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[北斗P♀]肉

全体公開 2 1754文字
2018-11-29 12:48:01

「汚いお店だけど、味は俺が保証しますよ」

ほくほくがいい肉の日においしくいただいちゃうお話です。

Posted by @toasdm

 狭い路地の一角にあるという店は、北斗の背丈ではあちこちに頭をぶつけてしまいそうなせせこましさと、時代を感じさせるような趣があった。要は、狭くて薄汚い店だ。
「チャオ☆」
 軽い挨拶はいつもと変わらず、挨拶をされた店主はちらりと北斗を見て、それから隣の彼女を見て、左の口角を一瞬だけ上げてからビニール袋を北斗に手渡した。無愛想でぶっきらぼうに見えるが、何も言わなくてもわかってくれるあたりは客商売がうまいのかもしれない、と彼女はぼんやりそのやりとりを眺めていた。
「どうぞ。あ、コート預かります」
 カウンターの一番端、壁際の席に腰掛けて北斗は隣の席を促す。失礼します、と恐る恐る席に着いた彼女からコートを受け取って、北斗はビニール袋にそれをしまいこんだ。
「汚いお店だけど、味は俺が保証しますよ」
 店主の目の前で隠すでもなくそう言ってのけた北斗を思わず見て、それから彼女は店主を見る。忙しく焼き台の上の串をひっくり返している店主には聞こえているのか聞こえていないのか、それとも評価はどうでもいいのか、無反応だった。
「何飲みます?」
「え」
「ビールいけるなら、ビールでいいです?」
「あ、はい」
 幾分緊張した面持ちの彼女は北斗に促されるまま返事をして、指をパチンと鳴らした北斗にパチンと鳴らして返した店主が、グラスと瓶ビールを二人の間に置く。
「ツーカーなんですね……
「あっはは、結構長いんですよ」
 ねえ、と親しげに声をかけた北斗に対して店主は相変わらずの仏頂面のままだが、やはり左の口角が上がっている。なるほど仲はいいようだ、と少し緊張感の抜けた彼女がビールを注ごうとする前に、北斗は栓抜きを片手にビールを開栓していた。
「お疲れ様です」
「ど、どうも……
 言われて手にした彼女のグラスを、絶妙なバランスでビールと泡で満たした北斗は、手酌で自分のグラスにも注ぐ。どうやら彼女には一切、そういうことはさせるつもりはないらしい。北斗さんらしい、とくすくす笑う彼女に、グラスを掲げて乾杯の合図をした北斗は、中身を一気に煽ってすぐに飲み干してしまう。
「俺も緊張してるんですよ」
 一口飲んだ彼女がえ?と聞き返せば、酒のせいではないと思われる頬の赤みを隠そうともしない北斗が、横目でちらりと彼女を見ている。カウンターの下から手が伸びてきて、ぎゅっと指が絡み合う。その緊張を移されて、彼女の方も急に鼓動が早くなる。
「お、今日は肉だけだ」
 知ってか知らずか、店主は無言でカウンターに焼き鳥を置く。無骨な印象の強い店だというのに、出てくる焼き鳥も乗っている皿も、どこか繊細な印象があって、確かに北斗のいうとおり、味はいいのかもしれない。カウンターの下の手をそっと離して、二人は二本の串を分け合う。
「うわ、美味しい……!!」
「ですよね? よかった」
 オススメなんです、と自慢げな北斗よりも、少し自慢げに見えた店主の表情の微細な変化に、まだ彼女は気付いていない。
「北斗さんと焼き鳥って、なんか意外な組み合わせですよね」
 もっとオシャレなバルとか行くのかと思っていた、という意味で言った彼女の言葉を受け止めて、北斗はまた、ちらりと彼女を横目で見る。
「俺、こう見えて結構肉食なんですよ」

 今日、あなたを抱きます。ついてきてください。

 デートの前、北斗は彼女にこう言った。その前になにか美味しいものでも食べましょうか。俺のオススメの店でいいです?とその後に続き、そして今、お気に入りの店に連れてこられて、そしてこんな風に言われて――ドキドキしないはずがなかった。
「そういうことの前にはこの店に連れてくるって決めてるんで」
「あんた女連れてくんの初めてだろ」
「ちょっ、バラさないでくださいよ!」
 カッコつかない、と慌てて照れる北斗に店主がその夜かけた唯一の言葉が、北斗の誠実さを物語っているようで、彼女は緊張しながらもどこか、ふわふわとした気持ちになる。
「ついてきてくれたってことは、そういうことでいいんですよね?」
 最終確認の問いかけに、彼女は心の底から安心して、強く一度だけ頷いた。
 注文もしていないのにカウンターには、精をつけろと無言の圧力を加えるように肉ばかりが並んだ。


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