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[雨P♀]神様の言うとおり

全体公開 3 1847文字
2019-01-04 09:09:08

「神様の言うとおり、ってな……

着物姿のPさんにドッキドキしてうまいこと言葉がでないとかいう純な感じの雨彦さんと初詣に行くお話です。

Posted by @toasdm

 ビジネススーツが都市迷彩なら、着物はさしずめ初詣の神社迷彩だろうか。晴れ着姿もちらほら見かける人並みに紛れて、雨彦はフッと笑いながら境内を歩いていた。御祭神様にお参りを済ませて、人々の足が向かうのは授け所。雨彦も彼女も、その足を人々と揃えて列に並び歩いていた。
 雨彦さん、と慣れない草履の覚束ない足でなんとかついて歩いてきた彼女が、雨彦の着物の袖口を軽く引く。なんだい、と彼女の方へ視線を向けると、普段の印象とは打って変わって、楚々とした、慎ましやかな彼女が目に入り雨彦の呼吸が僅かに乱れた。今日は朝から、雨彦はずっとこんな調子だった。
 初詣には元々、行く予定ではあった。彼女と共に、昨年中の感謝と新たな一年の平穏無事とを参りに行くのも悪くはないと思っていたからだ。ただ雨彦の予定外だったのは、お待たせしましたと家から出てきた彼女が着物姿であったことと、雨彦さんなら絶対着物で来てくれると思っていました、と完全に手の内を読まれていたことだ。特に後者の衝撃は大きく、雨彦はばつの悪そうな顔をして「お前さんには敵わねぇな」と苦笑するしかなかった。
 だが、最も想定外で衝撃的だったのは、彼女が思いの外、着物姿がしっくりくる和風美人であったということだ。普段から可愛いだとか綺麗だとか思うことは少なくなかったが、それは恋人の欲目もあってのことだろうと、雨彦はどこか冷静に判断していた。顔立ちもそこまで意識してまじまじと見つめるようなことはなかったし、だからこそ、こうしてがらりと雰囲気を変えられると、衝撃がひどかった。ありていな言い方をすると、ドキッとさせられてしまった。新年の挨拶になんと言ったのか、雨彦はなかなか思い出せないくらいに動揺していた。
……あの」
「なんだい?」
「なんか、ないんですか」
「破魔矢と鏑矢のどっちを授かるか、かい?」
 災いから守りたいなら破魔矢、厄除けをして前に進みたいなら鏑矢だぜ、と雨彦はあさっての返答をしながら地面に目線を落とす。相変わらず目線の置き場に困って、雨彦は彼女の草履の朱色の爪皮を、なんとはなしに見つめて溜め息をついた。
 彼女が言いたいことはなんとなくわかっていた。雨彦は、彼女の着物姿についてなんら言及していない。かける言葉が見つからない、というのが正直なところだが、それでも、自分で着付けまできちんとしてきた彼女の努力に無反応というのも忍びなかった。進む列の流れに合わせて、雨彦は歩みを進めながらさてどうしたものか、と顔を上げ、境内の人の列をちらりと横目で眺めた。
 晴れ着で着飾った人も多い。普段着の人も、親子連れも、老いも若きもみな連れ立って歩き、幸せそうに見えた。ちらり、今度は反対隣を見ると、少し不満げながらも、とてとてと、自分の袖口を軽く掴んでついてくる彼女の姿がある。まとめあげた髪の毛、うなじが白く柔らかく、随分とうまそうに見えた。

「お前さん綺麗だな」

 雨彦にとっては、呟くようにそう言うのがやっとだった。この中の誰よりも、雨彦にとって彼女は、彼女こそが一番綺麗だと思った。彼女のそばだけ空気が澄んでいた。それはいつもと同じだというのに、雨彦にとって、特別に感じられてしまうほど着飾った彼女は眩しかった。
「やっと、褒めてくれた」
「すまないな」
 一度素直に言ってしまえば、後はもう一気に、栓が抜けたように思いの丈を溢れさせるだけだった。似合ってる、綺麗だ、目を奪われる、今すぐ襲ってやりたくなる。最後の物騒な褒め言葉(かどうかも怪しいが)だけは肘鉄で抵抗したが、彼女はようやく褒めてくれたと、満足気にそれを聞いていた。
「あんまりにもお前さんが綺麗でな……かける言葉が出てこなかった」
「そんなにですか?」
 どうやら俺もそうなっちまうらしい、と二人は授け所でおみくじを引く。大吉と書かれたおみくじの願望のところを指差して、彼女は雨彦に見せた。
「ん? 叶う、喜び多し、か……
「さっそくお告げどおりでしたね」
「っははは、神様の言うとおり、ってな」
 褒め言葉ひとつでそんなに喜びが多いのかい、と苦笑しながら雨彦は丁寧に折りたたんだ大吉のおみくじを懐にそっとしまいこんだ。
「どれ、喜びついでにりんご飴でも買ってやろうか」
 賑々しい縁日の通り、雨彦は彼女の気が済むまで屋台を見てまわった。

「神様の言うとおり、ってな……

 雨彦のおみくじ、恋愛のところには「愛を捧げよ、幸せあり」と書いてあった。


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