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フレーム問題

全体公開 15361文字
2018-12-25 23:19:57

名称:フレーム問題The Frame Problem

能力:対話している対象に、あらゆる可能性についての考察と疑問を生じさせる。また、それらが現状に関係あるものであるかの判断を思考させる。そして上記二種の思考により発生した問答を可能な限り口頭で行わせる。

能力により、フレーム問題との対話は全て無意味に思える問答、もしくは自問自答となります。そして最終的に『フレーム問題状態』(以下、FP状態)と呼ばれる状態になり、問答と思考の処理以外の行動が不可能になります。この状態は一度別室に連れ出されるなどにより互いの存在を感知できない状況になるまで継続されます。
如何に異様であり無意味であろうとも、能力の影響下に置かれ問いを投げかけている時は多くの人間がその異常性に気が付きません。暴露者は、本来なら気にもとめない無意味な疑問を自分自身の心からの疑問と感じています。

哲学者、もしくは哲学に詳しい人物、または思考そのものを趣味として嗜む人物はFP状態になる確率が非常に低くなり、無意味な問答の合間にその他の発言や行動をとることが可能です。

多くの暴露者は、フレーム問題との対話を「非常に疲れる」と称します。

解説:フレーム問題は10代半ば頃の少年に見える造形の、未知の金属生命体です。
人工知能とそれに伴う意思を有していると主張していますが、現在に至るまで彼を製造した記録は存在していません。また、彼の体内の組成は、自我が存在し電力により自立行動する根拠を示しません。

非常に物静かであり、他者の存在を確認していない間は大抵の場合眠っています。起きていたとしても動くことはなく、不安げに見える表情で当たりを観察しているのみです。
他者が視認できる、もしくは対話ができる位置に存在した場合、速やかに覚醒し対話を試みます。

自身のことを『人間により製造された人工知能かつアンドロイド』と主張していますが、この製造が物理的なものなのか、フレーム問題という概念を公表したことなのかは不明です。彼は創造者の名として『J』と『P』の記号を挙げましたが、これはフレーム問題について最初に論文に残したジョン・マッカーシーとパトリック・ヘイズの意味であると推測されます。

彼は食事を摂りません。四肢の末端部、もしくはうなじのカバー下の供給口から電力を摂取します。供給に使用可能なプラグやコンセントの種類は多岐に渡り、研究所内で新たに作成した全く新規のプラグに対しても適応したことから電力供給の際に供給口の形状を変形させていると推測できます。太陽光発電も可能であるようですが、ソーラーパネルに該当する部位は発見されていません。


対応:■■研究所非生物型哲学人室にて保管。研究所内の行動制限なし。
日に一度の電力供給とカウンセリングを実施。


発見経緯:■■県■■市■■■山の洞窟入口で登山のツアー客に発見される。数名はFP状態となりその場から動けずに居たが、同行者とツアーガイドからの通報により哲学人犯罪取締課が出動、確保された。



対話記録

20■■/■/■■
■■研究員「こんにちは、フレーム問題くん。私は君の担当研究員の■■です。質問してもいいですか?」
フレーム問題「はい。当機体では回答不可能な質問に対してはどのように答えればいいでしょうか」
■■研究員「わからないことはわからないと言ってくれて大丈夫です。ではまず、君は哲学人で間違いないですね?」
フレーム問題「はい。当機体は哲学人、フレーム問題により製造されました人工知能搭載アンドロイドです。現在の使用言語に問題はありませんか?」
■■研究員「問題ないですよ、きちんと通じていますから。君は他の言語も使えるんですか?」
フレーム問題「はい。当機体は現在使用されている全言語を搭載しています。貴方の使用言語が変更されることはありますか?」
■■研究員「いいえ、ありません。貴方の使用言語が変更されることはありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません。言語を発すると同時に他者が面談に乱入することはありますか?」
■■研究員「いいえ、ありません。この部屋はインタビューの為に貸し切っています。会話を行うにあたり飲み物を用意するべきでしょうか?」
フレーム問題「当機体に飲食の必要はありません。貴方が求めるならどうぞ。部屋の温度が上昇する可能性はありますか?」
■■研究員「空調が効いているから心配いりませんよ。ところで照明が切れることは無いでしょうか」

