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[雨P♀]好い相手

全体公開 1699文字
2018-12-22 13:08:32

「お前さん普通だな」

温泉ペアチケット貰った雨彦さんがPさんにチケット譲ろうとしたら勘違いされてしまったお話です。

Posted by @toasdm

 掃除の関係でもらった温泉旅館のペアチケットを、雨彦はもてあましていた。誰か一緒に行く好い相手でもいりゃ違ったのかね、と苦笑して、アイドルにそんなのがいちゃまずいか、と思い直す。別段相手が欲しかったわけではなかったが、こういうふとした瞬間に感じる寂しさのようなものには、三十年生きてきてもなかなか慣れなかった。
 モテないわけじゃないんだがね、と過去を振り返ってみるが、モテないわけじゃない、と、モテる、は別な話さ、と自嘲するしかなかった。モテたい、と思ったこともそういえばなかった。自分の隣に特別な誰かが並ぶという構図は、雨彦には想像もつかなかった。俺の隣はいつだってこいつさ、と御札の貼られたデッキブラシの柄の先端に軽く唇を押し付けて、雨彦はチケットを胸ポケットにしまいこんだ。
「お疲れ様です、葛之葉さん」
 澄んだ声は耳に心地いい。キレイな空気を吸い込むようだと軽くなった気持ちを声に乗せ、雨彦はお疲れさんと言葉を返す。そういや、プロデューサーには一緒に温泉旅館で一泊してくるような好い相手なんてのはいるのかい、と胸ポケットのチケットを思い出して、雨彦はまじまじと彼女を観察した。
 流行のメイクに流行の服、流行の髪型というわけではないように見えた。飾りっ気のないナチュラルな化粧にいつもと同じかっちりとしたオフィススーツ、ゆるくまとめた髪の毛は手入れこそ行き届いてはいるようだが、化粧や服装の雰囲気と同じように、飾り立てている印象はなかった。
「お前さん普通だな」
「はい?」
 真意をつかめなくて当然か、と思わず漏れた本音をなんでもないさと誤魔化して雨彦は話を逸らす。
「お前さん」
 ……彼氏はいるのかい?と聞くのはセクハラに当たる気がした。いるんだろう、と断定して聞くのも気が引けたし、スマートではないと思った。一瞬間を開けて、雨彦は胸ポケットのチケットを取り出して彼女に差し出す。
「温泉は好きかい?」
「え、温泉、ペアチケット?」
「もらいもんさ。俺には一緒に行くような相手もいねぇからな。お前さんどうだい?」
 いいんですか?と素直にチケットを受け取ったということは、やはり予約済みか、と雨彦は少し落ち込んで、何を落ち込む必要があるのか、と内心首を捻った。別に、プロデューサーだって年頃の女だから、相手がいたっておかしくはないはず、なんだがね。胸の奥が少しだけざらついたが、雨彦はそれを表には出さず普段どおりに努めた。
「え、でも……
「遠慮するなよ」
「一泊、ですよね?」
「そうだな、ゆっくりしてきたらいい。友達でもなんでも」
 いつもお疲れさん、と労いの言葉をかけて彼女を見てみるが、彼女は微妙な表情のまま固まっている。
「でもそんな……
「気にするなよ、有効活用してやってくれ」
「葛之葉さんもお疲れでしょうし……私と一緒で、気を使ったり……
「ん?」
「え?」
 どうやら認識がズレているようだ、と先に気付いたのは雨彦で、勘違いしてました!と真っ赤になって慌てふためいたのは彼女の方だ。
「っははは! なんだお前さん、俺に誘われたって勘違いしたのかい?」
「だ、だって! ペアチケットですよ!?」
「友達なり彼氏なりと楽しんでこい、って意味さ」
「友達は休みが合わないし、彼氏なんて、彼氏なんて……
「いないのか」
 いません、の声は消え入りそうなほど小さくて、真っ赤になって笑わないでください、と抗議する声はそれよりほんの少しだけ大きい程度で、余程恥ずかしかったのか顔をチケットでパタパタと扇いでいる。
「相手もいませんから、お返しします……
 おずおずと彼女が差し出したチケットのうち、一枚だけを引き抜いて雨彦はまた胸ポケットにしまった。

「いいぜ、相手のいないもん同士、たまにはのんびり羽を伸ばしに行こうじゃねぇか」

 一泊ですよ?!と上目遣いに見上げてる彼女の頭をぽんと撫でて、一泊だぜ?と雨彦も返す。
「スケジュール、調整しといてくれよ。決まったらまた連絡する」
 くるりと踵を返して事務所を後にした雨彦の胸は、もうざらついてなどいなかった。


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