調子に乗ってまた書きました。書くごとに残念さが増していきます。何故だ。今回はゲストにあの方登場です。完全くたろ得妄想をどうぞ。
名前変換
@risa_natsuko
子供の頃から私は良くも悪くも目立たなかった
基本的にまじめだったし、あまり風邪もひかない健康優良児だったし、母の作るご飯を毎日残さず食べ、おやつもしっかり食べ、運動は苦手だったが勉強もちゃんとして、すくすくまっとうに育った
クラスメートとの関係もまぁ良好で、多くはないが気の合う友達もちゃんといた。一日一回「彼氏欲しい」と叫ぶ友達になんとなく賛同していたが、自分が主人公タイプではないことはなんとなく察していた。主人公と言えば、例えばうちの兄のような人を言うのだ
7つ上の兄は妹の私をたいそうかわいがってくれた。ちょっとウザいくらい可愛がってくれた。わからない勉強はつきっきりで教えてくれたし、毎年夏になると水泳の特訓をしてくれた。あんまりスパルタなので逃げ出そうとすると物理的にとっ捕まった。だが頑張ると決まってお菓子をくれた
そんな兄は絵にかいたような「少年漫画の主人公」タイプだった。背が高く、本当に私の兄かと思うほど顔が濃く、成績優秀で、どっかの自称百獣の王みたいに運動神経がよく、そして何より暑苦しかった。松○修○みたいに暑苦しかった
「名前はお兄ちゃんと結婚するって言わないのか?」
「絶対イヤ」
「…ッ!!!」
そんな釣書最強男子の長男を両親は誇りに思っていた。兄が何か成し遂げるたびに褒め称え、「お前も見習いなさい」と言ってきた。それなりにいい子で成績もよかったはずの私が、兄の隣にいると手のかかる凡庸な子になってしまった
そう聞くとまるで私が兄を嫌っているように聞こえるし、優秀なきょうだいを持ったが故の苦しみを味わっているかのようにも聞こえる。だがここでポイントなのは、だからこそ私はいつも兄のそばにいたということだ
私は主人公になんてなりたくなかった
ろくなもんじゃないと、幼少期からそばで見て来て知っていたからだ
兄はサッカー部でエースだったうえに成績を誇る両親のために勉学もおろそかに出来ず、いつも練習漬け・勉強漬けだった。食事も部活で決められたメニューだったし、当然彼女なんて作る余裕もなかった
私はその点割と放置されていたので、好きなことに没頭出来た。本を読んだり、ドラマや映画を見たり、友達と買い食いしたりした。マーサ・スチュアートやジャーダ、レイチェル・クーなど、海外の料理研究家の動画を見てよだれをたらした。理想の男性はジェイミー・オリバーだった。要は食い意地が張っていたのだ
兄はその異様なスペックの高さから、交友関係も凄まじかった。クラシックのコンクールで優勝しオペラを学ぶため留学した人や、校内でロックバンドを組みその「聴けば五つ子を孕む」とまで言わしめた美声を持ちながらも歌手デビューを蹴り作曲家の道を歩んだ人、兄の喧嘩友達だったが学生起業で始めたファッションブランドがヒットし若者のカリスマとなった人、類まれな美貌からモデルや俳優として今や韓国で知らぬ人はいないとまで言われる人
どいつもこいつも私なんぞが拝謁の光栄に浴すことなど叶わぬような方々である
私も最初はひがみそうになった。だが彼らの苦労を思い知って、むしろ同情した
「もう無理……緊張しすぎて吐く…コンクール終わるまでチキン禁止とかふざけんなよ…」
「あ゛―――――ッ!!歌詞は浮かぶのにメロディが降って来ねぇ!!来いよ!!うわああぁん泣くぞ!!」
「ちょっと何なのこれ!!注文したのと色が全然違うんですけど!?これじゃ文化祭までに間に合わないじゃん!!」
