@acbh_dmc4
フィレンツェへと向かう前夜、伯父マリオからモンテリジョーニの中心にある小さな教会に、この度新しい神父を迎えるという話を聞いた。
特に信心深いとは言えない質であるのに、伯父上の推薦でモンテリジョーニへと招いたらしい。
そして面白そうにその話をする伯父上曰く、その神父はどちらかと言えば悪魔祓いであるらしい。
なんでもローマの殆どの悪魔や悪魔憑きを祓い清め、さらには都市の発展にまで追力したと。
とにかくとんでもないやり手であるという。
なるほど、伯父上が興味を持つ筈だ。
しかし、何故そんな神父もどきの悪魔祓いを、態々ここモンテリジョーニに呼び寄せたのか。
そも、うちの家系は魔の者とは切っても切れない間柄と言っても過言ではない。
場合によっては魔を呼ぶ異端者達の国として国自体が他の国に攻撃されかねないというのに…
そんな疑問が顔に出ていたのだろう、伯父上は豪快に笑い、そして俺に向かって「会ってみればわかる」と、良く分からない返答と共に、背中を思い切り叩かれた。
そしてそんな話をしたことも忘れかけ、早数か月。
俺はようやとモンテリジョーニへと戻ってきていた。
領民たちから帰還の歓迎を受け、気分よくヴィラ・アウディトーレへと帰宅する。
今までフィレンツェのメディチより密使を受け、その地で起こっていた悪魔関連と思わしき事件の調査と討伐のため、少々屋敷を空けていたのだ。
馬を厩番に預けて久しぶりに顔を合わせる母と妹に挨拶をする。
二人とも嬉しそうに迎えてくれ、俺がいない間のモンテリジョーニの事を話してくれた。
「そうそう、兄さまがお屋敷を空けてすぐに新しい神父様がいらしたの。とっても優しくて、知的で素敵な方よ」
「そうか、クラウディアが絶賛する位だから相当良い男なんだな?」
「ふふ、もうちょっと彼が若ければ、兄さまか神父様の二人で人気の取り合いになっていたかもしれないわね」
クラウディアの言に母上も同意し、その神父に関する賛辞を山と聞かされる。
そこまで絶賛されている神父とはどんなものかと、それはそれは気になった。
夕刻、伯父上がヴィラに戻り、俺はフィレンツェでの仕事について報告を済ませた。
結局悪魔とは関係のない人間の愉快犯だったせいで、捕まえるのに苦労した。
そんな愚痴交じりの報告を済ませ、それを面白そうに笑って聞いていた伯父上が、件の神父にはもう会ったのかと聞いてきた。
俺自身帰って来たばかりだった事もあり、挨拶するにも日を改めようと思っていたのだが、帰るなり度々話題に上がるその神父の存在に興味を惹かれた。
それに伯父上が話すことには、悪魔祓いとしても優秀だとのお墨付きを貰っているともなれば、どうにも試してやりたい気持ちがむくむくと出てくる。
今からでは迷惑ではないかとも思ったが、伯父上にその神父への言伝も頼まれたので、余所行きの服へと着替えて屋敷を出た。
ただ会いに行くだけでは詰まらない。
どうせなら神父の実力を確かめるために、彼の寝室へと忍び込んだ。
窓からするりと部屋へ入り、暗がりに溶け込んで神父のお手並み拝見と待ち構える。
すると、直ぐに神父は寝室へと駆け込み、手に携えた剣を真っ直ぐ俺の潜む暗がりへと刺し構えた。
神父の実力が本物だとわかり、相手の確かな実力に感心する。
そして神父はよく通る落ち着いた声で、まだ姿を現さない俺に問いかけた。
「出てこい悪魔。素直に従えば苦しまぬよう、あの世に送ってやる」
逃がすという選択肢は初めから無いようだ。
剣呑な雰囲気を湛えた神父は、俺の心臓にピタリと剣先を合わせている。
俺は両手を顔の横にあげ、暗がりからゆっくりと姿を現した。
「面白半分で試すように部屋に入って悪かった。俺はアンタに挨拶に来ただけだ」
一応敵意はないと彼に伝えてみる。
この程度で彼が引くようには思えなかったが、意外にも神父は剣を下した。
「君は昼間の…。マリオ殿の甥か。…悪魔憑きなのか?」
「悪魔憑きというのもちょっと違う…俺自身、インキュバスとして生まれてきた。何かが憑いているというよりは、元々魔の者であるのだろう」
「インキュバス…」
神父は思案するように髭に手を当てると、品定めをするように俺の姿を上から下まで舐めるように見やった。
「サキュバスではなく?」
「…男は専門外でね」
神父の含みのある言い方に、少々うんざりとしてしまう。
俺は男女問わず求められるので、こういった応酬は初めてではない。
そして神父に公然の秘密を伝えようと口を開く。
