@toasdm
ほぅ、と吐き出した息は白く、今年は少し遅刻気味の冬だったが夜になればひんやりとしていて、少しだけ肌寒さを感じて彼女は身震いをする。人並みは、駅からずっと同じ方向に向かって流れている。ガス燈のまろやかな明かりが照らす恋人たちの群れに紛れて、彼女は冬馬と並んで歩いていた。周りの恋人たちと同じくらい幸せそうに見えたが、二人は少しだけ、浮いていた。
それは、たとえば手を繋いでいなかったり、微妙な距離感があったりという、見ただけでわかるような初々しさがそうさせていた。歩幅は完璧にあっているのに、二人の間には微妙な空気があって、浮いていた。
「あ……っ」
「っと……悪りぃ」
向かいから歩いてきたサラリーマン風の男に肩をぶつけられてよろめいた彼女をぐっと抱き寄せて、冬馬は男に、彼女の代わりに謝った。さして気にする様子もなく男は去っていき、人並みに紛れて歩きながら冬馬は彼女をパッと放した
「っわ、悪りぃ、つい……」
真っ赤になった冬馬を見上げて、私こそ、ぼーっとしてて、と慌てる。さっき一瞬抱き寄せられた時に感じた力強さと逞しさが、彼女の感覚を狂わせているような気がした。
十七歳とはいえ、冬馬は立派な男性だ。男の子と男の人とのだいたい真ん中あたりにいるが、ちゃんと体は男性だ。見た目だって背は高く、顔立ちは少し幼いようにも見えることがあるが、アイドルらしく華のある、整った顔をしている。力強さも逞しさも、普段は感じにくいだけで、冬馬には常にそれがある。まざまざと見せつけられると、彼女の方としても、プロデューサーであるという立場を忘れてしまいそうになるのだ。
「人、多いな……」
冬馬の言葉は、冷えた冬の空気の中で白になる。遠くに見えるレンガ造りの赤い倉庫とイルミネーションを見つめて、冬馬は彼女に手を差し出した。
「はぐれるだろ」
ほら、と差し出された手を、とっていいのか、だめなのか。早くしろって、と顔を赤くしている冬馬の手に恐る恐る伸ばした手が震えているのをみて、冬馬は等身大に苦笑した。
「おい、なんでそんな緊張してんだよ」
「とっ、冬馬君だって手震えてるじゃない」
「……あんた、危なっかしいから」
差し出した手を彼女の腰にまわして、冬馬は真っ赤になったまま続ける。
「こっちの方がいいならそうする」
「滅茶苦茶緊張して無理じゃない?!」
思わず叫んだ彼女に、だから手出せっつったんだよ!と冬馬もやけになって叫び返す。
「ほら!」
「うわ……っ」
耳目を集める前に再び人並みに紛れて、二人は無言で歩いた。繋いだ手は冬馬のコートのポケットにするりと収納されてしまった。
「……慣れてるわけじゃねーんだよな、あんたも、俺も」
クリスマスマーケットの明かりが徐々に大きくなってきたのは、二人がちょうど、小さな橋に差し掛かった辺りだった。
「な、慣れてない、って」
「デ、デート、とかさ……そういうの」
オレンジ色の灯りに照らされた横顔は、ライティング効果のせいなのかいつも以上に真っ赤になっているように見えたが――。
「無理しないでさ、俺たちらしく等身大でいこうぜ!」
見上げた彼女をちらりと横目で見て、ニッと歯を見せて笑った冬馬は照れてはいるが、楽しそうだった。
クリスマスに浮かれた人々の中、冬馬は上手に紛れ込む。
「いっぱいデートしようぜ、慣れるまで、慣れても」
これではどちらが年上なのかわからない、と思った彼女だったが、お互いに色々と始めて同士のデートは、気分がよかった。冬馬の格好よさや魅力には、まだまだ慣れる気配はないなぁ、と彼女は正直に気持ちを打ち明ける。
「慣れるかなぁ……」
「……慣れなくても、別にいいぜ」
え?と見上げた彼女の耳元に唇を寄せて、冬馬は小声で囁く。
「照れてるあんたも、結構可愛い」
それは冬馬君も一緒でしょ、と彼女が言い返せなかったのは。
「不意打ちでこういうことしたくなったくらい、可愛い……」
真っ赤になった冬馬の唇が、彼女の耳に軽く触れたせいだった。
クリスマスマーケットのゲート前に、真っ赤になった等身大の二人が到着した。