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怪物になんて、なるもんか

@_Hiiragi_skp
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2018-12-11 03:05:16

元メルヒオールさんお借りしました……………………。


「ママ、ママ……」

ノイズのかかった、それでも聞き覚えのある声が、ここにいない誰かを呼び続ける。


メルヒオールは、呑み込まれた怪物ごと濃霧の奥へと溶けていった。
勘と消えた方角を頼りに、歩みを進める。
……あの時、咀嚼音は聞こえてこなかった。だから、ヒトの形は留めているはずだ。
生きててくれなきゃ困るんだよ、と、一瞬でもそう思ってしまった自分に嫌気がさす。
別にあいつが居なくなったって、ボクには関係ないじゃないか。――関係ない。でも、

『助けて』

幻聴は収まったというのに、声が響いて止まらない。……助け、られなかった。
一端の軍人として、一人のヒトとして、悔しさと苛立ちが募っていく。
いっそ、誤魔化してしまおうか。苦痛から逃れる術は知っている。ただ、頭ん中でスイッチを上げればいいだけ。
逃げるのは簡単だ。でも、副作用のせいでボクは失敗した。
――くそ、悔しい。悔しい、悔しい! 副作用さえなければ、こんな思いしなくたって済んだっていうのに!

「……、え。あ?」

霧の奥、誰かの影がゆらりと見えたような。

「メル、ヒ……?」

細い糸みたいな希望を手繰って、足を速める。
――生きてた? それならどうして、こんな場所に? どうして、ボクの声に反応しないんだろう――?

段々と、影が輪郭を作っていく。……特徴的なクセ毛。間違いない、

「メルヒオール! 返事しろって言ってん、」
「…………ゥ、ア゛……?」
「だ……、ッ……え? は……っ?」

そこに居たのは、メルヒオールであって、メルヒオールでは無い、異形の”なにか”。
癖のついた長い白髪は、うねる触手に。丸い瞳は涙を流し、柔らかかった頬に幾つもの眼が開き、こちらを睨む。

「あ、はは……うそ、だ……メルヒオール? メルヒオール、キミ、」

声が震える。メルヒオールだった”それ”は、ボクを認識すると、一歩一歩、こちらへ近づく。
思わず、携えていた剣の柄を握り――……、抜き取る力が、出てこない。

「ウ……ゥウ゛……マ、マ……? ……ママ、ママ……」

掠れて濁っているけれど、その声は紛れもなく彼のものだった。

「……違う……目ェ、覚ませよ、なぁ……違うだろ、メルヒオール……?」

何度彼の名前を呼びかけたとて、それは唸り声と一言、『ママ』と呟くだけだった。

「ママ……!」
「ッ、あァ!? チッ、攻撃まですんの……!?」

触手が頬を掠め、咄嗟に剣で払い落とす。地に落ちた切れ端は、彼の髪と同じ色をしていて。

(落ち着けよ、ボクが斬ってるのは怪物であって、メルヒオールじゃ、ない)

「おい、メルヒオール! 聞こえてんなら――」
「ウ゛ーーーー……ァア゛ッ!」
「は――ッ、!? っく、そ……!」

歩み寄った途端、鋭利なトゲが顔に向かって伸びる。受け止めたはずが、

「ち、くしょ……あーあー、綺麗に切りやがって」

左手、親指と人差し指の付け根。手袋の上からでも断面が見えるほどの傷から、ぼたぼたと鮮血が垂れ落ちる。

この状態から、果たしてどうすれば元の彼に戻せるのだろう。
……殺しては、いけない気がする。これがメルヒオールなのか、それとも姿を似せた傀儡か、判断する方法はない。だけど、何故だろうか。たとえ形だけのモノだとしても、殺したくなかった。

「ア゛、ァアァ……」

適度な距離を保ちながら、膠着状態が続く。メルヒオールを取り戻す手段が見つからない以上、ここは一旦撤退し、情報を集めてから、もう一度彼を探しに来るしか無い。
逃げるのとか癇に障るけど、このまま睨み合ってる訳にもいかないし。
――後退して、そのまま走――、

「……………………ッ、ウゥ……、アァアア……!!」
「っ? は――?」

腕を、”噛まれた”。見れば、それぞれの触手の先には、大きな――口のようなものが付いていた。
瞬間の動揺を突かれる。するすると伸びた触手はそのまま右腕に絡みつき、有り得ない力でボクを引きずる。

「っ、く、あ……! 離、せ……っつっても、離さないんだろう、けど、さぁ……!」

左手が使えないことを、分かられていたのか。剣を持つ右腕を取られては、斬ることもできない。
今度はもう一本が、ポニーテールに絡まりついた。揺れていたから、目についたんだろう。

ふと、このまま引きずり込まれたらどうなるのだろう、なんて考える。
ボクも呑まれて、彼のような怪物になるんだろうか。無駄に足掻くより、彼の、メルヒオールの意志に――。
いや、それは本当に、”メルヒオール”が望むことか? 何より、キミが許したとしても、

「怪物に成り果てる? はん、そんなの……ボクが、許すわけないでしょ……」

「っ、――あああああああッ!! ふざけんな、ってんだ――!」

それは、誰に向けての叫びだったか。躊躇も恐怖も、全て、かき消してやりたかった。
……髪にまとわりつく感触。元々、何故伸ばしていたのかも覚えていないし、どうでもいい。――腕と首を回し、髪ごと切り落とす。黒い束を持ったまま、触手は元の位置に戻った。
深呼吸をひとつ。躊躇うな。ここでふたりして、怪物なんかに成り果てるか? いいや、そんなのごめんだね。

「ボクだってこんな痛い思いしてんだ、ちょっとくらい、許してくれるよ――ねぇ、ッ!」

左手で無理矢理柄を握り、力の限りで触手を断つ。

「忘れるなよ、メルヒオール!」

「この借り、ちゃんと返してもらうから」

うなじを、冷たい風が走っていく。痛みを通り越して熱を持つ左手を、彼に見せつけるように振り。
……悔しいけど、戦略的撤退。キミを取り戻せたら、真っ先に土下座でもしてもらおうかな? なんて、ね。


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