「ねえちょっと誰だよあのプッツン女に僕の番号教えたのー。そろそろ事案だよー警察に訴えるよー?」
見目麗しく才能豊かな彼らにトラブルはついて回り、平和とは程遠い人生を歩まれているようだった。可哀想に。私は兄の影に隠れているおかげでそういうトラブルとは無縁だった。中には彼らと近しい私を嫌う人もいたが、あんまり地味に謙虚に小さくまとまっている私に誰もが戦闘意欲を喪失した
私の人生の目標は「堅実」「誠実」「安定」「美食」この4つだった。そのため私は真面目に勉強し、いい大学に進学し、一生懸命就活し、安定した職を得た
その途中兄やその友人たちと同類と思われるキム・ジョンウと腐れ縁のようになってしまったが、何しろあの美貌は恒星のように光を放ち続けたので、隣にいる私はすっかり存在感が消えた。少女漫画で「何であんたなんかが○○君の隣に…ッ」といじめられるシーンがあるが、そういうことってそんなにない。その人たちには「○○君」しか見えておらず、その隣にいるちまっとした小動物なんて一切見えていないからだ
とはいえやはり疲れるものだ。恒星といえばやはり太陽。太陽をじっと見ていたら目が痛くなるし具合を悪くする。兄と同じ人種は兄ひとりで十分。ジョンウはまぁイケメンだけどいい性格をしていたので付き合いやすかった
目立ちたくない。平和でいたい。毎日普通に働いて、美味しいごはんが食べられればそれでいい。そのうち結婚はしたいけど、トラブルは御免。夫に求める条件は人生の目標と同じく「堅実」「誠実」「安定」「美食」これだけだ
兄と同じ人種だけは御免だった。漫画で言えば作者にも描いてもらえず、アシスタントがその都度描くので回によって顔が変わるクラスメートその17くらいでいたかった。将来夫となる人もそんな私を受け入れてくれる優しいクラスメートその16がよかった
それがどうしてこうなった
JW「吐け」
ジョンウは私を喫煙所近くまで呼び出し、廊下の隅に追い詰めた。逃げ出そうにもあの忌々しいほど長い足で通せんぼをされていてどこにも行けない
JW「聞いてんの?吐けっつってんの」
「うぅ…今日の朝ご飯は納豆とメザシだったから吐きたくない…」
JW「ボケてんの?引き千切るぞそのマシュマロほっぺ」
「私が何をしたってのよ~~~」
怖い。美人が凄むと怖い。もう嫌だキム・ジョンウ嫌いハゲろ
JW「前に聞いたよね?彼氏どんな人って」
「聞いたっていうか吐かせたんじゃないか脅迫して…」
JW「お前くまのプーさんみたいな人って言ったよな」
ヨンホさんとの交際をどうしてもジョンウに知られたくなかった私は、「おっきい(高身長)」「あったかい(本人は冷え性らしいが抱っこされると温かい)」「英語を喋る(アメリカ人)」「隣に子豚を連れている(自虐)」という数々の共通点から、何とかそう誤魔化したのだ
JW「どこが?」
「そそそそそれはそのいろいろと共通点がありましてそれにヨンホさんプーさんのぬいぐるみ好きだし」
JW「ヨンホ“さん”?」
「あばばばば」
ジョンウは私の顔を絞りながら言った
JW「こんなのほほんとした食い気娘に彼氏が出来て何で俺に彼女出来ないの?」
「そ、それは性格に難があるからじゃ…」
むいいいぃぃっ
JW「しかもあのヨンホ先輩?この会社で一番の上玉男と呼ばれるあの先輩?担当した案件は100%成功させるといわれ将来この会社を動かすこと間違いなしと言われるあの人が?よりにもよってこれを?」
「ひどくないかねきみ」
大丈夫、その疑問は私も嫌というほど考えた。そしてすべての答えが「性癖」の一言に尽きる
