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[英雄P♀]見えないショーウィンドウ

全体公開 1 1 1622文字
2019-02-06 12:49:34

「やっぱ、プロデューサーはいつものカッコが一番いいよな」

アイドルと自分を見比べて見劣りすると落ち込むPさんと、斜め上な励ましをする英雄さんのお話です。

Posted by @toasdm

 表情が暗い理由は自覚してる。ショーウィンドウに映った自分は、平凡すぎて、今向こうから一度だけ手を振ってやってきたマスクの青年は、ものすごく、格好いいからだ。できるだけ心配をかけたくなくて、私はフッ、と鋭く息を吐いてから、お疲れ様です、と声をかけた。
「悪りぃ、待たせたか?」
「大丈夫ですよ」
 握野さんが遅刻してくることはまずない。私が少し早過ぎただけだ。先にスタジオに入っている信玄さんと木村さんも、そういえば遅刻はしない。今日のスタジオは初めての握野さんを案内しながら、私はまた溜め息をついてしまった。
「ん?」
 どした、と私を覗き込んで、握野さんは声をかけてくれた。ああ、心配させてしまった、と思ったところで、上手に誤魔化すだけの気力は今の私にはない。
……いえ」
 目線を前へと戻したけれど、握野さんは私の向こう――駅ビルの、ショーウィンドウを見ていた。
「ああいうの、着るんだな」
「えっ?!」
 ここでうまく誤魔化せばよかった!!と思ったのは、違います、と返事をしてからだ。違うのか?ときょとんとした顔で見つめてくる握野さんに、なにをどう、説明したらいいんだろうか。……そもそもが、アイドルと自分の容姿を比べて見劣りするだとか、そんな当たり前過ぎて誰も気付かないようなことで落ち込んでるなんて、どう説明するのが適切なのかわかる気がしない。悶々とする私の肩をちょんちょんと突いて、握野さんは向こう側を指差した。
「あっちの方が似合うだろ」
 ショーウィンドウの中でキラキラしていた、ふわふわレースの少女じみたワンピースの三つ隣には、落ち着いた印象の、いわゆる、大人かわいい服がディスプレイされていた。
「あ……そう、ですね。ああいう方が好みかな……
 似合うかどうかはわかりませんけど、とまた落ち込む私の顔を、わざわざ前に回りこんでまで覗く握野さんは、ニッと笑っている。
「さっきのも似合いそうだけどな」
「えぇ~……
 ご冗談を、と返したけれど、流してはくれなかった。煌びやかな世界はガラスの向こう側で、まるで今の私と握野さんのように、同じ世界に存在するのに透明な何かで遮られているような気がして、余計に落ち込む。並びたい、と思っているわけではないけれど、見劣りするのは正直、楽しいとは思えない。
「でもさ」
 ぱんぱん、と少し強めに叩かれた背中が、丸くなっていることに気がついたのは、はっ、として背筋を伸ばしたら、握野さんの顔が近くなっていたからだった。その、落ち込むくらいにいい顔が、いい顔のまま言うのだ。
「やっぱ、プロデューサーはいつものカッコが一番いいよな」
……それは見慣れているからでは」
「んー、それもあるけど、ほら」
「うわっ!?」
 ぐっと抱き寄せられた肩、思わずふらつく私をぐるりと九十度回転させて、握野さんはショーウィンドウを指差した。

「こうやって並んでみたら、結構似合いじゃないか? 俺達」

 それは、どういう意味だろう?
 急に劣等感を全否定されてぽかんとした私を、ショーウィンドウ越しに見つめてから、右斜め上で握野さんが、うわ、と叫ぶ。
「っゴメン! なんか俺、今変なこと言ったよな!?」
「いやぁそれはどうかな!?」
 動揺が口調に出てしまったのが恥ずかしい。バッ、と一瞬で離れたけれど、まだ肩には温もりが残っていて、温もりっていうか、存在感っていうか。
「プロデューサーは俺のプロデューサーでいてほしいけどさ」
 後ろ頭をがしがし掻きながら、握野さんが言うもんだから。
「なんか、アイドルでもやってけそうなくらい可愛いなって思うこと、たまにあるんだよな」
 さっきまで勝手に感じていた見えないショーウィンドウが、どこかへいってしまったような気がして。
 さっきよりもまた随分と、歩きにくくなったもんだ、と思いながら、私は握野さんをスタジオへ案内せざるをえなくなってしまったのだ。


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