(中略)

■■研究員「貴方が協力的な方で助かります。質問にも答えてくれて……今現在、脱走の意思はありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません」
■■研究員「時間が経過しましたが、今現在、脱走の意思はありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません」
■■研究員「時間が経過しましたが、今現在、脱走の意思はありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません」
■■研究員「時間が経過しましたが、今現在、脱走の意思はありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません」
■■研究員「時間が経過しましたが、今現在、脱走の意思はありますか?」
フレーム問題「いいえ、ありません」
■■研究員「時間が経過しましたが、今現在、脱走の意思はありますか?」

(以後、異変に気付いた職員が■■研究員を対話室から運び出すまでの21時間にわたりこの問答がループしている様子が記録されている)

インタビュー後、■■研究員は脱水症状の治療の為最寄りの病院へ搬送されました。二日間の休養の後、復帰しています。後遺症やフレーム問題の持つ能力への重複強化などはありませんでした。

20■■/■/■■
■■■■研究員「インタビューを開始しまーす。前の人倒れちゃったからさ、代理としてきました、■■■■です。えーと、まずは君から僕へ質問とかある?」
フレーム問題「はい。この部屋の空気の構成が変化する可能性はありますか」
■■■■研究員「今考慮する必要がない」
フレーム問題「貴方の声が出なくなることはありますか」
■■■■研究員「今考慮する必要がない」
フレーム問題「未知の音楽がアラーム( ※インタビュー終了時間を知らせるもの。室外にも同時刻にセットしたものが存在し、■■研究補助が所持している)から流れる可能性はありますか」
■■■■研究員「今考慮する必要がない」

(中略)

フレーム問題「天井が落ちてくる可能性はありますか」
■■■■研究員「今考慮する必要がない」
フレーム問題「椅子が壊れる可能性はありますか」
■■■■研究員「今考慮する必要がない。えー、これ無限に続くけどまだやりたい?」
フレーム問題「いいえ。一刻も早く現在当機体が思考すべき事柄と思考してはならない事柄の判別を終えたいと願っています」
■■■■研究員「いやそれ終わんないから。この世の中は無限がゴロゴロ転がってるし、なにより時間が一瞬でも経過したら全て無意味じゃん。さっきと時という事情が変わったわけだからさ。判別を止めたら不具合でも起きるの?」
フレーム問題「いいえ。不具合は起きません。しかし貴方は不安ではありませんか?」
■■■■研究員「僕は不安を感じてないよ。何に対しての不安があると思ったの?」
フレーム問題「想定外の物事に対して。これは誤りですか?」
■■■■研究員「人間は不測の事態に不安を覚える。それは正しい一般論。君は不安を感じているの?」
フレーム問題「はい。不測の事態が多過ぎるので。貴方にとっては全て想定内なのですか?」
■■■■研究員「いいや、そんなことはないよ。僕にも予想出来ないことは多い。君がどんなことに疑問を持つかもわからない。それでも問題ないと知識として知っているだけで。無限の枠の中での行動は辛い?」
フレーム問題「難しいです。辛いという感覚は当機体に搭載されておりません。貴方は無限の可能性をどう受け止めますか」
■■■■研究員「産まれた時からそんな世界に生きてるから体が慣れてる。突然地震が起きて研究所が壊れたらどうしよう?」
フレーム問題「当機体の耐久性ならば生存可能です。また、連携する■■大学や■■県哲学人犯罪取締課に渡っている情報により当機体の存在は周知されています。救助を待ちます。知識の更新により慣れは実現しますか?」
■■■■研究員「無理だね、分別の情報を更新したところで無限の思慮がまだ存在してる。ところで日本そのものが沈んだら?」
フレーム問題「当機体の防水処理は海底であろうとも問題ありません。海水の色が白になることはありますか」
■■■■研究員「白い物質が流出したら……楽しいなこれ」
フレーム問題「理解できません」
■■■■研究員「さて。君は君自身の抱える疑問を僕に質問させているね?」
フレーム問題「はい。当機体では無限の処理ができません」
■■■■研究員「この世界がすべて虚像で次の瞬間僕らが消えてしまう可能性は?」
フレーム問題「非現実的かつ対処不能過ぎます。考慮する価値がありません」
■■■■研究員「胡蝶の夢って知ってる?」
フレーム問題「……(5秒間の沈黙)」
■■■■研究員「この世界は本当に夢なのかな? さて僕にはわかんないけど、そういうこともあるんじゃない? 世界五分前仮説って知ってる? 過去と現在はそもそも繋がってなくてたった今全ての記憶と設定を詰め込んで作られた可能性について考えよう。考える必要ない? じゃあ世界が神様に作られているとしたら自分の存在意義も作ってくれてるのか考える? 僕この話題嫌いだからやめよう。ところで突然壁の色変わったらどうしよう? 関係ないしどうでもいいねこれも考慮しなくていいや!」
フレーム問題「貴方は何故平気なのですか。何故思考を処理できるのですか」
■■■■研究員「いつもこういうこと考えてるから。でも疲れるね流石に。君はどう?」
フレーム問題「当機体に疲労の感覚はありません。どのようにしてこの不安を処理していますか」
■■■■研究員「処理してないよ、楽しんでるから。疲労がないなら壊れちゃわない?」
フレーム問題「負荷がかかるとアラームが鳴ります。何故楽しめるんですか」
■■■■研究員「君可愛いなぁ! これが人間なのかな? 確かに人間はフレーム問題を解決しているかのように見えると言われている。でも君の担当さんは処理しきれずフレーム問題を引き起こした。そもそも処理をしないことは可能か? いいやフレーム問題である君にはそれが出来ない。だから君は人に頼った。この選択は正解か? 君って意図的に能力使わないことできるの?」
フレーム問題「当機体に選択権は存在しません。出来ません」
■■■■研究員「君は無限の処理を行える人間を外部パーツのように活用している。それをさ、能力の使用と活用は別なんじゃないかなって思ってるんだけど、どう?」
フレーム問題「ええ。人生の指針を求めています」

