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森の魔女が死んだ

豆腐屋ふうか(5)
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2018-12-15 19:15:42

 ──森の魔女が死んだ。

 噂が広まるのにさほど時間はかからなかった。
 様子を見に行った者が言うことには、ぱっと見人の形をした化け物が魔女の家周辺を徘徊していたらしい。
 その話が出てから、噂は尾ひれをつけながら広まっていき、周辺の住民の間では『森の魔女が化け物に喰われた』とか『魔女が化け物に変貌した』だの言いたい放題な噂で持ちきりであった。

 呪いを扱う魔女の死は、魔女を恐れ、疎んでいた周辺の村や町にとって朗報かと言うとそうでも無かった。
 忌み嫌う共通の敵を失いどうなるかは彼らがこれからどう過ごすかに掛かっているだろう。

「それで、お兄さん?どれを買うんだい。早く決めてもらわないと困るよ」
 買い物中にぼんやりしていたのを咎められ、ハッと我に帰る。
「……ん、ああ、済まない。そうだな、そこの酒を」
 店主の背後にある棚に並んだワインを指で示し、それを受け取る。
「幾らだ?」
「20ポンドだよ」
「……どれだ……」
 手持ちの紙幣を取り出し目的のものを探す。
「ちょっとちょっと、あんたどこの山から来たの……20ポンド札もわからないなんて正気かい?ほら、これだよ20ポンド札」
 1枚の紙幣を指差す店主。(なお、後にこの示された紙幣が50ポンド札であることを知るのはまた別の話である)
「これか。丁度だな」
 カウンターに20ポンド札(後に以下略)を置き、瓶を持って店を後にする。

「……しっかし、不気味な客だねえ……。あんなにぐるぐるとマフラーを巻いて、そんなに顔を見られたくないのかね」


 家に帰り着き、ワインを机に置く。住民を失って静まり返った部屋にゴトリという音が響いた。
 今すぐにでも埋めた主人の元に持って行こうとも思ったが、ふと思い立ち、台所でワインオープナーを探す。
 主人が好んでいた酒という物が気になってしまったのだ。

 少し時間がかかったが無事探し当てたワインオープナーでコルクを取り、適当なグラスに中身を注ぐ。本来はワイングラスを出すべきだが主人が生きていた頃からあまり使われていない為埃をかぶってしまっていた。
 コップに半分ほど注がれた赤ワインを眺め、人差し指を浸し、口に入れる。
「……不味いな」
 苦味に顔を顰める。
「こんなものを有難がって飲む奴の気が知れん……」
 溜息を吐き、抜いたコルクで再びワインに栓をする。
「……いや、頭ごなしに否定するのは良くない……だったよな」
 主人の作業部屋の方を向いて呟く。

 ──当然ながら、返事は無い。


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豆腐屋ふうか(5) @tofuya_skp
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