@toasdm
高校生らしいなぁ、と思う。普段は理知的だったり大人びて見えたりするから、意識しないと未成年であることを忘れてしまいそうになる。それでもこうして、クレープ屋さんの店先で長身を屈めてメニュー表とじっくりじっくりにらめっこしている玄武君を見ていると、やっぱり高校生だな、と実感する。真剣勝負、と言っているような横顔を見ているだけで、私はなんだか、孫を見ているような気分になる。孫どころか子供もいないし、そもそも相手もいないけど。
「決まりそうですか?」
「…………ああ、二つまでは絞れたぜ」
ぺろりと舌なめずりをして、玄武君はじっと、今度は食品サンプルの方を見つめている。どれとどれですか?と聞いてみると、両手の指でそれぞれ指を差す。
「チョコチョコチョコバナナと、宇治抹茶、ですか?」
「ああ……クレープと言えばチョコバナナはテッパンだ、外すことはできねぇ」
真剣な眼差しは食品サンプルに向けたまま、玄武君は抹茶のクレープをじっと睨んで眼鏡をぐいっと上げる。たかがクレープくらいで、なんて言い出せないくらいの希薄に、私が食品サンプルだったらきっと冷や汗を垂らしていたと思ってしまうほど、玄武君は真剣そのものだ。
「抹茶味、好きなんですか?」
「嫌いじゃねぇよ。しかもこいつだけ、生地が少し違うみてぇだぜ、番長さん」
言われてよく見てみると、確かに抹茶のクレープは生地に抹茶が入っているのか、うっすらと若草色に色づいている。
「あ、ほんとだ……おいしそう」
「それによぉ……こいつだけ、白玉がトッピングされてんだ」
なるほど!和風スイーツのテッパン、白玉餅が上に乗ってる。これはもちもち好きにはたまらないだろうなぁ、と再び視線を玄武君に戻すと、さっきよりも真剣になっているようで、私も思わず固唾をのんだ。
「二つ……いや、贅沢はよくねぇな……」
どっちの味も楽しみたいのなら、と学生時代を思い出して、私は悩める玄武君の肩をちょんちょん、とつつく。
「じゃあ、私がチョコバナナ買いますから、玄武君は抹茶にしませんか?」
「……っへ。流石は番長さんだぜ」
すぐに意図したことをわかってくれるのが、玄武君の鋭いところ。半分ずつなら贅沢にもならないし、味も二種類楽しめる。両方出しますよ、という私の意見は男の矜持の一言で断られてしまったけれども、焼きたての甘い香りを漂わせたクレープ二つを手に、玄武君はにこにこと、近くの公園のベンチまで歩いている。
「贅沢はいけねぇからよ」
あんま食わねぇのさ、とほくほく顔の玄武君は、いただきます、と大きな一口で抹茶味のクレープにかぶりつく。上に出ている部分の七割くらいは、今の一口で消えたんじゃないかな!?
「うめぇ……」
しみじみと言う玄武君がクレープの包み紙をびりびりと破く音を聞きながら、私も久しぶりのチョコバナナクレープを食べる。
「あ、生地美味しいっ!」
「だよな!!」
やや食い気味に反応した玄武君に苦笑しながら視線をやると、あんこがちょっとだけついたクリームをほっぺたにくっつけている。子供みたい、と思わず笑った私に、未成年が子供だってんなら俺はまだまだ子供さ、と不貞腐れと照れとを混ぜたような表情で、玄武君はじっと、こっちのクレープを見ている。
「あ、食べかけになっちゃったけど、こっちまだ口つけてないから」
どうぞ、と差し出すと、交換だな、と私の手の中に抹茶のクレープがやってくる。ほっぺたのクリームはまだつけたままだ。だって、多分――…。
「ああ……テッパンだな、うめぇ」
「ふふふ、抹茶の方も生地がもちもちしてて美味しいです」
やっぱり。チョコバナナのクレープを食べると、今後はチョコまじりのクリームもほっぺたにつけてる。無邪気で可愛いけれど、さすがに恥ずかしいだろうと思って、私は笑いながら玄武君のほっぺたのクリームを指で掬って取ってあげた。
「……ガキみてぇ、ってのはこいつのことかい?」
「ご明察です」
クレープの交換をしようとして、指のクリームが邪魔だと気付いてしまって、舐めるのもお行儀が悪いかと少し悩んでいる間に、玄武君は、その……私の、指を。
「クリームも餡子もチョコも一度に味わえる贅沢な指だぜ、番長さん」
ごちそうさん、と歯を見せて笑ったのは、もしかしたら。玄武君なりの、仕返しだったのかもしれない。
「今度ついてるの見つけたらさ……とっとと教えてくれよ」
そっぽを向いてクレープを食べる玄武君の耳が赤かったから、きっとそうだと思う。