ads by microad

【苦悩するチート鑑賞会エントリー(No.001)】抜粋

藍間@文フリ京都委託
Publish to anyone
2019-01-18 20:31:17

 やはり、彼女は強い。この数を相手に立ち回れてしまう点だけでもそう言い切れた。何より戦い慣れしているのは明白だ。単なる一対一の戦いでは得られない場数からくる経験がなければ、こんな場所でこんな状況でこの人数を相手取ることなどできない。まさかラウジングも、自分がたった一人で彼女と向き合うことになるとは思わなかった。
 それでも逃げ出すわけにはいかない。彼は腰から下げた短剣に手を伸ばした。何のためにこれを託されたのか、忘れてはいない。こういう場合も考えられていたに違いない。すると彼女は興味深げに瞳を細めた。
「エメラルド鉱石か」
 ぽつりと漏れた呟きが、彼の耳にも届く。まさか一目で見抜かれるとは思わず、剣を握った彼はつい瞠目した。エメラルド鉱石の短剣。精神を大量に込めることができる類い希なる武器ではあるが、見た目は他の物と変わらない。手にすることでかろうじて何かが違うとわかる程度なのに。
「またとんでもない物を持ち出してきたなぁ」
 紅に輝く泉を背にしたまま、彼女は微苦笑を浮かべる。やはりこの武器の威力についても知っているのか。彼らの本気が伝わってしまったとなると、油断してくれることは期待できなかった。
 手に力を込め、彼は息を詰める。狼狽が一番の敵だ。彼女の体力や精神量も無尽蔵ではないだろうから、必ず勝機はある。そのために犠牲が出ることを厭わず、じっと今まで待っていた。
「ラウジング、とかいったな。お前は本当に戦いたいのか?」
 炎が勢いを増し、火の粉が瞬く。熱気のせいか、それとも錯覚か、彼女の顔が揺らいで見えた。会話をすることで少しでも回復しようという魂胆だろうか? そう疑うものの、彼はすぐさま動き出すことができなかった。一度戦闘が始まってしまったら一瞬の気の緩みも許されない。その覚悟にはあと一歩何かが足りない。彼はぎりと奥歯を噛んだ。
「戦いたいか戦いたくないか、そんなことは関係ない。お前にこのままこの星で好き勝手されるわけにはいかない」
「なるほど、われのせいということか。まあ、その気持ちは想像できる。今までひっそりと引きこもってきたわけだから、家の中を荒らされるのは我慢ならないのだろう?」
 怒るどころかしみじみと同意され、彼は困惑した。「引きこもり」という揶揄にさえ、咄嗟には反論できなかった。間違ってはいない。彼らはずっと、この巨大結界の中に隠れていた。――否、隠れられてはいない。しかし手が出せないと認識されることで長らく平穏を保ってきた。危うい安寧だ。
 それなのに、内側でこんな混乱が生じていることが知れたらどうなるか……。想像したくもなかった。だから皆が焦っている。狼狽えている。もしもの場合を考え、一刻も早く手を打とうとしている。
「警戒するのは当たり前だろう。一体、何が目的なんだ?」
 何度も脳裏をよぎっていた疑問を、彼は口にした。得体の知れないこのレーナという存在を、危険視するのは妥当だと思える。小さな綻びが破滅を導く例は、嫌というほど耳にしていた。
「目的? 端的に言えば、現時点ではオリジナルたちを守ることだ」
「守る? 何から?」
「それは言わずともわかっているだろう?」
 小首を傾げた彼女の髪が、熱風に煽られて優雅になびく。柔和にすがめられた瞳を凝視することは、彼にはできなかった。まさか魔族からとでも言いたいのか? 彼女が情報提供者として、半魔族の復活について警告してきたことを思い出す。そのために彼女は来たと?
 では何故神技隊を襲ったのか? やはり腑に落ちない部分がある。行動に一貫性が見いだせない。彼女の言葉を信じるだけの材料がなかった。嘘は吐いていなかったとしても、まだきっと隠していることがあるのだろう。そんな気がする。


ads by microad

You have to sign in to post a comment or to favorites.

Sign in with Twitter


Profile
藍間@文フリ京都委託 @aimapearl
Share this page

ads by microad


Theme change : 夜間モード
© 2019 Privatter All Rights Reserved.