超絶残念なヨンホさんが帰ってきた!!(殴)沸騰しすぎて吹きこぼれ寸前の愛情を持て余すヨンホさんと、その辺いっさい気付かずヨンホさんを「ご飯がおいしい変態紳士」と思っている主人公をどうぞ←
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@risa_natsuko
ヨンホ視点
俺の生まれ故郷のシカゴは冬が厳しく、韓国の冬でさえ甘く感じるほど寒い。なので俺は小さい頃部屋で毛布にくるまってぬいぐるみを抱っこして眠っていた。ふわふわと柔らかいぬいぐるみは俺の体温を吸って暖かくなり、よく眠りにつけたのだ。俺のベッドは大きくなってからもぬいぐるみだらけで、母に呆れられていた
その名残は大人になった今でも残っている
鼻をくすぐる感触で目を覚ました。目に映るのは窓から差す日に透けて光る、色素の薄いふわふわの髪だ。その主はまだ眠っている
俺はいつものように髪に顔をうずめ、匂いを嗅いだ。彼女がお気に入りで使っているシトラスシャンプーの香りがする。ふわふわの毛が頬をくすぐるのが何とも言えず気持ちがいい
「…名前、まだ寝てる?」
「……」
出勤までまだ時間がある。俺は体を起こして名前の寝顔を観察した。奥二重の薄い瞼にくるんと上を向いたまつげ、ちんまりした鼻にツンとして血色のいい唇、そして
つんつん
ぷにっ
真っ白で丸く、マシュマロのように柔らかいほっぺた。指でつつくだけで胸がきゅっとなってしまう
「…可愛い」
俺は何とか首を振って彼女から目を逸らし、ベッドを出た。ある程度身支度を済ませてから台所に立つ。タイマーのおかげでご飯は炊きたてで、味噌汁は温めるだけ、作り置きのおかずもある。俺は袖を捲って気合を入れた
まずは卵焼き。最近凝っている醤油麹を入れればそれだけで甘い卵焼きが作れる。綺麗に巻いて冷ましている間におにぎりを作る。具は鰹節と桜エビをカリッと炒って醤油と胡麻で和えたもので、彼女のお気に入りだ。最近の弁当には必ずこのふたつが入る。冷蔵庫から甘辛しょっぱいきんぴらとブロッコリのナムルを出し、弁当に詰めていく。隙間にはゴボウやニンジンを肉で巻いて醤油だれで焼いたものを詰め込んだ
毎朝の弁当作りは俺から言い出したものだ。一人暮らしの頃は憂鬱な気分で出社していたのを、朝一番可愛い彼女が喜びそうな弁当を作るだけで気分が変わる
「…ヨンホさんおはよぅ」
「ん、おはよう名前。朝ご飯出来てるよ」
名前はまだ半分寝ている状態だ。寝ぼけたまま洗面所に行き、戻ってきたころにはいつもの出社スタイルだった。アイメイクを面倒がってあまりしないからか、変わらずつるんとしたマシュマロ顔だ
「今日の朝ご飯はシャケと納豆、お味噌汁、ナスの漬物」
「おいしそう……いつもごめんねヨンホさん。朝は任せっきり」
「料理は好きだから構わないよ。美味しく食べてくれればいいの。食べようか」
「はい!いただきまーす…」
名前は真っ先に味噌汁に箸をつけ、ほっこりした顔で飲んだ。その後シャケをほぐしてご飯に乗せ、大きな口で頬張る。あんなにつんとした小さな口が、よくまぁ大きく広がるものだ。その後も彼女は納豆(胡麻とネギをたっぷり混ぜたもの)をご飯にかけて美味しそうにかき込み、漬物を楽しそうに噛んだ
可愛い
可愛い
可愛い
「ヨンホさん?」
「…何でもないよ。ご飯お代わりする?」
「する。今日はデスマーチだから」
名前はエースタイプではないが努力家で、人一倍努力する。仕事を抱えて焦っている人に頼られ一緒に残業したり、ちゃっかりした上司に仕事を押し付けられても文句を言わずに務めている。そんな彼女を知っているからこそ、美味しいご飯でお腹いっぱいにさせたくなる
本音はもうちょっと別のところにあるのだが、朝にはそぐわない内容なので伏せておく
「あー朝からお腹いっぱい!!これで頑張れる!!」
