お題「術くらべ」
推奨キャラ「井宿・箕宿・壁宿」
※全員生存if未来捏造
※メモに張宿ファミリーあり
その後メモ①
https://privatter.net/p/409050
その後メモ②
https://privatter.net/p/409201
@satomi8429
「さすが井宿さん、あざやかですね」
持っていた本束を小脇に抱え、張宿は胸の前で小さく手を叩いた。
倶東国との戦争から5年。
当時死の淵を覗いた星宿だったが、その魂はその暗い場所から朱雀の如く舞い戻り、今では若き皇帝として立派に紅南国を治めていた。戦乱のさなかに生まれた皇子もすくすくと成長し、今では小鳥のように絶えず囀りながら宮廷中を駆け回っている。七星士たちもそれぞれの場所でそれぞれの生活をつつましく送りつつ、紅南国の平和と活気を影ながら支えていた。
そして、井宿だけが所在不明だった。
市の雑踏の中で井宿を見つけたのは一刻ほど前のことだ。見るからに人相の悪い大柄の男が、杖を片手に歩いていた老婆の荷物を通りすがりに持ち去ろうとしたところだった。抵抗空しく衝撃で後ろに転んだ老婆と、予想外の抵抗にあい舌打ちしながら去ろうとする男。とっさに老婆に駆け寄り助け起こすと、逃げ出そうとする男の動きが金縛りにあったように止まった。そして張宿と老婆が驚きに目を瞠る中、現れたのが井宿だったのだ。
「弱いものいじめをするものではないのだ」
見上げるほどの大男を下から睨みつけ、抑えた声で告げる。落ち着いた動作で荷物を取り返し、振り向きざまに首の後ろにとん、と手刀を切った。大男は止まっていた時間が動き出したようにまえにつんのめると、首を押さえながら逃げていった。
「ふー、災難だったのだ。怪我はないのだ?」
破顔して老婆に近づいた井宿は、老婆の背中を支えている若者に気付いて動きを止めた。
「もしかして、張宿…なのだ…?」
笑ったままの狐目の仮面が音もなく剥がれ落ち、朱の隻眼が点になっているのが見えた。
***
とにかくお茶でも、と強引に勧める張宿に流される形で、井宿は張宿と二人で市を歩いていた。そこから目的の飲茶処までの道中、似たようなことが2度も続き、そのたびに井宿がこっそりと撃退した。冒頭の台詞は、そんな井宿への賞賛だった。
「このくらいたいしたことないのだ」
本当になんでもないことのように井宿は言う。落ち着いた雰囲気は以前のままで、しかし離れていた年月の分だけ孤独が堆積してしまっているような気がした。どこにいた、とも、なにをしていた、とも言わない井宿に、張宿もあえて聞こうとしなかった。何か訳があるのだろう。とにかく、再会できたことが嬉しかった。
「それより」
井宿は張宿の右手を取って言った。取られた自分の手は、信じられないことに井宿と大差ない―どころか、指を広げたら井宿の拳を包み込めそうな大きさで、張宿は驚いた。
「いつの間にこんなに大きくなったのだ?オイラの術なんかよりこっちのほうがよっぽどすごいのだ」
そういえば、と、今更のように、だいぶ年上のこの仲間よりも自分のほうが背が高くなっていることに気付く。
「それだけ長い間、顔を見せてくれなかったってことですよ」
笑いながら言うと、井宿も面を取ってその歯を見せる。
「手厳しいのだ」
「逃がしませんよ」
張宿は左手を井宿の手に重ね、そう言いながらぎゅっと握った。