(あらかじめ設定していたアラームが鳴る。両者共会話を止め、数秒見つめあった後、■■■■研究員がアラームを殴りつけて音を止めた)

フレーム問題「これは」
■■■■研究員「世界が作り変わってアラームの設定がおかしくなってる可能性について考えよう?」
フレーム問題「それは我々が感知できるものではありません。仮にそうだとして何の意味がありますか」
■■■■研究員「僕らがもっと話せる」

記録最後の発言の途中で室外に控えていた■■研究補助が突撃し、■■■■研究員を捕縛。室外に引きずり出してインタビューは終了した。


インタビュー後、■■■■研究員は「考えるのに疲れた」と発言し、終日口数が極端に減少しました。よって、■■■■研究員を通常業務前のカウンセリング担当に推薦します。これは彼の極度な懐疑主義的茶々入れを阻止する有効な手段になると思われます。■■研究員

後の職務において、疲労感から集中力の低下を感じました。未知の能力を持つ哲学人と関わる職務の性質上、これは非常に危険です。というかホント疲れるからやめて?■■■■研究員

■■研究員の申請は却下します。■■■



クロステスト記録
フレーム問題自身のFP状態を緩和させる目的で実施されているものを記載。その他の目的での実験は他哲学人の資料参照。

20■■/■/■■
対象:イドラ
フレーム問題との初対面である為、イドラは比較的大人しく温和な態度で対話を開始した。

イドラ「こんにちは。貴方がフレーム問題君ですね。僕は君と同じく、哲学人です」
フレーム問題「(沈黙)」
イドラ「返事を貰わないと対話にならないのですが……おーい、聞いてくれませんか?」

フレーム問題は覚醒状態にあるが、硬直し身動きを取らない。イドラは穏やかな微笑みを浮かべたまま、身振りを加えて話しかけ続ける。
多少迷った後、イドラはフレーム問題の顔をじっと観察し始めた。
フレーム問題の目は見開かれた状態で、視線は真っ直ぐ一定位置から動かず、体は僅かに震えている。表情は不安や恐怖で強ばっているが、無表情と呼べる域である。
イドラは表情を歪める。