「よかった」
「いつもありがとうね、ヨンホさん。ご馳走様でした」
彼女はいつもこういう時礼儀正しい。そこもまた可愛いのだ
「名前、やっぱり一緒に出勤しよう。車で送るからさ」
「ダメ!!会社の駐車場ってヨンホさんの出社シーンを一目見ようと女子社員鈴なりだもん。そこに私が現れたらどれだけ睨まれるか」
「でも電車なんて心配だよ。満員電車とか痴漢とか掏摸とか…」
「ヨンホさんうちのお兄ちゃんと同じタイプですねぇ」
「だいたい最寄り駅で一緒になるジョンウと一緒に出社するから変な噂立つし。名前の彼氏は俺だろ?」
名前が困った顔をしたので降参のポーズをした。話を変える
「今日は俺もデスマーチだから、晩ご飯は残り物になっちゃうけどいい?」
「もちろん!!同じ仕事してて、むしろヨンホさんの方が忙しいはずなのに申し訳ないくらいです。それに残り物とか言いつつどれも美味しいんだから」
「ふふ。それじゃ、せめて駅まで送らせてねお嬢さん」
マンションの部屋から車に乗るまではいつも手を繋ぐ。車に乗るときは必ず俺がエスコートし、助手席のドアを閉める。駅で彼女が車を降りる時は必ずキスをする
これらは俺がかなりかなり押して約束させた毎朝のルーティンだ
YT「きもいわぁ」
「なんてこと言うんだ」
同僚のユタがゼリーを飲みながら言う。納期が迫っているおかげで部署全体にはピリピリとした修羅場オーラが漂っている
YT「こちとら連日のデスマーチで家帰ったらバタンキューで朝飯も食わんとギリギリまで死んでるってーのに、お前は何か?彼女のために朝飯に弁当まで作ってやってんのか」
「人のストレスは一日一回のハグとキスで大部分がふっ飛ぶらしいぞ。まぁ昨日はそれでも早く帰れた方だったしね」
YT「爆発しろよお前」
JH「あれ、ヨンホ先輩って彼女いるんでしたっけ」
ジェヒョンが背後から声をかけてきた。デスクが背中合わせなのだ
JH「これ、頼まれてた資料作成終わったんで確認お願いします」
「ん。いるよ彼女。ふわふわで可愛い子が」
JH「あ、今すっごいイラッとしました」
YT「リア充と非リアで体力の消耗が全然ちゃうねんけど」
JH「リア充はリア充でカレカノと会えないから殺気立ってますよ。先輩同棲ですか?」
「まぁね。資料はこれでOK、ありがとね、ほら」
デスクの引き出しからチョコレートを出してジェヒョンの手に乗せると、彼は変な顔でそれを口に入れた
JH「先輩って後輩によく餌付けしますよね。美味しいですこれ、クリーム入り」
「甘いもの食べれば作業効率上がるかと思って」
YT「だからかヨンホのデスク周りいつも甘い匂い漂ってんよな。引き出しん中チョコやらキャラメルやらでいっぱいやん」
JH「そういえば見てくださいよあれ」
ジェヒョンの指す先には名前がいる。彼は俺と名前が付き合っていることを知らないはずだ(知っているのは彼女の入社当時から俺の話を聞いてくれていた同期のユタとテヨンだけだ)
JH「両隣の美男美女の目が死んでる中、あの子だけエネルギッシュにバリバリ書類捌いてますよ」
YT「おぉ、ジョンウいつもは鉄壁のかわいこちゃん路線やのに今日ばかりは殺気立っとるわ」
JH「名前に元気の秘訣聞いたんですよね、昨夜俺と一緒に残業だったのに目が死んでないから。そしたらなんて言ったと思います?」
―――えへへ、今日の朝ご飯が炊き立ての白米と納豆とシャケだったんです。大好きなお漬物とお味噌汁も
―――お腹いっぱいなので頑張れます
JH「美味しいごはんで元気になっちゃうところにシンパシー感じるけど、起きたら朝食が待っているというリア充エピソードに殺意を覚えました。絶対に許さない」
YT「怖い顔すなや」
はははと笑ってジェヒョンを宥めながら、ユタは俺の太ももに拳をぐりぐり押し当てて来る。痛い
JH「というわけで“リア充全員死すべし”というのが部署の総意です」
