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[想楽P♀]Sing.

全体公開 1795文字
2019-01-17 12:23:16

「大人ってなにさー……

歌う想楽君の無自覚片思いなお話です。

Posted by @toasdm

 今日は声がよく前に出る。思ったとおりの歌い方で、思ったとおりの感情を乗せて、どこまでもどこまでも、真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるような歌い方が出来る。たまにこんな日がある、とレッスン室でついた溜め息は、充足感に満ちていた。
 こうなると、誰かに聞いて欲しい、と思ってしまうのが人の常。思い通りに歌って聞かせたいという感情を胸に、想楽は水を一口呷ってから、しばらくぼーっとしていた。レッスン室を後にして、休憩室で思うのは、最近やたらと夢に出てくるプロデューサーのことだった。
「なんでだろうねー……
 ペットボトルのキャップをいたずらに、人差し指でぐりぐりとこねながら、想楽は誰ともなしに聞く。どうして彼女が夢に出てくるのか。普段から、なにか彼女を意識するようなことは特にないはずなのに。

 聞いて欲しい、と思うのはなぜなのだろうか。

「はぁー……
 想楽の溜め息の理由はもうひとつあった。先日何の気なしにふと、夢にプロデューサーさんが出てくるんだよねーと漏らした想楽に、ユニットリーダーの雨彦が気になることを言ったのが原因だ。
「夢枕に立つのは、相手が自分を思っている証拠、かー……
 どんな思いかは知らないがね、と意味深に笑ってみせた雨彦にとりあえず肘を食らわせはしたが、その日以降、夢枕に立つ彼女が想楽の気がかりになってしまったことは事実だ。彼女が自分を思うとしたらなんだろうか、と考えてみたが、やはりユニット最年少だから心配をかけているのだろうか、とか、次の仕事をどうするかだとか、年齢的にどうしても手間をかけさせてしまっているのかもしれない、と思うと気持ちが少し沈んだ。
 僕は大丈夫だよー、好きにやってるよー、お仕事は楽しいよー。
 そんな風に言葉でも態度でも示しているつもりではあるのだが、大人である彼女からするとどうしても見劣りするような、埋めようのない何かが自分にはないとはどうしても言い切ることができなかった。
「大人ってなにさー……
 休憩室のテーブルに突っ伏して、想楽は投げやりな言葉を吐き出した。
 こんな時でも、歌うことで気分はいくらか晴れはする。自分の感情を偽らずに歌に乗せて、想いを伝えることは想楽にとってはたやすいことだった。歌おっかなー、と休憩室で、想楽は自分の持ち歌を歌った。
 感情を乗せて歌うとは、歌詞を自分なりに解釈して、その時自分が思い描いた景色をどうやって伝えるかという言葉選びだ。思い悩み、それでも自分が自分らしく生きていく為にどうするか、どうあるべきか、どうありたいか。丸裸の感情を乗せることはまだ恥ずかしくてできなかったが、それでも、無駄に周囲の目線を気にしたりせず、まるで着なれた服を選ぶように感情を手に取って、自然な気持ちで歌う歌は、自分の耳にも心地よかった。
 吸い込んだ息が、旋律になって、自分が思ったとおりの場所に思ったとおりに響いていく。この快感が、自分を歌の虜にしているのはわかっていた。伝えたい、聞いて欲しい、できればもっと沢山の人に、大丈夫だよってわかってほしい。誰か一人だけの為ではなく、聴いた人みんなが自分の為だと思ってくれるようなそんな歌を、届けたい。
「っふふ、そっかぁー」
 大人になるというのは、こうした経験の積み重ねなのかもしれない、と歌の中で想楽は思った。夢枕に立つ彼女は、もしかしたらそんな自分を応援してくれているのかもしれない、頑張れって言ってくれているのかもしれない、と思えば、腹の底から幸せを叫びたくなる。胸いっぱいに息を吸い込んで、想楽は思いっきり、歌った。

「♪君は君を~、識らなくちゃ~」

 きっと、これが今までの僕の中で、一番僕らしく歌えたんじゃないかな。そう思って想楽は満足した。そうなると、やはりどうしても、誰かに聞いてもらいたくなる。
 できれば、夢枕に立って自分の背中を押してくれる彼女に。
 今はまだ届かなくてもいい、でもいつか、自分の感情を丸裸にして伝えることができるようになったら、その時は聞いて欲しい。そんな風に思いながら、想楽は歌う。

「♪僕も僕を~、識らなきゃね~」

 自分の知らない自分を、この先想楽はいくつ識ることができるのだろうか。無自覚な想いを乗せたフレーズを、彼女は休憩室のドアの前で、頑張ってください、と想いを込めてじっと聞いていた。


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