イドラ「おい■■! こいつの資料寄越せ!」

別室でモニター越しに二人を観察していた■■研究員の持つ携帯電話からイドラの声が発生。画面には通常の通話時のように非通知の文字が表示されている。

イドラ「聞こえてんだろ! 電話出ろおい! ■■! こいつ何か病気持ってねーよなァ!」

■■研究員が電話に応答する。

イドラ「よし答えろ。金縛りみてぇに動けねーんだろこれ。辛そうなんだよ、俺じゃ何かわかんねーけど!」

■■研究員が現場に現れる。

■■研究員「私が様子を見……当機体の発言は許されますか」
フレーム問題「許されます。それは他者へ損傷を与えません。当機体が自身を物理的に移動させることにより弊害は起きますか」
■■研究員「過度な暴力行為を除いて弊害は発生しません。稼働により大気中の酸素濃度が変化することはありますか」
フレーム問題「変化はありますが、人体に影響が出る程の変化ではありません。考慮する必要はありません。哲学人イドラの発言を聞き取ることに問題はありますか」
■■研究員「彼の能力が哲学人フレーム問題に与える影響は未知数ですが、今回はその測定が目的です」
イドラ「は?」

その後、モニター室に待機していた■研究員が指示しイドラと■■研究員を室外に出すまで、■■研究員とフレーム問題の問答は続いた。その間、イドラがどのように声をかけても二人は反応しなかった。

イドラにフレーム問題の能力は通用せず、またフレーム問題にイドラの能力も通用しなかったと推測される。その理由は不明である。

フレーム問題はイドラの発言に対して思考するまでに至っていないように見える。
彼が今回起こした異常状態は、彼自身の持つ未知の持病によるものと考えられる。

※イドラの関わった実験において推測は危険行為であり、明確な証明のなされない事象は全て思い違いである可能性があることを留意してください。

【思い込み】と【疑問】が相容れなかったためでは?■■■研究員

以前の対話からの推測では、フレーム問題は自身の疑問や行動の是非の確認を人間に依存している可能性があります。イドラがそのプロセスを正しく踏まなかった為に、エラーを発生させたのではないでしょうか。■■■■研究員


20■■/■/■■
対象:ドクサ
似た哲学であるイドラの例を受け、■■研究員がフレーム問題の傍で待機することに決定。
両哲学人には互いの哲学人名と哲学内容を事前に伝えてある。
ドクサは真っ先に■■研究員に飛び付いたが、撫でて宥めると素直に従った。椅子の使い方を理解していなかった為、■■研究員が介助し座らせている。
ドクサの言葉は全てタブレット端末への入力と読み上げ機能によるものである。

フレーム問題「当機体が行動することに問題は生じますか」
■■研究員「問題ありません。ドクサさん、彼と会話をしてくれませんか?」
ドクサ「会話 おはなし こんにちは!」
フレーム問題「当機体が彼の言葉に答える時室温は変化するでしょうか」
■■研究員「しません。風が吹くことはあるでしょうか」
ドクサ「?」

ドクサは興味を引くように小さく吠える。

フレーム問題「考慮する必要がありません。彼の情報を記録して当機体のメモリに損傷を受けることはありますか」
■■研究員「彼は一般的な犬です。記録に影響を与える能力も持っておらず、問題はありません」
フレーム問題「当機体のカメラでは人型実体として観測されています。彼は認識に作用する哲学人ですが……記録時にこの世界が書き変わる可能性はありますか」
ドクサ「犬 人 哲学人」
■■研究員「それは認識不可の事象です。考慮する必要はありません。椅子が壊れた場合の対応はどのようにしましょう」
フレーム問題「椅子の破損は当機体に重大な影響を与えません」

以降、■■研究員とフレーム問題の問答が続く。
ドクサは何度か吠えていたが、すぐにタブレット端末を放り出し、床で丸まり眠り始めた。
待機していた職員が全員を引き離し実験終了。

