今の彼女には関係のない話

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2019-02-09 02:01:15

むかしむかしのあるところ



これは嘗ての記憶であり、只の在りし日の思い出である。

今の「彼女」には関係がなくとも。

ただ『在った』の理由の内ひとつ。


*


流れに流れてただひとり。
地を歩き、海を流れ、流浪の果てに辿り着いたは極東の地。
……疲れ果てた。
何から逃げていたのだろう。
何を欲したと言うのだろう。
問いに答えるものはおらず、期待をした訳でもない。

このまま転がっていれば遂に滅びることが出来るだろうか。
それも良いのかもしれない。
良きことではないが、悪を尽くした身には今更上等すぎる終わりだろう。

……全てを投げ出したかのように倒れ伏し、空を仰ぎ見る。
腹立たしいほどの晴天に見下されながら、これまでのことを回顧する。
……どれもこれも、贅を尽くしておきながら「楽」に程遠い。
疲れ切る訳だ。
結局のところ、私は全ての終わりを見てきてしまって。
始まりよりも、その苦労が勝った。
それだけのことなのだろう。


……物思いに耽る体力も尽きるか、思考が益体なくのものですらなくなる。
眠るように意識が途切れることが死ならば、忌避したわりにそう恐ろしいものでもなかったのかもしれない。
……嗚呼、もう、これだけか。
何も、残ることはなかった。
視界がふっと暗くなり、光が閉ざされるのを感じた……のだが。


…………
あどけない少女が、此方を覗き込んでいる。
見世物ではないのだが。

「きつねさま?」
……そうか、最早そのようにしか見えないほど落ちぶれたか。
絶世も型なしだ、と内心に自嘲する。

よい、しょと声がして、重い身体が更に重くなった。
……運ばれているらしい。

何をしているのか、と問うたつもりだが、掠れた啼き声になるのみ。
当然だ、最早尾の一つも無い狐が何と出来るか。

「大丈夫っ」
聞こえてきたのはそんな無責任な言葉。
続くのはもっと胡乱な理由。

「わたしは、太陽様の生まれ変わりだから」
「ちゃんと、たすけますよ」

……それはまあ、驚いた。
本当に太陽様だと言うのなら、このような「悪辣」など放っておけば良いと言うのに。

……或いは。

太陽だからこそ、そのような悪辣でも放っておかないのか。
慎重に運ばれる僅かな揺れに身を任せる内に、ついに意識が保たなくなる。

程なくして、私の意識は途切れ行った。


*


……九尾?」
ふ、と呟く言葉に正気に戻る。
……とても懐かしい夢を見ていた。

「おはよう、瑞穂」
……寝てたんですか、よりによって」
「悪いかしら。力の大半は貸し与えているもの。私が惰眠を貪っていても問題にはならないでしょう」
「返事がないと心配になるんです」
「あら、それはごめんなさい」
本心だけれど、果たして何処まで真剣に通じるものか。

「せめて寝ているなら寝ていると……外に行くなら止めませんし……
「そうは言うけれどねぇ、あなたの側は心地良いのよ。仕方がなくないかしら?」
…………
うにうにと微妙な顔をされてしまった。

……そうね、いるときには一言言うわ」
苦笑と共に提示すると、よし、と一つ頷いて納得したらしい。

……本当」
変わらないわね、と言うことは憚られた。
……同じではないのだから、それはただ自身の我に過ぎない。
自分でも丸くなったものだと思う。

「言いたいことがあるなら言ってくださる方が……
「そういう訳では、ないのよねぇ」

……せめて。
あなたの生が、此度は幸福と共にあるように。
きっとあの子も、そう望むから、それ以上に。

私が、あなたの幸せを望みましょう。


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