ルート4

@sin_niya_b
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2018-11-22 21:00:52

▼ホテル

 青年を抱えた僵尸は、あるホテルの裏口にいた。しばらくホテルを見上げた後、非常階段に目を向ける。そして次の瞬間、飛ぶように――その走りは跳躍に近い――階段を駆け上がっていった。
 このホテルには青年がダミーとして部屋を取っており、僵尸はその部屋に窓から侵入した。……当然警備室でアラートが鳴ったが、それを知るすべはない。そっと青年の体を絨毯の上に横たえた僵尸は、この後どうするべきか考えるようにじっと青年の顔を見ていた。
「構堂さん、407号室に誰か……子供のようなものが死体を持って侵入してます」
 その頃、別室にいたある男は警備室からの連絡を受けると携帯電話を持ち替え左肩と頬の間に挟んだ。表情はほとんど変わらないが少しだけ怪訝そうである。
「皓轩様がお戻りというわけではない?」
「違いますね、あっ……いや……この死体、年格好的に皓轩様かもしれません」
 男は片手に注射器を持っており、目の前の椅子に目隠しをされて座っている若者を見下ろし少し考え込むと、手慣れた様子で注射器の針を二の腕へ刺した。
「子供の年格好は?」
「うーん……詳しい年齢はわからないですが小柄ですね……服は寿衣じゃないでしょうか……」
 報告を聞きながら男は若者の首筋に触れて脈を確認し、部屋にいる他の人間に頷いてから電話の向こうへ答える。
「俺が確認に行きます、道士を何人か寄越して下さい」
「……わかりました」
 振り向きもせず部屋を後にする男。部屋では若者を椅子から降ろして袋に詰める作業が始まっていた。
 廊下を歩く男は、構堂と名乗っているマフィアの構成員である。途中で合流した道士らしき男たちと何やら打ち合わせのようなことをする所作ひとつひとつが舞台で演じる女優のよう。407号室に到着すると、周囲に目配せをしてから扉をノックした。
「失礼します。皓轩様、お戻りですか?」
 部屋の向こうから声はしないが、足音のようなものが近付いてくる。構堂は扉の前から退き、道士たちが身構えた。その目の前でゆっくりと扉が開く。そこにいたのは小柄な子供……否、僵尸である。暴れる様子はなく、居並ぶ面々を見渡して構堂を見付けるとそちらをじっと見ながら口を開いた。
「たすけて」
 片手で部屋の奥を示し、繰り返す。
「ごしゅじんさまを、たすけて」
 道士たちが構堂を見る。軽く頷いた相手を見て、道が開けられた。その隙間を抜けて部屋へと入った構堂は濃厚な血の匂いに僅かに眉をひそめ、絨毯の上でぴくりとも動かない青年を見付けると歩み寄りその首筋へと触れた。
「……まだ息がありますね。医者を」
 一人の若者が部屋の外へと駆けてゆき、構堂はそれを尻目にじっと青年を見下ろしていた。青年の死体のような頬に飛んだ血は涙のようにも見えた。
 ……呼ばれてきた医者は青年を見るやすぐに外科手術の準備を始め、構堂や僵尸にも部屋から出るように言った。その言葉に従おうとした構堂は、だが、青年の視線に気が付いた。なにかを訴えるような目。その意図をなんとなく察した構堂は椅子に腰掛け、医者へ向かって薄く微笑んでみせる。
「彼が心細いようなので、付き添っても構いませんか?」
 その言葉に青年は眉間に皺を寄せ文句を言おうとしたのか口を開いたが、声を出す体力ももう残っていないのか、溜め息を吐いてから麻酔が効いてきたらしく目を閉じた。そのそばから動こうとしない僵尸は瞬きもしない。構堂だけがゆっくりと瞬きをした。


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新矢 晋@企画用
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