YT「ほんまやわー特にヨンホや名前みたいに無自覚に惚気る奴、終電逃してしまえばええのに」
「ひどいな」
ジェヒョンはぶつぶつ言いながらデスクに戻っていく。ちらっと見ると名前は目頭を押さえながら景気づけにカフェオレを一気飲みしている。ちらっと時計を確認する仕草は、たぶんお昼を待っているのだろう。今日の部署の様子だと昼も仕事しながらになりそうだ
YT「仕事せえ変態。ド突くぞ」
「声が怖いんだよ……わかってるよ。あと社内で不穏なワード出さないで」
昼休み実質返上、残業続きの毎日のおかげで、納期ギリギリではあったが何とか間に合った。案件に関わった2チームとも死屍累々といった感じだったが、プロジェクトの責任者だった上司の一声で打ち上げが開かれることになった
……どうせならそんな飲み会はいらないから、さっさと帰って名前とご飯を食べたかった
「ヨンホ!!何辛気くさい顔してるんだ、飲め!!」
「飲んでますよ先輩。先輩こそ飲み過ぎないでくださいよ」
「やーっと一仕事終えたんだぞ!!ぱーっとやらせろ!!」
そういって先輩は上司の酒を注ぎに行った。それを見ていたテヨンが苦々し気に言う
TY「よく言うよ……あいつだろ、こないだ名前ちゃんに自分のミスなすりつけたの。彼女上司に怒鳴られても文句言わずに残業してたよ」
「死ねばいいのに」
TY「……んっ?」
「何でもないよ」
おっといけない。酒の勢いでつい本音が
ユタは地が神経質で人間関係にも潔癖だが、鷹揚かつ社交的な性格からよく上司と部下の間を取り持っている。上司もユタを気に入っており、彼が間に入ることで部下をさりげなく庇うこともあるようだ。今も彼は上司に絡まれていたジョンウを助け、自分が付き合ってやっている
TY「だいたいさ、課長が点数稼ぎで無理な納期背負い込んだのに、そのしわ寄せ全部僕らに来てるじゃん。そのくせ課長はこっちのミスや遅れあげつらって怒鳴り散らしてばっかりでさ」
「自分の仕事の遅れさりげなく帰宅しそうな部下に責任ごと押し付けるしな」
TY「ヨンホが愚痴るって余程だね……疲れてるね僕ら」
「愚痴りたくもなるよ俺昨日泊りがけだぞいい加減名前ロスが辛い早く抱き締めてもふもふふわふわしたい美味しいごはんお腹いっぱい食べる幸せそうな笑顔を見て癒されたいあのふわふわのほっぺたと太ももで俺の心もふわふわにしてほしい…」
TY「だいぶ重症だわこれ…」
居酒屋のチヂミは冷めていて美味しくない。チヂミが大好きな名前もあまり箸が進んでいないのが見える。あぁ~焼きたてあつあつのを焼いて食べさせてあげたい…
名前はお酒が苦手でほとんど飲まない。たまに家で俺が飲んでいるのをひとくち飲んで、それでも苦いといって顔を顰めるほどだ。だからこういう席ではあまり楽しそうではない。気の置けない同僚とだけのご飯の方が好きなのだ
「……お腹空いてるんだろうな」
TY「ん?名前が?」
「あんまり箸が進んでない…ここの料理安かろう不味かろうだし」
TY「店選んだ先輩に角が立つからあんまり言わないの」
JH「その先輩の最近の情報教えてあげましょうか」
びくっと二人で振り返ると、ジェヒョンがビールジョッキを片手に割って入った。彼は結構酒が強いが、飲み会で騒ぐよりも隅っこで黙って飲み食いするのが好きなタイプだ
JH「こないだトイレで先輩たちが話してたんですよね、うちの課の女子社員のこと」
TY「というと?」
JH「要は誰と一番やりたいかって話です」
「ごふっ」
吹いたビールを拭きながらジェヒョンを睨む
「最低だな」
JH「俺は参加してませんよ。人気はやっぱりマドンナ先輩とシヨンちゃんですね、まぁ美人だし。ただあの先輩が…」
―――俺はあれだな、チェ・名前
―――胸でかいし結構よさそうじゃん?
―――でもなー地味っていうか顔が子供っていうか……ああいうのって実際手出すと重そうじゃね?
