@toasdm
「も~~~~~~……!」
スマートフォンを持ったまま、次郎は悶絶してベッドに倒れこんだ。画面に映し出されたメッセージアプリと添付画像が、次郎の悶絶の原因だった。営業先のホテル、部屋で一人次郎は身悶えて、ベッドの上を転がっていた。
彼女はプロデューサーであってマネージャーではない。万年人手不足の事務所で半分以上はマネージャーのような仕事も兼任してはいるせいで、営業先に随行することは珍しくないとはいえ、必ず随行するわけではなかった。だから今日のように、次郎は営業先に宿泊し、彼女は次郎の帰りを待つ、というのも当たり前にあった。
付き合う以前ならば、それは極々普通の、いってらっしゃいませとお疲れ様でしただったそれも、所謂男女の仲になってからは、寂しいなと会いたかったに成り代わる。寂しさも、会いたさも、二人の気持ちは同じだったが、夜になって一息つくと切なくなる。今日の仕事を振り返り、明日の仕事のプランを立てながら、次郎はホテルでシャワーを浴びて愛しい彼女に連絡でも、とメッセージアプリを起動した。
「……お」
二通の未読のメッセージを知らせるアイコンに、次郎はにまりと口元を緩めた。まったく、プロデューサーちゃんは寂しんぼさんだねぇ、と苦笑しながら、寂しいのは俺も一緒だけどさ、とにやにやしたまま次郎は愛しい名前に触れた。
「…………はぁっ!?」
《お疲れ様です。次郎さんがいなくて寂しいので猫飼いました》
《お布団の中で寝てるので、これから一緒に寝ます、もう寂しくありません》
そんなメッセージと共に、いつも二人で寝ているベッドの写真が添付されていた。良く見ると、いつも次郎の寝ている方だけこんもりと、ちょうど、猫くらいの大きさに丸く膨らんでいる。
「も~~~~~~……!」
なんなのそれ、可愛過ぎでしょ……!
次郎はしばし、ホテルのベッドで萌え転がった。漸く冷静になって溜め息と共にむくりと起き上がり、徐に次郎はシャツを脱ぐ。それを雑にぐしゃぐしゃと丸めて綺麗に整えられたベッドの中に放り込み、カシャリと一枚写真を撮る。
《お疲れ。こっちもにゃんこいたわ。俺は寂しいから早く帰るよ。いい子で待ってて》
一瞬語尾につけたハートマークは気恥ずかしさで消して、次郎はそれを彼女に送って再びシャツを着る。風邪引いちゃダメだもんね、とシャツを被った瞬間に、今度は通話通知でスマートフォンはブルブルと震えた。
「はいはい、今出ますよーっと」
もしもし、と電話に出た自分の声がやけに弾んでいるのも心地よかったし、次郎さん、といつもは両耳で聞く立体的な音が、左耳から、平たく聞こえるのも新鮮だった。頬を緩ませて次郎は彼女に、今日一日の報告をした。
「そういえばさ」
う、と彼女が一瞬身構えたが気にせず次郎は続ける。
「そっちのにゃんこ、早く見たい」
「……っふふ」
二人とも、似たような顔で笑っているのは声だけでわかる。
「うちの猫、体拭けるんですよ」
「へぇー。こっちのにゃんこは着られるよ」
今着てる、と笑いながら次郎はシャツを撫でた。シャツですか、そっちはバスタオル?と猫の素材を種明かししながら、イマジナリーにゃんこに寂しさを埋めてもらう。目を閉じて、お互いの体温のないベッドでくだらない話をしながら、夜はどんどん更けていく。
「もうおねむ?」
「ん……」
「にゃんこと一緒に寝ちゃおっか」
「ふふっ……はい。おやすみなさい、次郎さん」
「おやすみ」
囁きあう愛しい名前を夜の終わりにして、二人は電話を切る。
早く会いたい、の言葉はなくとも、思いが同じであることは、十分わかりきっていることだった。