「プロデューサーちゃんだって、俺とあんな風にしたいよね」
まいたるとデート中に元教え子さんが飛びついてきたPさんのもやもやがにぎにぎで消滅するお話です。
@toasdm
一応アイドルだから、どんなにcamouflageをしてても外ではNo touchだよ!と言う類は、にこにこしてはいるけれどもどこか寂しそうだった。触れ合いたいと思っているのはお互い様だと知っているからこその寂しそうな表情なのだ、とわかったのは、三回目のデートの時だ。
「せーんせー!」
「Wow!!」
どうしてわかっちゃったんだろう、とおどけて、飛びついてきた見知らぬ女の子を抱きとめた類の、よくよく見なければわからないような気まずそうな視線に気付いた時に、彼女は本当は、類も自分と手を繋いだりしながら歩きたいと思っているのかもしれないと感じた。
先生、と抱きついてきたのだから女の子は類の教え子なのだろう。人懐こい笑みは、類と相性がよいように見えて、彼女の心は少しだけちり、と痛んだ。
「だってわかるよー! いっつもテレビで見てるし!」
「Really?! 嬉しいな!」
年の頃は大学生くらいだろうか。類がアイドルに転進した頃に卒業して、大学生活を謳歌しているような、垢抜けた印象だ。サインちょーだいよ、とユニットのCDを差し出されて、類は嬉しそうに彼女を振り返った。
「プロデューサーちゃん、Penあるかな?」
「あ、はい!」
どうぞ、とサインペンを手渡すと、類はサラサラと、書きなれたサインをCDケースとリーフレットに書いていく。
「うわ、嬉しい、名前覚えててくれたの?」
「Ofcourse!! 俺はみんなのこと覚えてるんだ!」
「ほんとにー?! うちらも先生のことずーっと覚えてるよ!」
嬉しい、嬉しいと手を取り合ってはしゃいでいる二人を、彼女は一歩引いて眺めていた。そこにあるのは、彼女の知らない類の姿だったからだ。
そう、だよね。類さん先生だったもんね。もしかしたらこの子も、類さんのこと好きだったかもしれないんだよね。
勉強はどう?だとか、じろちゃんセンセや鬼硲は元気?だとか、彼女の知らない二人の世界の共通言語のようなものに晒されて、彼女の胸はさっきよりも、ちりちりと、焼け付くように痛んでいた。
「うっわやば、バイト遅刻するっ!」
「あはは、Fightだよ!!」
「うんっ! せんせーも、頑張ってね!!」
バイバーイ!と元気に手を振って、嵐のように去っていく後姿を二人で見送りながら、彼女は類の方を見づらいと感じていることに溜め息をついた。
「ふぅ……」
「……ごめんね」
「?!」
その「ごめんね」は、あまりにも切なそうに聞こえた。指先だけが、ちょん、と触れた。びくりと肩を震わせて彼女は思わず類を見る。さっきまでの太陽のような弾ける笑顔はどこへ消えたのか、類は眉尻を下げて、困ったように彼女を見下ろしていた。
「プロデューサーちゃんだって、俺とあんな風にしたいよね」
「は?! あ、いえ、あそこまで過剰なのはちょっと……」
「俺はしたいよ」
伸びてきた指が、指に絡む。類さんここ外、と言おうとした唇は、一瞬だけ、街中で塞がれる。
「る、い……さん」
「KissもHugも、プロデューサーちゃんに我慢させてたし」
本当にそこまでは、と真っ赤になりながら俯く彼女の指をしっかり捕らえて、類はぎゅっと握りこむ。前を見る。変装の為のニットキャップを被り直して、類は続けた。
「二人とも、我慢してる。我慢させてるの、いやなんだ」
揺れる瞳に映る街並み、人々は、もしかしたら、類が類だと気付いてしまうかもしれない存在だった。なによりも、彼女に我慢を強いているのが嫌だと言う類の切なげな横顔が彼女の胸をぎゅうと締め付けたが、それでも、彼女は言葉を選んだ。
「じゃあ、あの、あそこまでじゃなくても」
おずおずと、絡めあった指先を彼女もそっと握り返す。
「この、くらいで」
たまにでいいので、と遠慮がちに微笑んだ彼女に、もっと贅沢言ってもいいのに、と漸く類も笑顔を見せる。
「Okey! Hold my hand!」
優しく力強く握り返された手が悟らせる。この人は優しいから、あんな寂しそうな顔をしたんだ、と。胸のちりちりを、優しさが覆って癒してくれるのを感じて彼女はもう一度、強く手を握り返した。