カイトの闇が深い
Ⅳ璃緒レディスノーホワイト(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9794526)と関連ある話
@fu_re_re_ra
「がーっはっは!珍しいノリじゃねえかカイトぉ!お前から連絡よこすたぁ!」
豪快に笑ったゴーシュに、カイトは画面越しにしかめっ面をよこした。
「しかもドロワには内密にぃ?さては、とうとう俺の妹分にも春が」
「御託はいい」
バッサリ切り捨てたカイトに、ゴーシュは年甲斐なく口を尖らせた。
「何だよノリ悪りぃなぁ」
「聞きたいことがある」
カイトが画面に突き付けた顔写真に
ゴーシュが顔色を変えた。
「…こいつァ」
「先日捕まった誘拐犯だ」
「覚えてるぜ。こいつMr.ハートランドと一緒にいやがった」
嫌悪に顔をしかめたゴーシュが、ぐっと眉間のシワを寄せる。
「監禁場 時代、あの胸くそ悪りぃ研究ガラス越しにドロワを見てやがった。こいつ、ドロワを売ってくれ、ってのたまいやがった。冗談じゃねえ」
「やはりか」
カイトは写真を仕舞って、能面のように色の抜け落ちた顔で
「必要なことは聞いた。切る」と通信機のボタンを押そうとしたので、
「カイトッ!!」とゴーシュが
ガンッ!と画面越しに拳をテーブルに叩きつけた。
側にあったコーヒーカップが割れて、黒い液体が広がる。ゴーシュがカイトを睨みつけていた。
「おいカイト。こいつァどういうことだ」
「……あの当時。子供ばかり貧困街から集められていた。だが、俺が解放された頃、残っていたのは、俺の覚えている限り半分以下だ」
氷のように淡々と、カイトは言葉を落とした。
「…お前やドロワを含めて、いま生きていれば18、9歳だったはずだ。保護された女たちに見覚えがあった」
「おい、まさか」
「人身売買にも手を出していたらしいな、ヤツは」
ゴーシュが、震えた拳で自分の手のひらを殴りつけた。
「ふざけるなよ。つまり何か?俺やドロワみてえな『適正』のあるヤツ以外は、好色の変態に売り払われてたって?」
「……正直、あの頃の実験で、ほとんどが処分されたと思っていた。生きているならまだ『マシ』だ」
「カイトッ!!」
画面モニターを引っ掴んだゴーシュが、射殺さんばかりにカイトを睨む。
目を伏せたまま今度こそ電源を落とそうとしたカイトに、ゴーシュが怒鳴り上げた。
「てめえ!!俺の目を見てもう一度言いやがれ!!」
画面越しに、カイトがうっそりとゴーシュを振り返る。
空恐ろしいほどに表情の無い
真っ黒に濁った目をしていた。
たじろいたゴーシュは、怒りも忘れて、
能面のような顔を見返した。
「お、い、カイト」
「なじればいい。お前たちにはその権利がある。俺と父がしたことだ」
言い切ったカイトは、ゾッとするほど感情の無い眼をしていた。
「…っ待てよ。フェイカーはともかく、お前もハルトも拐われて来たんだろ!? 監禁されて散々痛めつけられて、そんなん、てめえも同じじゃねえか、別にお前がしたことじゃ」
「父の罪は、俺の罪だ」
うろり、とカイトの視線が濁る。
「あの頃の犠牲があって、ハルトは今生きている。俺はそれを喜んだ。俺には、償う義務がある。ハルトはやっと笑えるようになったばかりだ。背負わせるわけにはいかない」
「父はもう永くない。全ては俺の原罪だ。Mr.ハートランドのしていたことを、父は薄々知りながら黙認していた。そして俺もまた、父の罪を黙認しようとしている。
彼女たちの生活は、可能な限り保証するつもりだ。だが、それで許されるはずもない」
絶句したゴーシュに
カイトは、無表情のまま
ようやく瞳を揺らして、ゆっくりと視線を外した。
「……───喋りすぎたな。忘れろゴーシュ。
どうしても事実関係を確認する必要があった。お前らはもう、俺と関わりなく生きていけ」
苛烈に睨んだまま、ゴーシュは矢のように恫喝した。
「────嫌だね」
スイッチに伸びたカイトの手が、ピク、と止まった。
「これだけ置いてけ。
おい。そいつら、今どうしてんだ」
「……病院だ。警察の聴取のあと、療養している」
「なら場所教えろ」
カイトは顔を上げた。
厳しい表情のゴーシュは
一転、破顔して
ニッと笑って力こぶを叩いた。
「ゴーシュ・ザ・スターマン参上!ってな」
虚を突かれて、瞠目したカイトに
ゴーシュは、まるでヒーローのように宣言して、豪快に笑ってみせた。
「あの地獄を生きた奴らは、みんな仲間だ、ほっとけねえ。オレがいっちょ、笑わせに行ってやるよ。ゴーシュ・ザ・スターマンはガキどもの味方だ」
ゆるりと瞳を和らげてそう結んだゴーシュは、
「今から飛行機取ってそっち行くわ」と事もなげに言ってのけ、テーブルの上の鍵やら財布やら、ガサツに掻き集めて笑ってみせた。
画面の向こうで。こともなげに、デッキケースを突きつけて。
「デュエルには、そういう力がある。だろ?」
そうか。
と言葉少なにカイトは黙り込んだ。
やがて、顔を上げた時には
いつもの平静なカイトが戻っていた。
「馬鹿には勝てんな」
「まったくだ。この馬鹿もカイトも、大うつけに違いない」
後ろから女性の声が飛んだ。
ゴーシュがギョッと振り返って、「ゲッ、ドロワ」と冷や汗を流した。
「おい鍵は!?」
「誰が合鍵を管理していると思って……。まったく、手のかかる」
カツ、カツ、とハイヒールを鳴らして画面の前までやって来て、ドン、とテーブルに手をついたドロワが、画面越しにルージュをゆっくり引き上げた。
「久しぶりだなカイト。すまないが立ち聞きさせてもらった。この馬鹿は任せておけ。こいつに繊細なカウンセリングができるとは思えん」
「あー、まあ。こうなっちまったらしゃーねえか」
ガシガシと頭をかいたゴーシュは、やがて豪快に笑った。ドロワが肩をすくめる。
ゴーシュとドロワは。二人揃って頼もしく笑った。
「カイト、こっちのことは任せて欲しい」
「言っとくがなぁ!同じ地獄を生きた仲間にゃお前も入ってんだからな!忘れんなよ!」
「……馬鹿ばっかりだな」
「お前もなあ!カイト!」
「心外だ」
カイトは小さく笑った。
画面越しのゴーシュを殴れないのが、残念だ。