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[神谷P♀]ふくれっ面

全体公開 1596文字
2019-01-29 12:48:01

「そんなことないと思うな」

神谷さんにヤキモチ妬いちゃうPさんとうまいこと懐柔しちゃってる神谷さんのお話です。

Posted by @toasdm

 そんなつもりはなかったんだけどな、といつも通りに笑う神谷の前で、彼女はふくれっ面をしていた。不服を全身で表現する彼女のご機嫌をとるために神谷が用意したものは、どれも彼女の為だけに揃えたものばかりだ。
 彼女専用のカップとソーサー、それと揃いのティーポット。彼女専用の茶葉をポットに入れる茶さじですら、神谷が彼女専用と決めたものばかりだ。
 もちろん、彼女は知る由もない。彼女専用は神谷だけがわかっていれば十分だったからだ。ニコニコと紅茶を用意する神谷の前で、彼女はずっと怒っていた。
「幸広さんがそんなだからですよ!」
「そんなって、どんな?」
 わかってない!と怒りを露わにする彼女の鼻先を、豊かな紅茶の芳香がくすぐる。その香りだけで少し気分が落ち着いてしまうのも腹立たしい、と彼女は紅茶を淹れる神谷を睨んでいた。
 彼女の怒りの火種は、神谷が他の女性に優しくしたことだった。
 もちろん神谷にはそのようなつもりもなかったし、当然下心もなかった。ファンサービスなら応援できたが、ファンでもなんでもない、ただ単に「好みの男だったから」と声をかけてきた、どこの馬の骨ともつかない逆ナンに、神谷は優しく、ごめんね、と断った。
「お断りしたからいいよね、っていうわけにはいかないかな?」
「いかないっ!」
「そっか……
 困ったな、と余裕ぶって笑っているのも腹立たしい。どうぞ召し上がれ、と提供された紅茶を大人しく飲んで、彼女は自分の中の怒りが落ち着きかけていることにまた腹を立てる。
 すっかり懐柔されている気がする。それが面白くないのだ。
……だって」
「うん?」
 落ち着いてしまった怒りに風を送ったところで、燃え上がるわけがなかった。鎮火した怒りは未だ彼女の胸で燻っているが、炎は上がらない。しょんぼりとした口調で、彼女は紅茶をじっと見つめながらぼそぼそと呟く。

「私ばっかり、幸広さんのこと、好きみたいで悔しい……

 そんな殺し文句があるのか、と神谷は内心悶絶していた。表情にも出ていたのだが、俯く彼女からは、幸か不幸か見えなかったようで、神谷は紅茶を注ぐ手を、なんとか正常に止めることができた。ふっ、ともれたのは溜め息か、笑いか。神谷は自分の紅茶も飲みながら、彼女の隣で満足気に言った。
「そんなことないと思うな」
「あるもん……
「そうかな?」
「絶対そうだもん……
 むすっとしたまま、彼女はおずおずと神谷を見上げる。
 上目遣い、ふくれっ面、不平で尖らせた唇。今にも泣き出しそうな瞳の潤みと、そんな風になるまで自分を好きだと言ってくれる彼女の存在。その全てが、神谷にとっては特別なものだった。カップの底がソーサーにきちんと収まるような自然な動きで、神谷は彼女の両頬を優しく包んで、そっと唇を合わせた。
「な、に……するの……
 一瞬で離れた唇に残る温もりも存在感も、全てが彼女専用の優しいものだ。僅かに濡れた唇に指をちょんと押し当ててから、神谷は笑った。
「尖ってたから、待ってるのかなって思ったんだけど」
「違いますっ!!」
 真っ赤になって慌てて否定する彼女を、神谷がどれほど可愛いと思っているかは彼女は知らない。それでも――

「俺の方が好きだと思うよ」

 そんな風に笑う神谷に、彼女は今日も言いくるめられてしまうのだ。心地よい懐柔が、本心からであるということは理解できているけれども、それでもやはり、悔しいものは悔しい。神谷の方へと向き直り、彼女は神谷が彼女に先ほどそうしたように両頬を包んで固定して、えいっ!と気合十分なキスを返して言った。
「私の方が好きですから!!」
「あはは、敵わないなぁ」
 その余裕が腹立つの!と紅茶を飲む彼女の頬は、まだ僅かに膨れていたが、先ほどとは別な赤みが差していた。
 だから神谷は好きなのだ。彼女という存在が。


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