@toasdm
久しぶりの休み、友達と出かけてお茶して話して、リフレッシュできた。たっぷり話せて休日を満喫して、ふ、と時計を見るともう午後の三時だ。そろそろ帰ろうか、と言い出したのは友達の方だった。
「ステキな彼が待ってるんでしょ?」
「も、もぅ……!」
今日は道夫さんもオフの日だ。一緒に出かけたかったけど、たまには気兼ねなく友達と遊んで来なさい、と快く送り出してくれた恋人の存在までは友達に知らせているけど、アイドルであるということは伏せてある。今度紹介しなよね、と手を振る友達と別れて、私はスマートフォンを確認した。メッセージ、一件。
《帰宅は何時くらいの予定だろうか》
まるで声が聞こえるかのような生真面目な一文にくすりと笑いながら、私は手早くメッセージを返す。
「ゆうがた、いこうに、なります、と」
内容をよく確認しないままメッセージアプリを閉じると、私は電車に飛び乗った。早く会いたい、という気持ちのスピードは、電車なんかよりもずっと速かった。
「道夫さん、ただいまー……?」
ん?と思ったのは玄関だった。あれ、私こんな香りのルームコロン使ってたっけ?と思って、くんくん、と部屋の香りを嗅いでみる。こんな、エレガントなローズの香りのルームコロンなんてあったっけ……?首を捻りながら靴を脱いでリビングへのドアを開けると、そこには――。
「んなっ!?」
「おかえり」
私の想像を絶する光景が広がっていた。
床とソファに広がる真っ赤なバラの花びらと、モダンでシックな燕尾服に身を包んだ道夫さん。ソファの上、優雅に座って、胸元にはご丁寧にバラの花が一輪挿してある。髪の毛もカッチリと固めて、なんというか……。
「え、エレガント道夫さん……?」
「うむ」
あ、合ってたんだ。っていうか何が合ってて何が間違ってるのかわからなくて、私はドアを一度閉めてからもう一度開けてみる。
「何度開けても優雅な私のままだ」
「なんでーーーーー?!」
優雅なのはわかった、エレガントなのはわかった、わかったけど、この状況は何?!なんのドッキリ?!混乱し通しの私をくすくすと笑いながら、道夫さんはスマートフォンを見せてくる。
「君がこんなことを言うものだから、私なりに対抗してみた」
「ん……?」
それは、早く帰って会いたくて、ささっと送った私のメッセージ。……の、誤変換だ。うわ恥ずかしい、と気付いて真っ赤になった私の頭をぽんぽんと撫でて、道夫さんはニヤリと笑う。
「ち、違うんです」
「知っている」
「夕方以降、って打ったつもりなんです」
「わかっている」
「だったらどうして!」
「ネタフリには全力で応えるべきだろう、アイドルならば」
「それはバラエティ慣れしたアイドル限定です! じゃなかったら芸人さんですよ!」
「ふむ、では今後そのような仕事も増えるのだろうか」
「し、知りませんよ!!」
「エレガントな仕事を頼む」
「もういじらないでぇ!!」
「ははは」
画面に表示された誤変換は【優雅対抗】。私の優雅の引き出しはこれが精一杯だ、とお腹を抱えて爆笑する道夫さんの肩をばしばしとたたきながら、私はこの恥ずかしさとやるせなさをどうするべきか考える。
目一杯開けた道夫さんの引き出しから出てきた「優雅」は、道夫さんのポテンシャルの高さと行動力のすごさと、ノリのよさを私に教えてくれているような気がした。
せっかくだから、このバラを風呂に浮かべて今夜は一緒に入ろう、という提案だけは素直に受け入れて、私はただ、エレガントなままバラの花びらを拾い集める道夫さんを見ながら真っ赤になっているだけだった。