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暴食の竜(4)

@sin_niya_b
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2019-01-20 22:33:32

登場…ニール( @himawari_153 )、グンヒルド、ティべリオ( @mikadorobo )、フレデリック( @N_ichiichi )、アラン( @nnmy_ssrn )




4.

 盛り上がっている木の根を飛び越え、頭の位置に張り出している枝を身を縮めて避ける。
 躓いたら、終わる。
 背中に叩き付けられる殺意の質量は騎士一人など容易く押し潰せそうなほど圧倒的で、彼の足がすくまないのは経験と意思の賜物であった。
 最短距離を真っ直ぐ走るなどという愚を犯せば突進を食らうことになる。進路を左右に振りながらの疾走は騎士の体力を容赦なく奪っていく。
 大きな怪物をたった一人で引き回す騎士、ニール・ランドルフは背中に意識を向けながらも進行方向の把握を行い、かつ休みなく足を動かし、更には俯瞰した視点を維持しながら舞台へと向かう。思考と運動の並列は体力を消耗するが、ニールの頭はどこか冷えていた。
 ――あれは生き物だ。どれほど強大であろうと、魔法のような能力を持っていようと、苦手なものがあり、血を流せば死ぬ生き物だ。
 ちっぽけな生き物に先導されるまま森を突き進む蛇竜、ワイアームの周囲に飛び散る木片や土石。不意に屈んだニールの頭上を折れて千切れ飛んだ枝が通過する。すぐさま姿勢を立て直したその数瞬後には先程までニールがいた場所をワイアームが通りすぎた。足が無いワイアームは足跡こそ残さないが、地面を這いずることと低空を飛行することを織り混ぜることによって土が抉れて独特の跡が残り、また、図体よりもはるかに素早い動きが可能である。
 森の支配者であるワイアームは、小さな獲物が隠れもせずただ逃げていることに何の疑問も感じていないだろう。この王者に敵はおらず、警戒などする必要はない。ただ狩り、喰らい、壊すことだけがかれの本懐。
 また一本大木が倒れた。騎士は振り向きもしない。


「……来る」
 森の気配に集中していたティべリオが、片手を挙げて合図した。舞台の設営を終えて待機していた騎士たちがそれぞれ武器を構え呼吸を整える。それから一拍の間を置いて、地響きのような音が彼らに近付いてくる。
 その場に――少し開けた川沿いの場所に――飛び込んできた小柄な影に声をかける間もなく、巨大な蛇竜が騎士たちの眼前に躍り出た。
 突如獲物が増えたことにもワイアームは動揺した様子はなく、威嚇するように大きな咆哮をあげ騎士たちの頭を揺さぶった。が、それに凍り付く者は一人もいなかった。
 食うか食われるか、狩るか狩られるか……強大な森の支配者と誇り高き王国の剣たちの殺気が交錯し、弾けた。
 一旦息を整えるために後ろへ下がったニールと入れ替わりに飛び出したのはグンヒルドである。それに他の騎士も続く。平野や市街地とは得物の勝手が違うが、熟練の騎士たる彼らに危なげはない。
 ワイアームの巨体は縦横無尽に動き、胴でひと一人を弾き飛ばしたり木をへし折ったりしたが、騎士たちは怯まない。しばし続いた攻防の末、騎士たちの攻撃が再びワイアームの尾を切り飛ばす。肉が盛り上がり引き伸ばされ結び付こうとする寸前、
「アラン!」
 呼び掛けと同時、突如横合いから現れた水が千切れた尾と引き伸ばされた筋や肉を飲み込んだ。そしてそのまま押し出すように川へと落下させる。
「——————!?」
 あっという間に下流へ流され見えなくなった尻尾。ワイアームは苦痛にのたうつが、その尾は再生しない。傷口は収縮し出血は緩やかだが、力任せに周囲を薙ぎ払っていた尻尾は戻らない。
「よし、いけるぞ!」
 失われたのは薙ぎ払いだけではない。ワイアームの長大な体は寸分の狂いなく完成されていたからこそ巨体であるにもかかわらず俊敏に動いていた。尻尾を失えば体のバランスは崩れ、その動きは明らかに精密さを欠いている。
 ……そのすこし後には翼の片方も川へと流され、「手負いの竜」となったワイアームは小回りこそ出来なくなったものの攻撃性は増していた。長引かせるよりここで仕留めきるべきだと目配せしあった騎士たちは、一気にその包囲網を狭める。
 突然、ワイアームの眼前で炎が渦巻き、避けるべく仰け反ったその喉から胸の下へ潜り込むように二人の騎士が走る。グンヒルドとニールである。
 真っ直ぐ天へ向けて突き上げられた短槍の持ち主の燃えるような真紅の目は、喉を貫かれ心臓の震えるような鳴き声をあげ身をよじったワイアームがこちらへ殺気を向けたのにも動揺せず見開かれ、槍をしっかり握り続けている。
 閃いたニールの剣でワイアームの胸が切り裂かれ血が降り注いでも、グンヒルドは一歩も動かなかった。


 騎士たちが帰還したその日に意識を取り戻した若者は、己の村を襲った蛇竜が退治されたと聞いてもただ「そうですか」としか言わなかった。彼がようやく感情を爆発させ泣いたのは、村から避難した村人たちの生き残りと再会してからだったという。
 念のため数日間は森の調査が行われ、安全が確認されてから村の立て直しに取りかかることになった。とはいえ、それに何年かかるのか、そもそも何人が戻るのか、見通しはつかない。騎士たちは王国を、民を守るのが務めであるが、その後のことは彼らの仕事ではない。この後村がどうなるかは彼らの関知外である。
 つまるところこの話は、「悪い竜は騎士たちによって倒されました、めでたしめでたし」で終わるのだ。


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新矢 晋@企画用
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