JW「どうやって落としたの?胃袋はつかめないよね、名前の腕じゃ。色仕掛け……選ぶまでもなく最高の美女を選び放題の先輩がこれを?」
「これとか言うんじゃないよ失礼だな」
JW「名前よりは俺の方がいっそ可能性高いんじゃないかなって思ってたんだけど。あの人ホモ説あったし」
「ジョンウよりはジェヒョン先輩の方が…」
口を滑らせた。顔を絞る手に力が入る
JW「つまりお前とジェヒョン兄には共通点があるってことだな?地球上に棲息するという点以外にどんな共通点があるってんだ。さぁ吐け」
JH「それ俺も聞きたいな」
「ひいいいぃぃ…」
ジョンウの背後からぬっと影が差した。ジェヒョン先輩はジョンウと同じ世界の住人であることは間違いないイケメンで、若手のホープだ。その顔面の強さを仕事にいかんなく発揮し、取引先のお姉様方に尋常ではない可愛がられ方をしている
長身で、美人で、圧が凄い。私が苦手な条件が揃っている。私の周りの男はこんなんばっかりだ
JH「そう怯えないで怖くないよただ君と俺との共通点ってすごく気になる。もしかしたらこうしてジョンウに追い詰められていたのが俺だったかもしれないんだからね」
JW「ジェヒョン兄なら追い詰めたりしませんよ。ヨンホ先輩と並んでて絵になりますもん、BL本の表紙っぽい」
JH「それ以上言うと口潰すよ。さぁ言ってごらん名前ちゃん大丈夫いじめたりしないってちょっと話聞きたいだけさぁおいでゲロってごらん」
うわーん怖いよー!!お兄ちゃーん!!
と、私を廊下の隅に追い詰め圧をかける二人の脳天にファイルの角が降った
ゴスッ
YT「こら、何してんお前ら」
JH「…痛いですユタ兄」
JW「角……角ッ」
YT「図体でかいのが二人がかりで同僚いじめんなや。それもこんなちっちゃい子ウサギみたいな子。可哀想に、震えとるやんか」
ユタ先輩は半泣きで震える私をなでなでしながら溜息をついた
YT「後ろから見とったら完全にコンプライアンス引っ掛かるで自分ら。女の子を追い詰めて泣かして情けない」
JW「先輩は気にならないんですか、名前とヨンホ先輩が付き合った顛末」
JH「いじめてませんよ俺。質問しただけ」
YT「何が質問や。自白強要やろ。俺は何でこの子があいつに溺愛されるか知ってるし」
JW、JH「溺愛!?」
YT「そうよーあいつ超溺愛してんでー泣かしたの知られたら終わるでー」
押し黙った二人をユタ先輩が「散った散った」と追い払ってくれた。残された私は震えながら壁を向き、額をゴンとぶつけた
YT「うわ、痛そ。大丈夫?」
「ふ…ぅう……だいじょうばないです…」
YT「よしよし可哀想になぁ」
ユタ先輩はヨンホ先輩の性癖を学生時代から知っていて、交際のことも知ったうえで応援してくれたし、ジョンウの追及に困り果てていた時はさりげなく助けてくれていた。それだけじゃない
YT「名前ちゃんも難儀やな、兄貴があれで、同僚があれで、彼氏があれやもんな」
ユタ先輩は兄の部活の後輩だった。それを知ったのは就職してから兄に「お前の会社、日本人いる?そいつ俺の後輩でいいやつだからなんかあったら頼れよー」と言われたときだ
「うぅぅ……付き合ってるのばれたせいでえらい目に…同僚に睨まれるわ女子社員に値踏みされるわ女子トイレ入ろうとした瞬間に中から“ありえないよねーあんな女が”“ヨンホ先輩かわいそー”なんて噂話が聞こえて来るわ飲み会で絡んで来た先輩は腫れもの扱いでやたら機嫌窺って来てきもいわジョンウにいじめられるわジェヒョン先輩にいじめられるわ」
YT「ヨンホに言うたったら?あいつが約束破ってぶちまけよったんやし」
