幸せのかたち〜文学少女の日記 Part.13〜

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2018-11-18 19:14:21

大切な人と過ごす時間は、何よりも代えがたいものである。
鈴の図書館物語、第13話。

Posted by @natsu_luv

段々と頬を刺す風がひんやりとしてきた。
図書館の中庭にある木々も紅く色付いて、葉の舞い落ちる姿が景色を彩る。
今日の潜書は午前だけで、午後からは半休だ。
清々しいほどの秋晴れだから、外出する文豪たちも多い。
私はお茶会の準備をするために、キッチンの近くで使う茶葉とお菓子のメニューを考えていた。
その時、左千ちゃんが牛乳の入ったタンクを持って食堂にやって来た。
どうやら、図書館の近くで飼っている牛からの恵みのようだ。

「司書さん、お茶会のメニューを考えてるの?」
「そうだよ。あっ、美味しそうな牛乳だね!」
「せっかくだから、この牛乳で美味しいミルクティーを作ってほしいなぁ」
「うん、とびっきりのミルクティーをみんなに作るね。左千ちゃん、ありがとう」

タンクからほんのりと甘い香りが漂う。
きっと、この牛乳で作るミルクティーは美味しいのだろう。
ミルクティーにはアッサムかウバがぴったりだ。
ちょうど、アッサム茶葉の缶があることを思い出した。
お茶会に出す紅茶の茶葉が決まった。
肝心のお菓子を何にしようか考えていた時、外で野球をしていた虚子くんと碧梧桐くんが姿を現した。

「おっ、お茶会の準備かい? いいねぇ、楽しみにしてるよ」
「そういえば、この間食べた白桃のモンブランが美味かったな。改めて礼を言う」
「ふたりともありがとう。今日のお茶会も楽しみにしててね」

最近この図書館にやって来たばかりの虚子くんと碧梧桐くんも、お茶会の時間が好きになったようだ。
ふたりとも楽しみにしている様子で席に着いていた。
お茶会のお菓子を決めるために、私はキッチンの冷蔵庫へと向かった。
その途中で、食堂のおばちゃんの困り果てた声が聞こえた。

「困ったわ。この卵、どうしましょう……
「どうかしましたか?」
「卵の発注数をひと桁間違えてしまったの。しばらく、小鉢が卵料理ばかりになるわね」
「おばちゃん、この卵をお茶会のお菓子に使ってもいいですか?」

卵の入ったケースがキッチンの床を埋めようとする勢いで積み上がっている。
ちょうど左千ちゃんが持ってきた牛乳も沢山ある。
たっぷりの卵と牛乳を見た時、お茶会に出すお菓子が決まった。
今日のお菓子はカスタードプリンにしよう。
早速、私は準備に取り掛かろうとした。
その時、私と食堂のおばちゃんのやり取りを聞いていた虚子くんと碧梧桐くんが声を掛けてきた。

「司書さん、俺たちも手伝っていいかな?」
「子規さんに美味いものをご馳走したいんだ」
「えっ、いいの⁉︎ ありがとう!」
「司書さん、ボクも手伝うよ」
「わかった。みんなで美味しいプリンを作ろう!」
「先生方、私からもお礼を申し上げます。とても助かります」

食堂のおばちゃんがほっとした表情を浮かべていた。
エプロンを身につけ、十分に手洗いを済ませて、カスタードプリンの調理開始。
まずは、虚子くんに牛乳を沸騰させない程度に温めてもらった。
それから、卵液と温まった牛乳を混ぜ合わせてもらう工程を碧梧桐くんに頼んだ。
左千ちゃんには砂糖を煮詰めてもらってカラメル作りをお願いした。
その間に、私は蒸し器とプリンの型の準備を進めた。

「司書さん、砂糖の色が茶色になったよ」
「良い感じだね。じゃあ、この型に入れようか」
「卵と牛乳を混ぜたのが出来たよ」
「ありがとう。この中に入れてね」
「上手く出来ると良いのだが……

型にプリンの液を流し込んで、蒸し器にかけた。
蒸し上がったプリンの粗熱を取り、冷蔵庫で冷やしておく。
しばらくして、食べ頃になったプリンを型から出してみた。
一見、綺麗に仕上がっているかのように見えたけれど、虚子くんが何処か神妙な面持ちをしていた。
虚子くんの視線の先にあるプリンは、穴だらけで『す』が入った状態だったのだ。

「これだと見た目が悪いな……。子規さんには綺麗なものを食べてもらいたい」
「作り直した方がいいね」
「だけど、捨てるわけにもいかないしなぁ……
「そうだね。あれ、あなた達は……?」

思い悩んでいた私達の近くに、カッパワニちゃんとカワウソくんが現れた。
「失敗作のプリンは自分たちが食べるから、心配しなくていい」とジェスチャーを使って話してくれた。
頼もしいなと思っていた私の後ろで、虚子くんと碧梧桐くんが震えていた。

「きよ、何か変な生き物がいるよ〜!」
「大丈夫だよ。この子たち怖くないよ」
「この子たち、中庭の住人なんだよね」
「中庭にこんな生き物がいるのか……

虚子くんが気の抜けた声でそう呟いた。
私達は気を取り直して、プリンを作り直した。
今度は表面もなめらかで、綺麗に仕上がった。
碧梧桐くんが果物とデコペンを使って、プリンを可愛らしく盛り付けていった。
正岡先生に出す分のプリンのお皿には、ボールとバットが描かれていた。
私は左千ちゃんのリクエストであるロイヤルミルクティー作りに取り掛かった。
お湯をかけた茶葉を鍋に入った牛乳の中に入れて、そのまま火にかけた。
煮出した紅茶は温めたポットに入れておいた。

出来上がったプリンをテーブルの上に並べ、紅茶の入ったポットも運び出した。
全ての準備が整った。
文豪たちを呼び出して、今日もお茶会の時間が始まった。
私は各テーブルを廻って、ロイヤルミルクティーをマグカップに注いでいった。
正岡一門のテーブルでは、虚子くんたちが正岡先生に自分たちが作ったプリンを出していた。

「のぼさん、俺たちの力作です!」
「お口に合えばいいのですが……
「ボクたち、頑張ったんだよ。食べてみてほしいな」
「おお、そうか! では早速、いただくぞ」

正岡先生がプリンを口にした。
正岡一門のメンバーが先生の反応を伺っている。
みるみるうちに先生の顔が綻んで、満開の笑顔の花を咲かせた。

「うん、美味いな! お前たち、本当にありがとうな」
「のぼさん……!」
「良かった……。良かったです……!」
「おいおい、お前たち。そんなに泣くな!」
「のぼさん、司書さんも手伝ってくれたんだよ」
「そうなのか。ありがとうな!」

正岡先生と左千ちゃんが私の方に向かって手を振ってくれた。
虚子くんと碧梧桐くんは、正岡先生に抱きついた状態で感動の涙を流していた。
お茶会に参加している他の文豪たちも、みんな楽しそうだった。
図書館にやって来る文豪たちは、これからも増えることだろう。
その時もお茶会で文豪のみんなを笑顔にしたいと強く願った。


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