「プロデューサーさんー、また忘れてたでしょー?」
お花可愛いかもと思って買ったのはいいけどズボラでお世話あんまりしないPさんと、お世話する想楽君のお話です。
@toasdm
花は日々の潤いってよく言うし。お花屋さんの店先にちょこんと並んでいたパンジーの苗を手に、私は事務所へと戻った。山村君に、お花いいですね、と言われて少し気分が上がって、何気なく手に取ったその日から、私はこまめに水をあげたりしていた。
はず、なんだけど。
「プロデューサーさんー、また忘れてたでしょー?」
「す、すみません……」
本来私は、花などとは無縁の、ズボラな性格であるということをすっかり忘れていた。そんな私のデスクでつぼみを膨らませているパンジーのお世話は、八割が、ちょいちょい事務所に顔を出す北村さんがやってくれている、らしい。今日も小さなブリキのジョウロを手に頬を膨らませている北村さんが、ちゃんとお世話しないとだめでしょー、と怒っている。
「た、確かお水は先週あげたので……」
「プロデューサーさんは昨日ご飯食べたから今日はご飯食べなくてもいいよねー、って言われたら怒るでしょー?」
「キレますよ!」
キレちゃうかー、と呆れたような口調の北村さんに、食いしん坊さんにはこれあげるー、とガムを一枚貰って、私はますますいたたまれなくなる。手持ち無沙汰にガムを口に放り込んでから、私はデスクに座って仕事を始めた。
「この子、どんなお花を咲かせてくれるのかなー?」
「楽しみですね」
プロデューサーさんにその権利あるのかなー?と意地悪そうに笑われても、返す言葉が見つからない。申し訳なさにちょこっとだけ盗み見た北村さんがパンジーを見つめる目は、すごく優しそうに見えて、心がふわっと撫でられたような、そんな気分になった。
「おはようございま――」
「プロデューサーさんー!」
事務所のドアを開けるなり、ぱぁっと満開の笑顔を咲かせた想楽さんが、ひとつだけ開いたアプリコットカラーのパンジーの鉢植えを持って駆け寄ってくる。
「咲いてるー!」
「わ、わぁぁぁああああああ!!」
咲いてる、咲いてると繰り返して笑う想楽さんは、本当に嬉しそうで、思わず「これがアイドルスマイル……っ!」と、私は内心ガッツポーズをとっていた。
「ちゃんとお世話したら、ちゃんと咲いてくれるんだよねー」
アプリコットカラーのパンジーの花言葉は天真爛漫、だったっけ。今まさに、私の目の前には、天真爛漫がふたつある。デスクに植木鉢を着地させて、想楽さんはにこにこと、パンジーを眺めている。
「茅花抜くー、浅茅が原の、つぼすみれー」
「……?」
そういえば、パンジーはすみれの仲間だったっけ。生憎と和歌の意味もよくわからないので、北村さんがどんな思いで諳んじたのかまでは、わからなかったけど。
「今盛りなりー、わが恋ふらくはー……なんてねー」
意味ありげな視線でこっちをみて、大伴田村家大嬢の一首だよー、言った北村さんが諳んじた、下の句の――その、あの。
恋、の部分だけが、聞き取れて、しまったので。
「後で、調べてみます……」
「そうだねー、気になっちゃうもんねー」
じゃあレッスンいってきますー、と事務所を出て行った北村さんが、気になって、気になって。
仕事がしばらく、手につかなかった。
万葉集 巻八(一四四九)
茅花抜く 浅茅が原の つぼすみれ
今盛りなり わが恋ふらくは
甘い茅花の花穂を抜いて食べる「浅茅が原」では、今つぼすみれが花盛りです。
まるで、私があなたを恋しく思う心のように。