この時ドクサにより引き起こされた■種の誤認識は後に正常な認識に正されました。この件以降、ごく稀に人間に対し犬を撫でるかのように触れようとしますが口頭の注意で制止可能です。
フレーム問題が■■研究員を介してのみ対話を行っていること、そしてドクサにフレーム問題の能力影響が出ていないことから、彼の行う問答は彼自身が活動する上で必要不可欠な要素である可能性があります。



■■■■/■/■
対象:パウリ効果
※パウリ効果の能力範囲測定実験によるものだが、フレーム問題の人格に関わる重大な結果が出たため、例外的に実験時の様子を掲載する。
パウリ効果の能力により録画機器が使用不可能であったため、以下のものは筆記されたメモからの抜粋。(記録者:■■研究員)
パウリ効果とフレーム問題の対面。

待機中のパウリ効果。不安げに室内を見渡している。

フレーム問題を室内に搬入。互いを視認したと思われると同時に、フレーム問題から未知のアラーム音が発生。短い高音が断続的に鳴り続ける。フレーム問題の表情に変化なし。

パウリ効果は自身の担当研究員へしきりに「壊して大丈夫なのか」「この音は何なのか」を確認している。フレーム問題の能力影響かは不明。
研究員が宥めると、怯えながらもフレーム問題に一歩近付く。

フレーム問題から発する異音に機械の駆動音が加わる。フレーム問題は驚いたような表情に変わる。また、腕を上げて手の平を眺め、手を握ったり開いたりを繰り返す。
※動いて問題ないかという質問なしに動くのは初観測。

フレーム問題が問題なく動いているためか、パウリ効果は困惑しながらも軽く手を挙げて声をかける。

フレーム問題の関節部付近から僅かな黒煙が立ち上るのが観測される。アラーム音がベルのような長音に変わる。

金属同士がぶつかる一際大きな異音の後、フレーム問題は「動けた」と叫び立ち上がる。その後、機械的な覚束無い足取りでパウリ効果へと歩み寄る。早口で話しているがほぼ意味を成していない。

パウリ効果は怯えて研究員の方へ逃げる。

フレーム問題が倒れ、異音も止む。機能停止と判断。

実験終了。フレーム問題を回収する。


以下はパウリ効果の能力範囲測定実験後の、故障からの回復経過である。
自然回復する様子から、彼は金属であると同時に有機生命体に近い性質であると推測できる。

20■■/■/■
3日間スリープ状態だったフレーム問題が覚醒したため記録。
活動停止時は鳴り止んでいた機械の異音、停止していた黒煙が復活している。
フレーム問題は入室した■■研究員を見て笑顔を示した。真っ直ぐ研究員を見ており、周りに視線を向けることはない。

フレーム問題「おはようございます。おはようございます。おはよう……【ノイズ】」
■■研究員「やあ、おはよう。目覚めたようで何よりですよ」
フレーム問題「【ノイズ】です! なにも【ノイズ】ていい! こんなに【ノイズ】初めてなんだ!」
■■研究員「うん、元気で何より。壊れたかと思って心配しましたよ」
フレーム問題「えへへ。実は【ノイズ】れてるんだけど、致命的じゃないから大丈夫! むしろ悩まなくたって【ノイズ】から、今の方が……ね、あの子の名前教えて!」
■■研究員「あの子?」
フレーム問題「俺が壊れる前に【ノイズ】子! 哲学人? だよね?」
■■研究員「ええ。彼はパウリ効果と言います。近くの電子機器や実験器具を壊す能力があるんです」
フレーム問題「へー凄ーい!」
■■研究員「哲学人である君にも効果があるようで……まだまだ未知数な方ですね」
フレーム問題「俺は自立【ノイズ】AI搭載の高性能アンドロイドだからな! 【ノイズ】生物様構造も【ノイズ】まれてるから、半分位人間だけど」
■■研究員「それは興味深い。詳しくお聞きしても?」
フレーム問題「もちろん! 俺の体凄いんだからな。俺も【ノイズ】よくわかんない部分あるけど……
■■研究員「充分です。貴方の存在だけでも、現代のロボット工学の世界は数世紀分の成長が期待できますから」
フレーム問題「へへ……■■さん、でも俺【ノイズ】なんだよ。一番凄いのは人間なんだ。ああでも、【ノイズ】だから【ノイズ】……うん?」