「ヨンホさんに罪はない……すべてはあの飲み会の日自力でセクハラをはねのけられなかった私の弱さに責任があります…」
YT「可哀想に……そんな言われることないのになぁ。名前ちゃん可愛いやん、いい子やし。名前ちゃんの兄貴なんて酒入ると口開けば妹自慢やったで」
「ハゲろ兄…」
さすが「天然人たらし」「男も惑わす魔性の笑顔」といわれるユタ先輩だ、ちょっとずつ落ち着いて来た
「ありがとうございます。だいぶ落ち着きました」
YT「それはええねんけど、名前ちゃん兄貴にヨンホと付き合うとること話してないんか?」
「最近会ってないし、わざわざいうことでもないかなって」
YT「あの人こないだ電話で妹に会いたい~って管巻いて来よったで。一人暮らしの部屋に帰って来て兄の声でお帰り言われたらいいサプライズちゃうかって相談してきた」
血の気が引いた。入社した時私は会社近くのアパートに住んでいて、その後引っ越したと住所だけは伝えてあった。が、私がヨンホさんみたいなハイスペックと同棲を始めたと知れば両親は結婚をどうのと騒ぐに決まっている。それが嫌でなんとなく黙っていたのだ
兄が知ればもっとめんどくさいことになる
「先輩…助けてください」
YT「どないせーっちゅーねん」
「何とか誤魔化せませんか?時期を見て兄には私から話しますから、えっと、実はルームシェアをしてるから予告なしの訪問はきついって」
YT「んー…まぁええけど」
今はただでさえ社内のいじめっ子(主にジョンウとジェヒョン先輩)に追われていて余裕がない。ここに兄のあの暑苦しさを畳みかけられたら私は灰になってしまう。ヨンホさんには悪いが、それこそ具体的な何かが決まるまでは隠しておきたい
今日は私もヨンホさんも定時に上がれたので、二人でスーパーに寄ってから帰った。交際はもうばれてしまったので、帰宅時間をずらす必要もない
帰って楽な服に着替えたら、二人で晩ご飯の支度をした。朝仕込んでおいた種を皮に包み、餃子にして蒸すのだ。肉と海老がたっぷり入っていて、完成形を想像しただけでお腹が空いてくる
JN「そろそろかな……おぉ~」
「わ~すごい!!おいしそう~」
蒸し器の蓋を開けるとふわっといい香りがした。ぷりっと蒸し上がった餃子がおいしそうだ。二人でご飯と副菜とスープを用意して、明日は揃ってお休みなのでビールも出した
ひとくち食べて、目を細める。ぷりっぷりの具に生姜が効いていておいしい
「はふぅ…」
JN「……」
「あちっ……おいひぃ」
JN「よかった。ほら、これも食べて。レンコン炒めたの好きでしょ?白和えもね」
「も~~~ご飯にあうもの作らないでってあれほど~~~」
JN「はっはっは、無駄な抵抗だよ。さぁたらふくお食べ」
普段あれだけ隠していても、ジョンウたちに追い詰められて勝手にばらしたヨンホさんをちょっと恨んでも、変態だのなんだの言っていても、やっぱり私はヨンホさん(のご飯)が好きだ。それに私がおいしいというと目を細めて嬉しそうに笑うヨンホさんが、とっても可愛いのだ
「洗い物やっておくから、お風呂先どうぞ」
JN「ありがとう。名前がお風呂あがったらまったり映画でも見ようか。面白そうなDVD買ったから」
「ホラーがいいなぁ」
JN「却下」
納期が迫っていなければ休日出勤もない。金曜日は晩ご飯を食べてお風呂に入って、寝る前に映画を見るのが楽しみだ。ヨンホさんは面白い洋画をたくさん知っている。この間見たB級ドラキュラ映画も、そのB級っぷりが面白かった
お湯に浸かって芯まで温まり、ちょっと眠くなったところで風呂を上がった。ちゃんと見越してヨンホさんが珈琲を淹れてくれている
