない、と次郎は思わず抱きしめる。降参です、と胸板に顔を埋めた彼女をぎゅっと抱いて、次郎は言う。
「鉄と酸素と水を反応させて、水酸化第2鉄とカロリーを得てんの、だから……
 道端に止めてあった車の窓ガラスが凍っているのをちょうどいいと、次郎はそこに近付いてさらさらと公式を書きだした。
「Fe+3/4O2+3/2H2O、これがFe(OH)3とえーと、モルで96kcal/mol、か……
……なんか、呪文みたい」
「そ。実はおじさん魔法使いなのよ」
 びっくりしちゃった?とおどけて笑う次郎につられて、抱きしめられた腕の中で彼女も笑う。
「魔法使いさん魔法使いさん、寒いのであったまる魔法をかけてください」
「いいよ、じゃあ魔法をかけるから目、瞑ってて」
 秘密の呪文をとなえましょう、とわざとらしく尊大に言う次郎をくすくすと笑い、彼女は大人しく目を閉じる。いい子だねぇ、と腕に彼女を閉じ込めて、次郎は耳元に呪文を紡いだ。

……愛してる、早くおうち帰ってあっためあおっか?」

 びくりと体を震わせて、紡がれた言葉に染まった赤い顔を上げた彼女の唇に、次郎は優しくキスをする。暖めあう、の意味はつまり、そういうことで、あっているのかと聞くに聞けない彼女を解放して、次郎はカイロごと彼女の手を自分のコートのポケットにしまいこんだ。
「魔法、効いた?」
 へらっと笑う次郎に、彼女は黙って頷いて、ついて歩くしかなかった。


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