「この地にいる領民の一部は俺の正体を知っている。貴方は伯父上からは何も聞いていないのか?」
「いいや。マリオ殿からは何も…ただ、驚くだろう、としか」
「…伯父上らしいな。まぁ、なんというか…俺と関係を持つ者には俺の事は説明している。生気を貰わないと酷い事になるのでな。俺自身も悪魔祓いとして活動をしているし、人と敵対する者ではない」
改めて神父が俺を見定める。
欲の絡まない真剣な眼差しに、どきりと心臓が強く脈打つ。
「…まぁ私は、余生を過ごすためにこちらに来たのだ。マリオ殿と交友があってな。
彼の勧めもあってこちらに来た。君に害がないというのなら、私は何もせん」
神父はそう言うと、優しい笑みを見せた。
その彼の柔和で思慮深い顔に目が釘付けになる。
何故だか彼に無性に触れてみたくてたまらなくなる。
この感覚は好みの女性や、生気が欲しくなった時のものに非常に似ていた。
男相手にこんな風に欲を覚えるなど、初めての事で戸惑いを覚える。
「あ、ああ、そうだ。お、伯父上から今度夕食をと言付かっていた」
思わずしどろもどろで彼に伯父上の誘いを伝えると、彼は少し嬉しそうに微笑んで了承してくれた。
***
翌夕、家族と件の神父を交えて豪勢な食卓を囲む。
伯父上は上機嫌で神父と笑いあい、会話を弾ませていた。
「まったく、貴方は人が悪い。甥に会えば驚くから楽しみにしていろと言うばかりで…
昨夜は咄嗟に彼を祓う所でしたよ」
「はっはっは!驚いただろう?しかし、エツィオはちょっとやそっとじゃやられないぞ!
なんせここいらじゃ彼が最強の悪魔祓いで名を上げているからな。貴方もこれで漸く休めるだろう」
豪快に笑う叔父マリオに苦笑しつつ、和やかに話す神父に釘付けになる。
昨夜からどうにも彼が気になり、昼間はこっそり後をつけてしまった。
神というよりも神父に熱心な信徒たち(女性)に愛想よく接し、本当に救いを求めてやって来ている者には親身に寄り添って諭してやり、領民の子供たちにはお道化て見せる。
成程、神父としても彼は優秀なのだとまた感心した。
今も母上やクラウディア、そして伯父上に合わせて話を振る。
クラウディアは彼がもう少し若ければ、と言ったが、今日一日の彼を見る限り、十分皆からの人気は高いだろう。
そんな神父を盗み見つつ、静かに皆の会話を聞いていたら、神父が急にこちらを見やって話を振ってきた。
「しかしエツィオ、君はマリオ殿の甥なのだし、私は君を討伐したりはしないよ?」
一瞬、何のことを言っているのか分からず神父の顔をポカンと見つめ、固まってしまった。
その俺の態度に苦笑して、神父は昼間俺が彼をつけていた事を指摘してきた。
「よっぽど教会に寄るかと声をかけようかと思ったんだが、どうにも私が君の元へと行こうとすると逃げられるので…初対面で剣を突き付けてしまったから、無理もないと思うが」
神父は申し訳なさそうに苦笑していた。
俺は気づかれていたこともだが、神父のそのあどけない困ったような顔にもどぎまぎして、なんと言い訳していいやらまるで頭が働かない。
「べ、別に警戒しているという訳では…」
「あら、兄さまお顔が真っ赤よ?」
「見たところ、エツィオは貴方の事が気に入ったようだ。お前も彼が気になるなら一度腹を割って話してみろ。
そうだ、今日は家に泊まって行かれてはどうかな?」
そんな急に困るだろうと思ったのだが、神父は朗らかに了承すると、俺に向かって微笑みかけた。
神父は俺に向かって身を乗り出すと、目を輝かせて話しかけた。
「実は君の事は前々から知っていてね。モンテリジョーニに腕利きの悪魔祓いがいると。
同業者の間で噂になっていたのだ。どんな男か興味を持っていて、一度話したいと思っていた」
「そう言った話も前々から聞いていたし、余生を穏やかに過ごしたいと彼が言っていたので一石二鳥だと思ってね」
「まさかその悪魔祓いが魔の者とは思わなかったが…君を見て、より興味を持ったよ」
そう言って穏やかに微笑む神父に、何故だか無性にドギマギとしてしまい、顔の熱をごまかす様に、ワインを呷った。
***
夜遅くまでこれまで仕留めた悪魔の話を肴に、飲みながら話し込んでしまった。
そろそろ眠気を感じ始めてきたところで、伯父上に神父を寝室へと案内するように言われて、客室へと案内する。
危なげない足取りで神父の腕を肩に担ぎ、支えながら歩く。
服越しに触れる彼の体は筋肉質で、何故だか煽られ体の奥に燻るような熱を感じた。
部屋の扉を開いて彼が入るのを促すと、彼が俺の腕を強引に引っ張り、扉へと縫い付けた。
