@toasdm
「お疲れ様でしたー」
ぺこりと頭を下げた想楽は、レッスンスタジオを後にしてシャワーブースへと向かった。疲労はあちこちに蓄積している。はぁ、とついた溜め息にまで混ざった疲れをシャワーで流して、想楽はぼんやりとしたままの頭をタオルでわしわしと拭きあげながら考えていた。
ユニット内で一番若いとはいえ、他の二人が常人よりもやや体力にゆとりのあるということもあって、想楽は必死にならざるを得なかった。それでももう随分と長く一緒にやってきたせいか、ついていくだけで精一杯というよりも、最近では、二人のパフォーマンスをいかにして超えるか、という目標らしきものまで見え始めている。いつか絶対追い抜いてやる、と上を見上げながらのレッスンは、想楽をメラメラと燃え上がらせていた。
がしがしとタオルで拭いた髪の毛はぺたりと頭に張り付いていて、丸い形を浮き上がらせている。まだ汗の引かない上半身、髪の毛を拭いていたタオルを肩にかけて想楽はハーフパンツ一枚でドライヤーをかけはじめる。
「♪~……」
口ずさむのは、ユニットの課題曲。歌うことなら他の二人よりも多少は自信があったが、鏡の中で髪の毛を乾かしている自分の姿は、二人のそれよりも少し貧弱に見えた。
「貧弱って程でもないと思うんだけどなー……」
スイッチを切ってドライヤーを置き、想楽は何気なく鏡の前でポーズを取ってみる。
「こうかなー?」
背筋を強調するように力を入れて、鏡の前で振り返る。肩から背中にかけての筋肉はしっかりとしていたが、雨彦のような隆々とした盛り上がりに比べると少し見劣りするように感じられた。
「んーー、こうー?」
次は二の腕と胸筋を強調するように、マッチョらしいポーズを取ってみる。力こぶははっきりとわかったし、胸板も、多少殴った程度ではびくともしないように見えたがクリスの海で鍛えた上半身と比較されるのは少し恥ずかしいと思った。
「……はぁ。何やってるんだろうねー……」
苦笑と自嘲で沈んだ顔を、えいえい、と気合を入れるように両手でべしべしと叩き、想楽は鏡の中に向かってべーっと舌を出して着替えを済ませた。
「あ、北村さん!」
スタジオを後にして外へ出た想楽に、プロデューサーが声をかけてくる。お疲れ様です、と駆け寄る彼女は次の打ち合わせを済ませた後らしく、これから事務所に戻るんですけど、と想楽を車に乗せてくれた。
「ラッキーだったよー」
もーへとへとー、の声はハリがあったが疲れているようで、彼女はくすくすと笑いながらそれに答える。
「北村さんは努力家なんですね」
「そりゃあ、同じユニットにライバルが二人もいるからねー」
切磋琢磨は大事だよー、と流れる景色をぼんやりと見つめながら、想楽はつい、気が緩んでしまった。
「負けたくないからねー」
「そうなんですか?」
「あの二人よりも貧弱に見られたくないなーって」
言ってしまってから、ああ、言わなきゃよかった、と後悔したが、彼女の返事は想楽の想像していたものとは少し違った。
「ふふ、でも、北村さんはすごく男らしい体してますよね」
彼女のその一言が、たった一言が、想楽の劣等感をあっという間に流し去ったことに、想楽は驚いていた。
「そうかなー?」
気のない風の返事をしたものの、想楽はにやける頬を見られないように、ルームミラーの死角になりそうな位置まで移動して顔を背けた。
「葛之葉さんや古論さんはアスリートって感じですけど、一番身近で現実味があって、ステキだなって思える、うーん……」
ハンドルを切りながら彼女は少し考えて、それから言った。
「触れたくなるような、食べたくなるような? そんな体つきだと思います」
「……っふふ」
なんだろうね、その表現、と零れた声の切れ端で、想楽はにまりと笑う。
「じゃあ今度食べてみるー?」
「う、あっ、えっ!?」
冗談だよー、と彼女をからかったのは、ちょうど信号が赤になったタイミングだった。そうでなければ、事故になりかねないと思ったせいだ。色々な意味で。
事務所に着くまでの間、車内の空気は彼女にとって気まずかったが想楽にとっては愉快で心地のいいものだった。