JN「今日の映画はこれ、“シェフ~三ツ星フードトラックはじめました~”」
「何でまた美味しそうな映画なの~!!」
JN「前にテレビの特集でキューバサンドイッチやってて、美味しそうって食べたがってたでしょ。この映画を見て、明日はデートがてらそれ食べに行こうよ」
「わー行きたい!!」
ピンポーン
突然なったインターホンに二人で首を傾げた。もう夜遅いのに何事だ
「私が…」
JN「駄目だよ、危ないから。俺が行くからDVDセットしておいて」
ヨンホさんがパーカーを羽織って玄関に行く。私は不安になりながらもDVDをセットして珈琲に口をつけた瞬間―――
ガタンッ
どさっ
「誰だお前は!!」
物音と大声に珈琲を吹き出し、慌てて玄関に飛び出した。玄関でヨンホさんが何者かに肩を極められ壁に押し付けられている
「お前まさか名前のストーカーか!?この家で何してる!!」
「きゃ―――っ何してるの!?」
JN「いだだだだっ……名前駄目だ逃げろ警察…」
「何が警察だ現行犯逮捕するぞ!!」
「ちょっと離して!!離してってば……ッお兄ちゃん!!その人ここの家主よ!!」
私の声で男二人がぴたりと止まった
「家主?家主ってどういうことだ、ここはお前の家じゃないのか」
JN「名前今……今“お兄ちゃん”って言った?」
膝から崩れ落ちたい気持ちを何とか抑え、私は震える声で言った
「お兄ちゃんが今締め上げてるのはソ・ヨンホさん、私の彼氏です。ヨンホさんそちらはチェ・ミノ……兄です」
「痛みますか?氷当てて…」
JN「いて…大丈夫、たいしたことはないよ」
ソファで首に氷をあて、げっそりしているヨンホさんに代わり、私は兄の前に仁王立ちした
「まったく、疑わしきは罰せずって理念はどこやったのよ」
MH「疑わしいなんてもんじゃないだろ。お前の家に上がり込んだ不審者かと思ったんだぞ。中でお前が殺されてるんじゃないかと肝が冷えた」
「私がヨンホさんの家にあとから住まわせてもらってるの。これ普通なら一般人に対する暴行で訴訟ものだからね」
私はヨンホさんに向き直り、兄を指した
「改めて、兄のチェ・ミノです。警察庁に務めております」
JN「そのようですね。通りで…」
「ごめんなさい。まさかこんな時間にいきなり来るとは思わなくて…」
ユタ先輩にごまかしを頼むのが遅すぎたようだ。先輩、もっと早く言ってくれれば
「兄よ、こちらはソ・ヨンホさん。同じ会社に勤めている私の恋人です」
MH「彼氏いるとか聞いてないけど」
「いうわけないでしょこうなるってわかってるのに面倒くさい」
MH「俺は毎日会社と自宅の行ったり来たりで一人寂しくなってるんじゃないかと心配してきたんだぞ!!お前が好きなパン屋のカレーパンも買って!!」
「お兄ちゃんのせいでキューバサンドイッチが遠のいた!!でもカレーパンはありがとう!!」
兄もヨンホさんも長身だが、身長で言えばヨンホさんの方が少し高い。だが圧力合戦では完全にヨンホさんが負けている
MH「妹と付き合ってどれくらいになるんですか」
JN「一年半くらいです。一緒にすみ始めたのは一年くらい」
MH「その間何の挨拶もなく?」
JN「大人の付き合いですから。具体的な何かが決まれば改めてご挨拶に伺うつもりでしたよ」
兄は私をじろっと睨んで言った
MH「“具体的な何か”?なんだそれ」
「決まったら言うって言ったでしょ」
MH「ユタにお前のことを話したらどうも歯切れが悪いと思って、悪い男に引っ掛かったか何かトラブル巻き込まれたかと心配してもそれはないの一点張りだし、家に突撃しようかと話したらやたら止めて来るし」