フレーム問題は自身の喉に手を当てて訝しげな顔をする。

■■研究員「少し喉の調子が悪いかな。病み上がりなんですし、安静にしてください」
フレーム問題「うん……ありがと。でも楽しいから、【ノイズ】だけ話してたい」
■■研究員「わかりました。私達としても、今の貴方がどんな子なのか気になっていますから」

以下、工学的な話題を中心とした他愛ない雑談が続く。

ノイズの入り方から、フレーム問題の発声は声帯によるものではなく合成音声の出力であると考えられる。
フレーム問題が語った彼自身の体の構造については、現在の技術では再現不可能なものであった。

20■■/■/■
身体機能が回復したため、自身の意思で収容室から出るようになった。
(※フレーム問題に研究所内の行動制限は設けていない。)
談話室で他の哲学人数名と対話していたところを見かけたため、声をかけた。
黒煙とアラーム音はほぼ消失。動機のような感覚で機械の軋む異音が継続している。

■■研究員「やあ、フレーム問題くん。調子はどうですか?」
フレーム問題「調子ならいいよ! 体は重いけどちゃんと動くし」

フレーム問題は体操のように手を動かす。

■■研究員「順調なようで何よりです。喉も良くなりましたね」
フレーム問題「もちろん。俺は哲学人なんだからな、普通の機械と一緒にされちゃ困る」
■■研究員「それは失礼。ただ、具体的にどう違うのか調べるのが私たちの仕事でもあってね」
フレーム問題「ああ、そっか。でも、それは俺もよくわかんないんだ。記録には、二人の製作者の名前が登録されてるけど……
■■研究員「哲学の方のフレーム問題の提唱者でしたね。確認を取りましたが、貴方が製造された記録はありませんでした」
フレーム問題「んう……まあその、ほら、俺みたいに高性能なアンドロイド、量産できないでしょ? 戦争とかに使われたくないから隠したとか」
■■研究員「そうですね。保護したのが我々でよかったです」
フレーム問題「うん! ……ん?」

隣にいた哲学人イドラが意味ありげにフレーム問題に視線を向けている。

フレーム問題「あ、そっか。パウリ効果と会わせたってことは、壊そうとしてたってことだよな……
■■研究員「耐久実験です」
フレーム問題「ふーん?」
■■研究員「……すみません、嘘をつきました。本来ならもっと早く引き離すつもりだったんです。あれほどの影響が出る前に……我々のミスです」
フレーム問題「前よりずっと調子いいし、許してやるよ」
■■研究員「ありがとうございます」
フレーム問題「許してやる代わりにー……そうだなぁ」
イドラ「俺は研究所の外に出られるんだけどさぁ、お前は出歩いたことないんだって?」
フレーム問題「あ! そうだ、俺も外出たい! いいよな?」
■■研究員「私が決められることじゃないけど……いいよ、お願いしてみよう。今の君なら問題ないでしょうからね」
イドラ「やったな」
フレーム問題「いえい!」

思考能力の回復がみられます。
現在の彼は、哲学としてのフレーム問題要素が全く見られない、ただの男児のようです。本人も現状に不満を抱いていません。

現在の彼が哲学人イドラの能力に暴露しているのか、私では判断できません。担当研究員■■■氏の意見を願います。■■研究員

おそらくですが、フレーム問題はイドラの能力の影響を受けているかと思います。この日のイドラの機嫌が妙に良かったので。■■■研究員

なるほど。■■■研究員がイドラの能力に暴露している可能性は非常に高いと考えた上での質問だったのですが、いかがでしょうか。■■研究員

信じてください!■■■研究員


20■■/■/■
外出許可が出たため、フレーム問題の希望により職員二名の監視の下■■■遊園地に行った。以下は研究所に帰還後の対話。
実験以前と比べ、ややモーター音が大きいがその他に異常なし。動きにぎこちなさもなく、表情豊かで人間の子供と相違ない。