彼の手が俺の顎をつかみ、至近距離で見つめられ、まるで猛禽類のような鋭い視線に射抜かれる。
「私は、君ともっと話がしたい…君の事をもっと教えてくれないか?」
耳元で密やかに囁きかけられる。
何故だか神父のその声にゾクリと肌が粟立ち、見過ごせない程の快感が体を走り抜けた。
彼の瞳には仄かな情欲が灯っている。
たびたび男からも向けられるその欲の視線は、常なら俺に不快感しか与えないはずだった。
それなのに、彼にそうやって見つめられるだけで、まるで金縛りにでもあったように体が動かない。
神父は端正な顔をしているし、酔いで火照った彼は婀娜っぽく、色気があった。
そんな彼を前にこくりと喉が鳴る。
急速に覚えた欲と渇きに、俺は彼の背に両腕を回して、彼の唇に触れるか触れないかの距離で囁き返した。
「話すだけか?それとも…」
続けようとした言葉は彼の唇に飲み込まれ、熱い舌が咥内を愛撫する。
饒舌なそれは、俺の好色な性分を上手に引き出してくれる。
俺を「サキュバス」と揶揄したということは、俺の役割はそれなのだろう。
ゆっくりと彼の手が背筋を通り、尻を撫でて太ももの裏をなどる。
もう片手で俺の髪のリボンを解き、髪を掴んで口づけを深くする。
俺は彼の腰のベルトを引き抜き、ズボンの紐を解いて彼の欲望を探るように中に手を滑り込ませた。
「…脱がせるのは下だけか?」
「禁欲的な神父の衣装って興奮する。このままシたい。汚れたら俺の服を着ればいい…
調度同じくらいの体型だし」
そう言って口づけ合いながらベッドまで移動する。
彼をベッドへと押し倒し、馬乗りになれば、好色そうな笑みを浮かべた。
覆いかぶさるように口づけてから、ゆっくりと彼の足の間へと移動する。
ゆるく反応をしている彼の欲望に顔を寄せ、べろりと舌を這わせてみたが、やはり嫌悪感は感じられない。
寧ろ同じ男の欲望を咥える事で、眩暈がしそうなほど興奮を覚える。
欲望を舌で愛撫し、滑りが良くなるように彼のモノを唾液で濡らす。
指で輪を作り、彼のモノを勃たせるために数度扱き上げれば、熱い欲望が起立した。
味わうようにその欲望を舐め、吸い付き、それから大きく口を開けて飲み込んでみる。
頭上から降ってくる押し殺した喘ぎ声が聴覚をも犯す。
ああ、タマラナイ。
このまま、彼が欲しい。
もっと彼に触れたい、触れてもらいたい…
喉の奥までその熱い欲望を咥えこみ、熱心に奉仕する。
彼のモノを咥えているだけなのに、苦しくて、気持ちが良くて仕方ない。
「…男は、専門外じゃなかったのか?随分慣れているように思うが」
彼が何事か俺に話しかけている。
欲を抑えて押し殺した彼の声は、頭を蕩けさせるほどに心地がいい。
うっとりと見上げれば、苦笑した彼が俺の髪を撫でた。
「私も君に触れたい」
そう言って神父が起き上がり、夢中で彼の欲望に唇を寄せる俺を組み敷いた。
流れるようにシャツのボタンを外され服を剥かれる。
露わにされた肌に所有の証を刻むよう肌をきつく吸われ、そして大きくがさりとした掌が滑る様に脇腹を撫でる。
触れられる先からこそばゆさとピリピリとした快感を感じ、彼の髪に指を滑らせねだる様に押し付ける。
首筋から徐々に下降し、左胸の尖りに舌を這わされる。
逆側は神父の指が捏ねる様に摘み上げ、押し潰したりと弄られる。
まるで全身が性感帯にでもなったように、触れられる箇所が熱を持ち、痺れるような官能に酔いしれた。
彼の欲望に奉仕をしている時から痛いほど立ち上がっていた俺の熱を、彼の腹に擦り付け、先をねだる様に彼の頭部に口づける。
余裕のないその態度に彼はクスリと笑みを零すと、胸から顔を離し、窮屈なズボンの腰紐を解いて下着から俺の熱を解放してくれた。
無骨な手が優しく熱を包み込み、先走りで濡れた先端をぐりぐりと指で穿られて、滑りをよくするようにカウパーを塗り広られた。
ゆっくりと熱を育てる様に彼の手が上下に動く。
もっと激しく扱いてほしくて、もどかしく彼を睨みつけると、喜色に濡れた榛色の双眼と目が合った。
ゆっくりと彼の唇が笑みの形を取り、意地悪そうに眼が細められる。
まるで捕まえた獲物を嬲り、弄ぶ悪魔のような表情に、ドクリと全身の血が沸き立った。
「どうしてほしい?」
捕食者の顔で囁くように問われる。
その甘く低い声に、急速な渇きを覚えて思わず懇願してしまっていた。
「嬲ってくれ、貴方の思うまま」
「…いいだろう」
彼の首に縋り付くように両腕を回し、自ら口づける。
息をするのも煩わしく、彼の口の中を舐めまわし、口に注がれる彼の唾液を飲み下す。