ユタ先輩嘘つくのへたくそか
MH「あいつ知ってたのか」
「ユタ先輩、ヨンホさんの学生時代から友達だから」
JN「ユタとお兄さんは知り合いなのか」
「サッカー部の先輩後輩らしくて」
MH「まだお兄さんなんて呼ばれたくはないんだけど?可愛い妹と誑かした男がどんな野郎かもわかってないんだし」
「あーもーお兄ちゃんめんどくさい。帰ってお願いだから」
するとヨンホさんがにっこり完璧な営業スマイルを張り付けた。誰もが心を緩ませるその笑顔に、兄はぴくっと眉をあげる
本能的に気付いたのだろう。その笑顔はヨンホさんの戦闘スタイルだ
JN「すいません、ミノさんとお呼びすればいいのかな」
MH「そうして。で?同じ会社と濁してはいるけど妹より年上ってことは上司だよな」
JN「そうなります。チームは違いますが部下として指導することもありますし、勤務時間中は上司部下として接します」
MH「付き合うに至った経緯を聞きたい。まさか上司の立場から…」
「違う違う違う」
兄に口をもごっと塞がれてしまった。口を挟むなということだろう
JN「最初はただ食事に誘いました。徐々に打ち解けてから公私混同はしないという条件で交際を申し込みました。それと結婚を前提とした付き合いなので真面目です」
「んんんんん」
MH「ふぅん、そう。何で好きになったの?名前のどういうところが好き?」
ぼかぼかと背中を殴ってもびくともしない
JN「……名前離してもらえます?なんか苦しそう」
MH「…あ、ごめん」
JN「正直に答えてもいいですけど、誰に反対されてもわかれるつもりはないしいざとなったら名前連れて別の大陸に逃げますからそのつもりで」
「ヨンホさん大丈夫だから出来るだけオブラートに包んでください」
MH「いいから言って」
ヨンホさんはこくっと頷き、珈琲をひとくち飲んでから喋り始めた
JN「可愛いからです」
MH「それは知ってる」
JN「一生懸命仕事して嫌な上司にも耐え後輩に優しく接するところも好きですけど、一番好きなのはご飯を美味しそうに食べるところです。俺が料理を始めたのも彼女のためとうより自分の欲望のためです」
兄の顔が微妙になってきた。ヨンホさん、オブラートに包めって言っても聞く気ないな
JN「幸せそうにご飯食べてるところを見ると心が洗われるようだし、最近のデスマーチでほっぺたが痩せて来たのが気になるし、出来るなら結婚して一生かけて自分の理想のもっちりふわふわに育て上げたい!!あとご飯食べさせてにこにこさせたい!!」
言い切ったのか、ヨンホさんは再び珈琲を飲み始めた。兄は真顔になっている
MH「名前」
「はい」
MH「目を覚ませ」
「起きております」
MH「いいのかヘンゼルとグレーテルみたいに肥やして喰われるぞ」
JN「食べませんよ愛でるだけですぬいぐるみみたいに」
「ヨンホさんちょっと黙ってて。ごめん、気付いた時には手遅れで」
この私がこの兄に引かれるなど、何たる屈辱
MH「いくらイケメンエリートだからって変態はよせ。お前ならもっとまともないい男が見つかるはずだ。お兄ちゃんでもいいぞ」
「ごめんきもいから黙って」
MH「うぐっ」
ヨンホさんは兄という難関を突破したつもりでいるのか、すっかり珈琲でくつろいでいる。ちょっと待てこの空気どうしてくれる
MH「ヨンホ君、きみそういう趣味なら他にいるだろう。うちの名前はそりゃほっそりってタイプじゃないけどまぁ標準よりちょっと柔らかい程度だぞ。可愛いってのはいっさい否定しないけど」
「ねぇほんと気持ち悪い」
JN「全然足りない、倍でもいいくらいだ。あ、名前、映画見ながら食べようとアイス買っておいたけど食べる?」