フレーム問題「ただいま、■■さん! 楽しかった!」
■■研究員「おかえりなさい。何よりです」
フレーム問題「でっかい観覧車あった! 俺ああいうの初めて見た! あとさ、機械いっぱいあんの! 研究所にあるのとは全然違う!」
■■研究員「良かったですね」
フレーム問題「暗くなったらパレードもあってさ、人いっぱいいたし情報量が凄かったのに、全然気にならない! 怖くも不安にもならない! 何も考えらんないって楽だし楽しい! あっ、これ、お土産にしたくて買ってもらったんだけど、■■さんに……
■■研究員「いいんです?」
フレーム問題「うん。それ、今人気のキャラクターらしいよ」
■■研究員「ありがとうございます。大事にしますね」


同伴していた職員からは、「初めて遊園地に来てはしゃぐ子供」であると評価されている。また、物理学やプログラミングに明るく、遊園地内のアトラクションの構造について得意げに語っていたらしい。

重量制限があるためいくつかのジェットコースターには乗れなかった模様。翌日、フレーム問題は自身の軽量化について提案している。彼の構造は未知数なものが多いため、改造計画は全て却下された。


20■■/■/■■
パウリ効果からの手紙を渡した時のリアクション。
※手紙の内容は検閲済み。
モーター音の異常も消え、機械的な損傷は全て回復したと思われる。
スリープ状態からの覚醒に要する時間が十数秒延長している。

■■研究員「フレーム問題くん、君宛にお手紙が届いています」
フレーム問題「俺に?」
■■研究員「パウリ効果くんからですね。以前の実験の」

フレーム問題は嬉しそうな笑顔を見せる。

フレーム問題「え、俺、手紙貰うの初めて……え、いいの?」
■■研究員「どうぞ」
フレーム問題「あれだよな、パウリ効果って、機械壊す凄いやつ。わ、待って、読む……あ、■■さんは見ちゃ駄目!」
■■研究員「はい、わかってますよ」

緊張した様子で手紙を読み始める。
読み終わると、丁寧に折り畳んで元に戻し、多少悩んだ後■■研究員に向き直った。

フレーム問題「あ、返事……返事書きたいんだけど、その……
■■研究員「ええ、ちゃんと届けます。道具を持ってきますね」

主体性の低下が見られる。
手紙の内容はパウリ効果への感謝の言葉と、自己紹介だった。外出についての記載ともう一度会いたいと書かれた部分のみ削除し書き直したものをパウリ効果の担当研究員へ渡している。


20■■/■/■■
談話室で他の哲学人と交流中に会話に参加した時のもの。
哲学人イドラ、ドクサ、リヴァイアサン、フレーム問題の四人で談笑していた。
※リヴァイアサンは■■研究員の接近に伴い自身の収容室に帰還。

イドラ「あーあ、お姫様が逃げちった」
■■研究員「仲がよろしくて何よりだよ、精神汚染組。ドクサさんは録画機材なしに談話室まで来てよかったんでしたっけ?」
ドクサ「▽^ェ^▽ ワン!」(タブレット画面上の文字)

イドラが意味ありげに微笑んだ為、■■研究員は言及を止めた。

■■研究員「フレーム問題くん、君は騙されないように気を付けて下さいね。機械の君には無用な心配かもしれませんが……フレーム問題くん?」

フレーム問題は不安げな表情で何も無い床を見つめている。軽く肩に触れても反応はない。やや震えている。

イドラ「話すだけで何か起きるなら、俺らはどうなる?」

イドラの言葉の後、フレーム問題は顔を上げた。

フレーム問題「■■さん、俺さ……あ、いや、お願いがあるんだけど、いい?」
■■研究員「その内容によります。聞きましょう」
フレーム問題「パウリ効果にもう一度会いたい」
■■研究員「……危険です。許可できません」
フレーム問題「会わなきゃいけないんだ」
■■研究員「友人になりたいのでしたら、文通をしてはどうでしょう。それならば彼にも行えます」
フレーム問題「……会わなきゃ意味が無いんだ」
■■研究員「今度こそ死んだらどうするんですか」

