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San Valentino!

全体公開 2649文字
2019-02-13 19:15:29

バレンタインってなんだっけ?

Posted by @acbh_dmc4

「エツィオ、今日は恋人同士の愛を囁き合う素晴らしい日だ。心置きなく甘えてくれていいぞ?」
「すまないが、任務があるので俺はこれで

出会い頭に頭の沸いた事を宣う男を無視して部屋を出ようと扉に手をかける。
どういう技術なのか、そんな俺の腰を攫ってあれよあれよとソファに腰かけた導師の膝の上に横抱きに座らされた。
互いにフードを取り去り、満面の笑みを浮かべた導師がぎゅうと俺を抱く腕に力を籠める。

「互いに甘い時を過ごそう」

耳元でうっとりと囁かれるが、しかし幸いなことに任務は本当にあった。
教団の仕事もやらなければ、今後の活動に関わる。
基本この男は俺の立場をよく理解しているから、よほどのことがない限り任務だと言えば無理強いしない。

「ちなみに今日のターゲットは私がサクッ☆と始末してきてやったから、お前は本日フリーだ。この密書は欲しくないかな?」

私からのプレゼントだ、と耳元で囁かれる。
思わずその手紙に手を伸ばしたが、ひらりと交わされ彼のローブの中へと隠されてしまった。

「おっと、服の中に入ってしまった。取り出すのに服を脱がねばいかんな?」

にやにやと脂下がった顔で宣う。
顔面に拳をプレゼントしてやりたい。
苦虫を噛み潰したような苛立たしい顔で睨みつけても効果はなく、目的の物を得るには彼にオネダリしなければいけないと腹をくくる。
まぁ、俺自身、この男に捕まってしまえば言う事を聞く他、解放される道はないと十分すぎるほど学習している。
逆らわず、男の満足するような行動を心掛け、穏便に事を済ませればいい。
厄介なのはそんな俺の心を全て分かった上で、穏便に済ませてくれないだろうという事だ。

まだ昔の方がこの男は聞き分けがあった。
実際俺が今現在、あの青年が叱責逃れたさで媚びるような仕種をし、腹立たしさを助長させられても、ある程度で許してやっている!
なんて優しいんだ俺は!それに比べてこの男はっ!!!!

ギリリと噛み締めた歯が鳴った。
そんな俺の表情に苦笑をして見せる男が、仕方がないと言わんばかりに俺の眉間に口づけを落とした。
機嫌を取る様に顔中に優しいキスが降らされる。
もさっとした髭が触れる度、うっとおしいと顔に出しているのに、導師は機嫌良く微笑み熱く俺を見つめた。
なんとなく顔に熱が灯っているような気がするが、きっとこれは腹が立ちすぎて頭に血が上っているからに違いない。

「早く密書を取らねば情報が使い物にならなくなるかもしれないぞ?」
そんな大事なものを、自らの欲望と天秤にかけるのか」

敢えて神経を逆なでるような事を言う目の前の男に、先ほどまで感じていた熱が引く。
男のお遊びに乗りそうになっていた自分に内心で舌を打つ。
自分の事を棚に上げて、俺の失態を窘めるこの男の意地の悪さには反吐が出る。

「さっさと終わらせたい。口でいいか」
「エツィオ、今日は何の日だ?私は処理がしたいんじゃない。愛し合いたいのだ」
「なら相手をしてやるからさっさとその密書を寄越せ!」

たまらず怒鳴りつければ、目の前の不遜な男の唇がニィといやらしく笑みの形を作った。
墓穴を掘ったようにも思うが、どの道この男の餌食になる事は、最初に捕まった時点で決定している。
今更往生際悪く逃げようなどとは思わない……思ってなんかない
荒い手つきで男が身に着けている防具の留め具を外し、腰に巻かれた帯を引き抜く。
耳元でボソボソと情熱的だの、誰かが来たらどうするなど煽っているようだが、よもや男がなんの手も打っていないとは思わない。
用意周到にここテベル塔の談話室に人が寄り付かないよう手を回しているはずだ。
前留めになっていない服を強引に引っぺがし、インナーを剥ぎ取り剥いていく。
一体何枚重ね着しているんだこいつは!と腹を立てながら色気もなく脱がしていくと、やっと男が奪ってきた密書がハラリと地に舞い落ちた。
すかさずそれを拾い上げると、急いで手紙を開き、内容に目を通す。
導師が俺を引き寄せる様に抱きしめて、俺の肩に顎を乗せ一緒に手紙を覗き込む。
そしてその手紙の内容に、俺の心は一瞬で白けてしまった。

『親愛なるエツィオ

密書は既にマキャベリに渡してある。内容は詰まらん襲撃予告で
ついでに叩き潰しておいたから安心してくれ。

今日この素晴らしき愛の日に、君と二人心を通じさせられる事に感謝する。
君を心から愛している。
どうか、私のこの切ない思いを受け止めてほしい。
          エツィオ・アウディトーレ』


「あら、導師いらっしゃったんですね!服をどうされたんですか?」
「ああ、来る途中でへまをしてしまってな。エツィオに傷の様子を見てもらっていたんだ」
「こんにちわ、マエストロ!導師、何故エツィオ殿を膝に?」

ぞろぞろと弟子たちが談話室へと入ってくる。
完全に固まってそれを眺めるしか出来ない俺の代わりに導師がテキトーもいいところな言い訳を口にする。
頭痛がして頭を抱えれば、心配そうな視線が集まった。

「どうやらエツィオも体調が優れんらしい。今日は私もこれで失礼するし、送っていこう」

ささっと脱がせた衣服を着直して、身支度を整えてから俺を抱え起こす。
もうどうとでもしてくれというか、既にそう約束をしてしまったな俺はこれから一体どうされるのだ
これからの事を思うと胃まで痛くなってくる。
せめてマキャベリとあの青年でも居れば、多少の引き留めになってくれるのに
その思いを汲み取ったのか、弟子の一人が男を引き留めた。

「そう言えば導師、マキャベリ様とドメニコ様はどちらにいるかご存知ですか?」

よく言った、そのままなんか余計な計画でも言ってもう少しだけでも引き留めてくれ!

「ああ、奪った密書に書かれていた計画の詳細を報告するために、眠る狐亭にいるぞ」

あ、なんか思い出してきた。
そう言えばこの日、昼にマキャベリに声をかけられて、眠る狐亭で良い時間からひたすら飲まされたような
なんだか生暖かい、遠い目をしたマキャベリが最近辛いことはないかと優しい言葉をかけてくれて、管を巻いた気がする
そうか、マキャベリ……俺を売ったのか。

裏切られた怒りと、どうしようもない無気力感が俺を襲う。
今度こそ良い笑顔で弟子達に別れを告げ、テベル塔を出た瞬間に逃げ出した事を後悔するのは、ほんの少しだけ先の話。


fin.


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