「この話の流れで食べると思いますか?」
JN「俺はただもっちりしていればいいってわけじゃない。育てる楽しみが欲しい。そこへさらにご飯を美味しく可愛く食べてくれる笑顔の素敵な子がタイプなんです。名前はまさにど真ん中。そこへさらに彼女自身の可愛さとか一生懸命さや優しさが可愛いんです。俺が求める理想を全て備えている女性なんて名前くらいしかいません。この奇跡を逃してたまるものか」
「ヨンホさん夕飯の時のビールが効きすぎたんでしょう寝てくださいよもう」
JN「名前を抱っこしないと寒くて眠れない」
「黙って寝ろ変態」
JN「大丈夫毒づいてても可愛い」
私が諦めたのを見て、兄は頭を撫でてきた
MH「逮捕しようか?」
「法には触れてないんで…」
MH「いやもう犯罪だろう一種の。心配だぞ俺」
まぁこれはこれでよかったのかもしれない。出来ればこの性癖を隠しおおせてほしかったが、ばれた以上隠すものは何もない
「大丈夫だよ。ヨンホさんは救いようのない変態だけど、紳士的だし尊敬できる上司だし、毎日美味しいごはん作ってくれる。ヨンホさんのご飯のおかげで毎日仕事頑張れてる。性癖にさえ目を瞑ればこんなパーフェクトな人いないと思う。だから心配しないで」
MH「母さんと父さんに紹介出来るか?」
「いっさいのアルコールを排したうえでオブラートを何重にも重ねれば何とか」
兄はしれっと珈琲を飲むヨンホさんを見て、溜息をついた。向き直って頭を下げる
MH「妹をよろしくお願いします」
JN「あ、いえ、こちらこそ。一生かけて大事にします」
MH「とりあえずうちの親と会う時はさっきの諸々隠してください。それともう一つ」
ごごごごご…
おおぅ、圧が戻ってきた
MH「名前に何か問題が生じたらコネというコネを使い職権乱用も辞さずあんたをこの国で一番治安の悪い刑務所に送りこむつもりだから覚悟しておけ」
JN「……はい」
おまけその1
YT「なぁ名前ちゃん、今朝ミノ兄にカトクしたら変な返事されてんけど」
「なんて言ったんですか?」
YT「名前ちゃんに言われた通り、“名前ちゃん今ルームシェアしてるらしいから、突撃はやめたれ”て。これで大丈夫やろ?」
「……兄はなんて?」
YT「ただ一言、“今度じっくり話そうな”って。なんかの相談かな」
「……そうですね(ユタ先輩ほんとごめん)」
おまけその2
JW「結局わからないままですね、名前とジェヒョン兄の共通点」
JH「まさかユタ兄が庇いに入るとは思わなかったな。何か知ってるふうだったし…」
JW「ユタ先輩に聞いて見ます?名前あの様子じゃ吐きそうにないし」
JN「何の話?」
JW(詰んだ)
JH(死んだ)
JN「そういえばさっきマークから聞いたよ。名前を二人でいじめたそうじゃないか」
JW(マークなんてことを)
JH(後で絞める)
TI「こらこらヨンホ、お前までこんなところで後輩をいじめるんじゃないよ」
JW(テイル先輩神!!)
JH(助かった…)
TI「やるなら監視カメラがないとこでやんなさい」
JW(ああああああああ)
JH「いやあの別にいじめるつもりなんてなかったんですよただヨンホ先輩とのなれそめが気になって聞いて見ただけで先輩が彼女のどんなところに惚れたのかなーなんて」
JN「いうわけないだろ、名前の可愛いところは俺だけが知っていればいい」
JW、JW「……………」
TI(こいつどこでもぽっちゃり愛披露してドン引かせたかと思ったらいざ彼女出来た途端に焦土化か)
JN「もういじめんなよ?ん?」
JW、JH(あ、これマジなやつだ…)