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[都築P♀]ハニーゴールド

全体公開 1 1717文字
2018-12-05 12:39:15

……この先、色が変わるんだ」

音楽聴きながら綺麗に泣いてた都築さんとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 それが、あまりにも絵になっていたから。彼女は身動きも取れずにただじっと、窓にもたれてイヤホンに指を添えたまま落涙している圭の横顔を、見つめていた。射し込む西陽が天使の輪郭をくっきりと縁取って、それをふわりとした柔らかそうな髪の毛が包んでいて、泣いているのに笑顔で、美しくて、人を惹きつける力があって、でも、一瞬で消えてしまうような儚さがあって。ただ、声をかけそびれてしまっていた。
……なぁに?」
 だから、圭に声をかけられた時、彼女はどう答えていいのかわからずに、曖昧に笑いながら、こんにちはなのかこんばんはなのかすらわからなくなってしまって、どうも、と当たり障りのない返事をしてしまった。
「ふふ……どうしたの?」
「いえ…………あの……
 流した涙をそのままに微笑んでから、圭は、ああ、と自身の頬を拭った。
「泣いてたんだ」
 気付かなかった、と目を閉じた圭にハンカチをさっと差し出して、彼女は漸く、かける言葉を拾い上げた。
「何、聴いてたんですか?」
「ああ……プロデューサーさんも、聴いてみて」
 しなやかな指先がイヤホンを外して、彼女にそれを差し出す。おずおずと受け取り耳に差し込む彼女を隣に座らせると、圭は再生ボタンを押した。
 海鳴りのようなゆったりとした環境音が、彼女の鼓膜を優しく撫でる。音の色を音色というなら、それはまさに、青い音色だった。背景から徐々に、ヴァイオリンの旋律がこちらへ寄ってくる。真珠が滑るような艶のあるその音は、透き通っているのに存在感があって、知らないはずの太古の記憶が、彼女の目の奥で像を結ぶような気がした。
「片方、借りるね」
 彼女の左耳からイヤホンをするりと外すと、圭は自分の右耳に添えて、彼女と共に音を聞く。
……この先、色が変わるんだ」
 目を閉じた圭のゆったりとした呼吸の音すら聞こえるような柔らかな旋律の奥から、急に、金色が姿を現した。
「え……
 楽器は変わらず、ヴァイオリンのままだというのに、旋律が、音色が、とろけるような金色になって次から次へと溢れ出してくるようだと彼女は思った。むせ返るような蜜の香りを甘く突きつけられたような衝撃が彼女を襲う。気がつけば曲はとろりとした感覚を二人に残して、さっ、と波が引くように終わっていた。
……どうだった?」
「なんか……色が変わって、飲み込まれるみたいな、質量があるみたいな、すごく……言葉が見つからなくて……
 ぼぅ、っとしたまま隣の圭をまた見上げると、やはりもう一度泣いていたようで、ぽろぽろと溢れた雫を拭って、窓の外を眺めながら圭は言った。
「この曲は、AIが作曲したんだ」
「え……AI、って、あの、人工知能の?」
 そうだよ、と呟いて、圭の指がそっと彼女の耳元に伸びる。びくりと一瞬身構えた彼女の耳からイヤホンを外して、圭はいとおしげにミュージックプレイヤーを撫でた。
「人が作っても、人工知能が作っても、いい音楽っていうのはそれだけで、誰かの心に響くものなんだね」
 豊かな旋律が見せてくれた景色は確かに、誰が(あるいは何が)作り出した世界だとしても、圭の心にも彼女の心にも響いた。
「僕も、こんな風に誰かの心に残るような世界を、創りだしていきたいな」
 それは、圭の偽りない真実の言葉だったのだろう。遠くを見つめる瞳はいつもと同じで優しく儚げに見えたが、同時に、力強い意志をも感じ取れるようで、彼女は気がつけば、圭の肩に手を添えていた。
「できます」
 AIにできるからだとか人だからだとか、そんな事は関係なかった。心を打たれて涙を流して、世界を受け入れて受け止めて創りだしたいと願う圭に、そんな強い圭にできないとは、彼女には思えなかったのだ。
「都築さんなら、できますよ」
「そうかな?」
 何の気なしに返事をしたように聞こえたが、彼女は知っている。こういう時の圭は、照れているのだということを。
「はい」
 私がついています、と微笑んだ彼女に、金色の髪を撫でられながら、圭はまた、遠くをぼんやりと見つめた。
「そうだね」
 言葉には、照れと一緒に強い意志が宿っているように、彼女には感じ取れた。


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