「……恥ずかしいものだな」
仕事で使うからと実家から取り寄せたはざませんせの成人式の写真を眺めながらお誕生日おめでとうする付き合ってないはざませんせとPさんのお話です。新成人及びはざませんせ、おめでとうございます。
@toasdm
十二年か、と道夫は振り返る。
自分が生まれて三十二年、成人してからは十二年。ちょうど干支一回り下の若者たちがこぞって着飾り、成人式会場へと吸い込まれていくのを横目に、道夫は思いを馳せた。十二年前は何をしていただろうか、と。
思い返してみても、大学生だった自分の記憶しかない。彼らの中にももしかしたら、自分と同じように教職を目指している者もいるのかもしれない、と思うと、道夫には彼らが、乱痴気騒ぎを起こすだけの若者集団ではなく、可能性の塊にしか見えなかった。
どうか、胸を張って頑張ってほしい。君たちの未来は君たちが、君たち自身の光で明るく照らすのだから。
成人、おめでとう。道夫は心の底から祝福して、彼らの可能性を背中に感じながら事務所へと急いだ。
「お疲れ様です」
「おはよう」
パッと笑顔で道夫を迎えてくれたプロデューサーに、道夫は携えてきた包みを手渡した。例のものだ、と手渡されたそれを受け取ると、彼女はありがとうございますと微笑んでから、早速中身を検め始めた。
「む」
今ここでか、と少しだけうろたえた道夫に、使うので、と答えた彼女の隣に座ると、道夫は少しだけ頬を赤くして、じっと彼女の手元を見守った。
「……恥ずかしいものだな」
「ふふふ、硲さんでもそんな風に思うことあるんですね」
きっちりと装丁を施された記念写真を取り出すと、彼女は躊躇いなくそれを開く。
「わ……」
生真面目で、精悍で、理知的で若い。
二十歳の道夫がキリッとこちらを見ている写真が二枚、そこにあった。
十二年前の道夫は、今より若々しい印象ではあるものの、誠実そうな意志の強い瞳や柔らかそうな色素の薄い髪、すらりと伸びた手足や体躯は今と大して変わらないように彼女には見えた。
「使えるだろうか」
「そう、ですね。大丈夫だと思います」
次の仕事で若い頃の写真をインサートで使う、と言われて、道夫が郷里から送ってもらった成人式の写真。和装できっちりと、バストアップと全身のショットの二枚が揃っていた。問題ないですね、とチェックを済ませた彼女は、しかしまだ、その写真をじっと眺めている。
「プロデューサー」
「……あ、え、はいっ」
「確認が終わったらならしまっておいてはどうだろうか」
気恥ずかしい、と先ほどよりやや赤みの増した頬を人差し指でひっかいて、道夫は彼女に提案する。すみません、と慌てた彼女は最後にもう一度写真をじっくりと眺めて、それから道夫を見た。
「…………うん?」
「あんまり、変わらないですね」
写真と道夫とを見比べながら、彼女は恐らく、何の気なしに言ったのだろう。
「干支一周しても、硲さんはまっすぐな人に見えます」
素敵ですよね、も、何の気なしなのだろう。そして、恐らくは――。
「あ」
がさごそと引き出しを漁って、どうぞ、と差し出したプレゼントにも、何も特別な意味は込められていないのだろう。
「お誕生日おめでとうございます、硲さん」
それでも道夫は、彼女がもしかしたら自分を、特別な存在だと思ってくれているような気がしてならなかった。
「……ありがとう」
こんな風に、彼女の些細な言動に期待するようになったあたりで、道夫は自分の恋心を自覚していた。いつからだろうか、とグラデーションの切れ目を探してみたが、特にこれといったきっかけは見当たらなかった。アイドルとプロデューサーがそのような関係になるとは期待していないし、彼女に想いを打ち明けるつもりも、今のところはなかったが。
「む……」
「パズル、お好きでしたよね?」
金属製の知恵の輪のようなパズルを、自分の好きなものを贈られて、嬉しいと思う気持ちは止められそうもなかった。
「ああ、好きだ」
何を、あるいは、誰を、とは言及せずに、道夫はニヤリと笑って答えた。