先輩が迷惑そうな名前の肩に腕を回し酒を勧めている。間に入ろうとするジョンウを押しのけてまで絡んでいて、名前の顔は真っ青だ
「……ぶっ殺す」
TY「ぶふっ」
JH「えっ」
TY「よよよヨンホ落ち着け!!ちょ、どこ行く…」
俺はテヨンの制止の手を振り切り、同僚たちを突っ切ってその先輩を名前から引き剥がした
「!!?…な、何だお前…ッヨンホ!!」
「飲み過ぎなんじゃないですか。彼女が嫌がってる」
「お前に関係ねーだろ!!俺は酒の席での女子社員としての振る舞い方をだなぁ…」
ぶちっ
「そうやって女子社員を見下してトイレで下衆な俎上に載せて前時代的なセクハラを押し通してるからろくな仕事が出来ないんだあんたは!!おまけにミスを抵抗出来ない女子に押し付けて上司に取り入るしか能がない!!名前に汚い手で触るな、この子は俺のだ!!」
シンと静まり返った居酒屋で、先程とは打って変わって真っ赤な顔の名前の腕を掴んで立たせた
「帰るよ」
「えっ…あの、せ、せんぱ」
「ほらコート着て」
凍り付いた空気の中俺は彼女にコートを着せてマフラーを巻き付け、手を繋いで店を出た。3分ほど歩いてから名前が正気に返ったのかじたばたしだす
「先輩まずいですよ戻りましょう!!あの人一応上司ですよ!!」
「だから何。あんなやつに大事な彼女を触らせておけとでも?」
「助けてくれたのは感謝してるし正直めちゃくちゃ助かりましたけど、明日から先輩が何されるか…あの人陰湿なんだから……」
俺は名前の腕をぐいと引っ張って、黙らせるようにキスをした。柔らかい唇を食み、もちもちの頬を両手で包み込む。逃げようとするので腰に腕を回して体を押し付けると、徐々に抵抗が小さくなっていった
「……」
「ヨンホって呼んでくれないの?」
「…よ、ヨンホさん……ばらさないでって言ったのに」
「ごめん、やっぱり我慢出来なかった。俺は名前が思ってるほど紳士でも大人でもないからさ。本当は結構子供っぽいんだ」
子供の頃、俺はベッドにあふれるぬいぐるみがひとつでも見当たらないと家中ひっくり返した。結局母が洗濯していたり、遊びに来た友人の妹が持っていっていたりしたのだが、俺は相手が誰であってもそのぬいぐるみを触られるのを嫌がった
誰にも渡さず、自分のテリトリーで守る。男の子なのにぬいぐるみに執着するといって、母はあまりいい顔をしなかった
「本当は嫉妬深いから名前の隣にジョンウみたいな出来る男がいるのが嫌だし、ジェヒョンに可愛がられてるのも嫌だ。独占欲も強いからお昼ごはんを美味しそうに食べる可愛い顔を他のやつに見られるのだって死ぬほど嫌だ」
「…ヨンホさん」
「あんなくだらないやつに触らせたくなかった。俺もまだ若手だからそこまで強くいえないのが情けなくて悔しい。出来るなら名前をどこかきれいな部屋に閉じ込めて、ふわふわの毛布で包んで、美味しいごはん食べさせて、誰にも見られないように可愛がっていたい。可哀想にストレスでせっかくもちもちしてたほっぺたが痩せたみたいに見える。もっともっとふわふわにしてあげたいのに」
「ヨンホさん……ちょっと怖いです。あと普通に変態です」
真正面からぐっさりぶっ刺された。よろめいて電柱に凭れていると、コートの後ろをつんつんと引っ張られた
「でも…嬉しかったです。ヨンホさん私のこと大好きですね」
可愛い
可愛い
可愛い
「…結婚しよう、名前」
「えっ」
「仕事続けたいならそれでもいいけど、結婚してるってわかったらああいう連中も自重すると思う。もしそれで仕事上の圧力とかかかったら言って。訴えてやる。それか転職」
「ヨンホさんアメリカ国籍でしょ?籍入れるならシカゴに行かなきゃいけないのでは……時間あるかな」
現実という水をぶっかけられた。まったくもう
「わかったよ、今すぐじゃなくていい。その代わり婚約して。指輪つけてればせめてもの虫よけになる」
「……えへへ」
「…何のん気に笑ってるの、可愛いな」
ほっぺたをむにっと摘まむと、名前の目から涙が溢れだした
「えへへ…ヨンホさんと結婚……嬉しいなぁ…」
可愛い
可愛い
可愛い
可愛い!!!
「覚悟してね。俺めちゃくちゃ束縛するし独占するし、結婚したら逃げ道完全にふさぐからね。理想のぽっちゃり目指すこともやめないからね」
「完璧なプロポーズだったのにぶっ壊れた」
「現実なんてそんなものだよ。俺だってバラの花束持ってプロポーズしたかったけどさ」
「でも……さっきのヨンホさん可愛かったから許す。変態だけど」
可愛い可愛い俺のお姫様
たくさんのぬいぐるみより可愛くて、柔らかくて、あたたかい
誰にも渡したくない大切な女の子だ
YT「超ど級の爆撃しやがってこの焦土化した雰囲気どないしてくれんねんあいつ」
TY「もはや焼け野原…」
JH「先輩社員の何人かは真っ青になってますよ。今まで何も考えずに接してきた女子社員が、出世コースまっしぐらでしかも専務の甥っ子のエースの彼女だって知って。まぁ俺も足の震えが治まらないんですけどね。やっべー…」
TY「ジェヒョンが余計なこと言うから…」
YT「え、待って、ヨンホあいつ専務の親戚だったんか!?」
JH「って噂ですよ。母方だし姓も国籍も違うから知ってる人少ないでしょうけど」
JW(例の弁当作ってたのってヨンホ先輩だったのかだからたまに先輩から殺気の籠った目を向けられてたのかやばいやばいどうしようヤバい)