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[龍P♀]オレンジ

全体公開 1672文字
2018-12-17 14:53:57

「大丈夫ですか!」

ショッピングモールで倒れた人を助ける龍くんのお話です。

Posted by @toasdm

「大丈夫ですか!」
 駆け寄った龍は倒れた女性のそばにしゃがみこみ、叫ぶように声をかける。手は迷いなく体に触れて手を握り、龍は右手を握ってください、と声をかける。
「俺の声聞こえますか! すみません、失礼します!」
 指先で倒れた女性の睫を弾くも反応はなく、龍は彼女を振り返って叫んだ。
「プロデューサーさん、AED! さっきの、アイスクリーム屋さんの向こう側、二本目の柱にかかってます、急いで!」
 わかりました、と弾かれるように、彼女は無我夢中でショッピングモールを駆け抜ける。なぜ、龍はAEDの場所を知っていたのだろうか。龍の言ったとおり柱にはAEDがかけられていて、もぎとるようにそれを外して、彼女はまた、来た道を全速力で駆け戻った。
「木村さん!」
「ありがとうございます! 離れてください!!」
 手渡されたAEDは慣れた手つきで開かれて、既に胸部を開いた状態の女性の体にぺたり、ぺたりと貼り付けられる。
「プロデューサーさん、電話! 119! そこの人! お店の人ですよね、進路確保お願いします! 女性の方!!」
 てきぱきと、淀みなく、矢継ぎ早に龍の口から指示が飛ぶ。集まった女性にコートを脱いで周囲に立って、目隠しをするように気遣ってさえいる。
「木村さん、電話です!」
「ありがとうございます!」
 AEDが心停止の状態を告げる中、龍は彼女が支え持つ電話口で叫ぶ。
「救急です、場所は――
 ショッピングモールの住所なんて、視界のどこにも書いてない。仕事の下見で訪れたここは、名前を言えば誰もがわかるであることは明白だったのに、龍はすらすらとその住所と今いる階を説明する。
「三十代女性、CPA状態、AEDあります、CPR今から開始します、急いでください!」
 そうだ、と龍と倒れた女性を囲む目隠しの一部になってコートを広げながら、彼女は背中の龍の声を聞きながら思った。
「戻らない……っ、諦めるなよ! 絶対、絶対助けるから!!」
 規則正しい心臓マッサージの声を聞きながら、彼女は思った。そうだ、彼は、人の命を救うプロだ。
「救急車っ! すぐ、来るから! 兄ちゃんが絶対助けてやるからな!」
 え、とふりかえった彼女の視界に映ったのは、必死で心臓マッサージを繰り返す龍の隣で、泣きもせず、じっと立ち尽くす小さな女の子の姿だった。恐らくは、倒れた女性の娘さんなのだろう。龍はその子にも声をかけながら、全身で命の灯火を守っていた。どうか、どうか神様、と祈るような気持ちで、彼女は背中の龍に見えないはずのオレンジ色を感じながら救急隊の到着を待った。
「木村さん、来ました!!」
 ショッピングモールの広い通路は従業員の手によって進路をしっかり確保され、到着した救急隊員によって担架に乗せられた女性と共に、龍は女の子を抱いたまま救急車へと向かう。

「ご、ごめんなさい!」
 全て事が済んで彼女のところへ戻ってきた龍は、無我夢中になって彼女を忘れていたことを謝罪する。よくみればデニムの膝には血が滲んでいて、龍がどれだけ必死だったのかを物語っているその怪我を、彼女は誇らしく思った。
「いえ、本当に、かっこよかったです。私、気がつかなかったです」
 え、と顔を上げた龍に微笑みかけながら、彼女はコートを羽織る。
「倒れている人にばかり意識が向いてしまって、あの女の子に気付かなかったんです」
……そっか」
 必死過ぎてよく覚えてないや、と笑う龍は、彼女の目には照れているようにも見えた。
「怪我、手当てしましょう」
「あ」
 こっちも必死過ぎて気付かなかった、と膝の怪我に驚いた龍の手を引いて、彼女は医務室へと向かった。

……本当に、かっこよかったですよ」
…………うん」

 痛てて、と足を軽く引きずりながら歩く龍は、その日から、彼女にとって最大の誇りになった。どんなときにも落ち着いて、慌てずに、手の届く範囲の人に対する思いやりを絶対に忘れない龍の姿は、彼らのステージ上での姿と同じくらい、周囲の人の心を打っていた。


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