「今日は僕の誕生日なので」
誕生日に大人って子供ってと考えながら子供とも大人ともつかないような誕生日プレゼントをおねだりする旬君のお話です。お誕生日おめでとうございます。
@toasdm
賑やかさがスッと引いて、バイバイ、と手を振ったのは二十時の十五分前のことだ。最も旬は、贈られたたくさんのプレゼントに塞がれて、手を振ることは適わなかったが。お疲れ様でした、とユニットメンバーや事務所の仲間に頭を下げて礼を言い、ほ、と漏らした吐息は白く霞んで夜の街に溶けていった。
「お疲れ様でした、旬君」
「ありがとうございます」
素敵な誕生日にしましょう、と都合のつく人全員に声をかけてくれたのは、他ならぬプロデューサーだった。本当はあなたと二人でゆっくり過ごしたかったんですよ、と言い出せないのは、旬が彼女に抱き続けている想いが一方通行であることと、彼自身が未だ親の庇護下にある未成年であるということが原因だ。もどかしさとプレゼントを抱えた旬の気持ちを知ってか知らずか、彼女は旬に、いつもどおりに話しかける。
「かなりの大荷物ですね」
「はい。嬉しいですけど」
車で来ておいてよかったです、とキーを見せびらかす彼女に、旬は一瞬、心底嬉しそうな顔をしてしまった。あまり表情に出してまたいつものようにからかわれてはたまったものではない、と旬は一瞬で表情を作り直す。
「駐車場までは頑張ってくださいね」
半分持ちましょうか、という彼女の申し出だけは男の意地で断って、旬は彼女と、暗く見慣れない夜の街を歩いた。
大人だな、と素直に思った。抱えた荷物の隙間から見える繁華街のネオンや歩く人々、営業している店は普段旬が見るような時間帯にはシャッターが下りていて、何をしている店なのかはわからないくらいだ。後数年、片手で余るくらいのほんの僅かな時間で、旬もその街並みに馴染むことが許される年齢になる。
その頃には。
その頃には自分も、自分の言葉に責任を持って、彼女に想いを伝えてもいいのではないかと旬は思っていた。
アイドルとプロデューサーという立場はそこまで気にならなかった。旬が気にしているのは、彼女に比べて自分がまだまだ子供で、彼女を支えたいと思うことは出来ても実行力がないという、旬の内心の言葉を借りて言うならば「中途半端は嫌」だからだ。どうあっても覆ることのない「年下」という関係が気にならなくなるほどに、自分が、自分自身で納得できるような大人になるまで、この想いは大事に抱えてとっておこう、と旬はもう随分と前から決めていた。
「旬君はまたひとつ大人になったんですね」
「そう、ですね」
だから彼女から、夜の街を歩きながらそんな風に話を振られた時には、一瞬飛び上がりそうになった。若いっていいなぁ、とくすくす笑う彼女に、いいことばかりでもありませんよ、と返そうとして、旬は言葉を引っ込めた。
「こうして誰かからもらえるものが多いのも、若さですしね」
重たいです、と言葉を言い換えた旬は、確かに少し、大人になったようだと自分で納得できた。年始の忙しい時期に自分を祝ってくれる人達への感謝と、それを素直に受け取る柔軟性とは、旬の思い描く理想的な大人像には必要なものだと感じたのだ。
「今日は間に合いませんでしたが、近いうちにプレゼントご用意しますね」
声をかけることに一生懸命になりすぎて肝心のプレゼントを用意しそびれた彼女を、らしい、と笑ってから旬は、ふ、と今からでももらえるプレゼントに気がついた。
「あの」
走り出した車の中、意を決して旬は彼女に言う。なんですか?と前を向いたままの彼女の横顔をじっと見つめて、すぅ、はぁ。深呼吸をしてから、旬はぽつりと漏らした。
「僕はまだ未成年なので二十二時には帰宅します」
間に合うように送りますよ、と笑う彼女に、そうじゃないんですよ、と被せて、旬は続けた。
「あと二時間あります」
「間に合いますね」
「今日は僕の誕生日なので」
ふっ、と鋭く息を吐き、旬はゆっくり、今度は前を見ながら言った。
「誕生日プレゼント、帰宅までの二時間を、僕にください」
「え?!」
「ドライブでもなんでもいいです。プロデューサーさんの二時間を僕にください」
大人の街並みにあてられたせいだろうか。それとも、想いを噛み締めたせいだろうか。旬はぎゅっと拳を握ったまま、旬らしからぬおねだりを始めた。
旬君が欲しいならいいですよ、と苦笑しながらハンドルを切る彼女の車の中で、旬は残りの二時間をどうするのが最も大人らしいかを考えながら、車窓を流れる夜の街並みをぼんやりと見つめていた。