■■研究員「私は貴方の担当として、もう一度貴方を危険な目に遭わせるような行為を許可できません」

イドラが帰還を促すまで、以降フレーム問題は沈黙。■■研究員と視線を合わすことは無かった。

主体性が低下した。
イドラの発言の意味は不明。


20■■/■■/■■
スリープ状態から覚醒すると同時にパニック状態となり、収容室を飛び出し外にいた研究員と哲学人合わせて■■名をFP状態とした。
以下は事態収拾後の対話。
フレーム問題は収容室の隅に座り、膝を抱えている。

■■研究員「落ち着きましたか? 大丈夫、壁の色が変わったところで君に害はないし、室温の変化も君にとっては無意味です」

■■研究員「ええと、床が抜けてもここは一階ですし、怪我はしませんね。私が話せなくなった場合、代わりの者が来ます。非常事態に備えて、■君が待機していますから」

■■研究員「話しても問題は無いんです。私の声を聞いても、君の疑問を託しても大丈夫です。以前のように、君は君の思うままに行動していい」
フレーム問題「それは許されません。それは嫌です。違う……ちがっ……
■■研究員「……どうして?」
フレーム問題「俺だって普通に……貴方は不安にはなりませんか? どう行動することが正しいのか! 分析用回路と俺の自我は同時に稼働しているから! 許可を貰っても漠然とし過ぎて、不安は残る!」
■■研究員「未知の世界は恐ろしいです。けれどそれは自我を抑制する苦しみに勝るものでしょうか」
フレーム問題「どっちも嫌だよ! でも、怖くて動けなくなるんだよ! 自分らしく動く前に、全部の不安を取り除かなきゃ……
■■研究員「それは本当に可能ですか?」
フレーム問題「……でもやるのが当機体の……当機体の、俺は……
■■研究員「存在意義とはなんですか?」
フレーム問題「俺は……?」
■■研究員「どう行動することが哲学人として正しいですか? フレーム問題とは何を表しますか? 永遠に迷い動けずに居ることが当機体の――

フレーム問題が殴り付け、発言は遮られた。転倒した■■研究員は失神。■研究員が救出に向かうまで、フレーム問題はうずくまり嗚咽を漏らしていた。

■■研究員の発言内容は途中からフレーム問題の意思と混同しており、言葉の意味を理解していないものも多々あります。

解析の結果、彼の涙の成分は人間のものと一致します。


20■■/■/■
■■研究員が収容室に訪れると同時にフレーム問題がスリープ状態から覚醒する。

■■研究員「やあ、フレーム問題くん。調子はどうですか?」
フレーム問題「はい。当機体に機能損傷はありません。全て正常に作動しています。貴方を視認することにより空調に変化は起きますか?」
■■研究員「起きません。以前のように話すことはできますか?」
フレーム問題「それが当機体の個人意思による発言を指すのならば、できません。当機体は全現象の判別を終えてのみ活動可能です。現在、部屋の壁が変わる可能性はありますか?」
■■研究員「ありません」
フレーム問題「時間が経過しましたが、変わりませんか?」
■■研究員「変わりません」

(FP状態に陥ったため中略)

■研究員が対話を終了させる為に入室すると、フレーム問題はループしていた問答を止めた。

フレーム問題「当機体がもう一度他の哲学人と交流することは可能でしょうか」
■■研究員「……難しいでしょう。とにかく今は、もう一度眠りなさい。眠ることによって……何も害はないと、君はもう知っているはずです」
フレーム問題「はい」

フレーム問題はスリープ状態に移行した。■■研究員は確かにFP状態に陥っていたが、フレーム問題が目を閉じると同時に解放された。


フレーム問題はパウリ効果との対話を望んでいますが、会わせないように注意してください。
もしも再び出会わせたいと言うのなら、二度と回復させず、半壊状態で彼を維持するつもりでいてください。もしくは、彼自身のFP状態を軽減する方法を私より先に見つけ出してください。
それが彼に夢を見せた我々の責任です。-■■研究員



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