LETTERのTRUE END後の設定(アフターストーリーの後くらい)で作成していますので、各種ネタバレにご注意ください。
2019/03/14:そういえば、直樹はこの時既に車を持ってたので『車が欲しい』→『運転に慣れたい』に修正しました。
水曜日の夜。僕はいつものように沙織ちゃんとメールをしていた。メールだけじゃなくて電話もすることもあるし、チャットアプリで話すことある。でも、メールが届くのを待つのが心地良くて、ついメールを使ってしまう。
沙織ちゃんのことを身近に感じると今すぐにでも愛海富町に行きたくなるからという事情もあるけど。早く運転に慣れたいなぁ。
『直樹くん、今度の土曜日空いてる?』
『空いてるよ。どうしたの?』
『直樹くんの家に泊まりに行ってもいいかなぁ?』
ーーはい?
この場合は『深い意味』と『深くない意味』のどっちなんだ? 深読みしてもいいのか? いや、この場合は直球でストレートで『深い意味』の方だから深読みというのは間違いで……。
うん。落ち着け、僕。
沙織ちゃんは僕らよりも大人の考えを持っていることがあるから、『深い意味』も知ってるはずだ。でも、沙織ちゃんだって、まだ二十二なんだから、そこまでは……あれ? 遅くはないけど早くもない? ま、まぁ、キスくらいは……いいよな? 理性がちゃんと働いてくれるかなぁ……。
うん。落ち着け。
とりあえず、メールを返そう。別に断る理由もないはずなんだし。
『泊まるのはいいけど、何かあるの?』
『ひみつー!』
くそぅ。気になる。
◇◆◇◆◇◆
直樹くんと土曜日の約束をした次の日の木曜日。私は親友である悠里ちゃんにチャットで『バレンタイン頑張る宣言』をしていた。
『よーし、そんなわけで、バレンタインがんばるぞー!』
『沙織ちゃん、気合入ってるね』
『直接渡すのは初めてだからね!』
『そっか。頑張ってね!』
『うん。ありがとう! 悠里ちゃんは今年も佐々木くんに渡すの?』
『うん。渡すよ〜。渡さないと拗ねるからね〜』
『そっか。悠里ちゃんも頑張ってね!』
『うん。沙織ちゃん、ありがと〜』
チャットを終える。
今までは会いに行けなかったし、郵送をするのも気が引けて渡せていなかったけど、告白し合ったことで恋人同士になったんだし、直接会いに行けるようにもなった。
初めてのバレンタインだから、気合も入っちゃうよね。
明日からは少し忙しくなりそうだ。
ーー余談。
拗ねている佐々木くんって想像つかないけど、拗ねるの? 後で直樹くんに聞いてみようかな。
拗ねている佐々木くんが想像つかなくかったので、直樹くんに、佐々木くんが拗ねるのか何気なく聞いてみた。
『え? 愁が拗ねるのかって? 愁は結構拗ねるよ?』
そうなのか。佐々木くんの意外な一面を知った気がする。ついでに直樹くんも拗ねるのか聞いてみたら教えてくれなかったので、佐々木くんに聞いてみた。
『直は表に出にくいからわからないけど、すぐに拗ねるぞ』
うーん。似たもの同士ってことでいいのかな?
◇◆◇◆◇◆
デート前日の金曜日。材料も買ったし、お仕事がお休みな明日香さんも誘ったから、私の家で早速作るぞー!
手伝ってもらうため、お母さんは私達と一緒にキッチンにいてもらっている。
「よーし。やるぞー!」
「おー?」
「明日香さん、なんでノリが悪いのー?」
「何でって言われても、なんで私まで……翔太が『明日香からのチョコがないとやだー』って拗ねるから……もう」
男の人って、みんなそうなの?
お母さんと一緒に苦笑いをしてしまった。
でも、明日香さん、照れてるよね?
お母さんをちらっと見ると、ニヨニヨしている。気持ち、わかるよー。
しばらく、明日香さんのボヤキをお母さんと一緒にニヨニヨしながら眺めていることにしました。
「ところで、沙織」
持って行くお菓子を作り終わって試食を兼ねて休憩していると、明日香さんが真面目な顔で私に話しかけてきた。
「何?」
「今度の土曜日、遠藤くんの家に泊まりに行くんでしょ?」
「そうだよー」
「男の人の家に泊まりに行くって、意味わかってる?」
「何のこと?」
泊まりに行く以外の意味ってあるの?
不思議に思っていると。
「沙織」
「お母さん?」
「お母さんね、厳しいことを言うつもりはないし、遠藤くんも沙織にひどいことをするような人じゃないのは知っているけど、遠藤くんとエッチをしてもいいの? 男性の家に泊まりに行くということは、『エッチしてもいい』というサインなの。その覚悟もないのに泊まりに行くと、お互いに傷つくわよ」
そうだったのか。デートやキス、ハグくらいなら小説や漫画で見るからすぐにわかるんだけど、軽い物語ばかりしか見ていないから、エッチのことまでは考えが及ばなかった。
「うーん。直樹くんならいいかな。うん。直樹くん以外は嫌。私は土曜日に直樹くんとエッチできるなら嬉しいって思うよ」
「そう。遠藤くんなら大丈夫だと思うけど、避妊はしっかりしなさいね」
「はーい」
◇◆◇◆◇◆
デート前日の金曜日。僕は部屋の片付けと掃除をしていた。片付けといっても、必要最低限しか物がないから片付けようもないんだけど。趣味になった列車の模型作りの完成品も作りかけもウォークインクローゼットの中だから、問題ないはず。
「広めのウォークインクローゼットがある部屋にして良かった……」
クローゼットをちらりと見て、部屋を見て、過去の自分の英断を讃える。
独り言が多いかなって自分でも思うけど、一人でいると独り言が増えてしまうのは仕方ないと思う。
「あとは当日出かける前に軽く掃除でいいかな?」
掃除も根気がいる掃除さえ終わらせちゃえば普段の掃除だけだし、問題はないだろ。
「あと、必要なものって、何かあったっけ?」
部屋の中を確認して考える。必要なもの……うーん。必要かなぁ?
何にしても、冷蔵庫に飲み物やお菓子がなかったので、近くのドラッグストアに買いに行くか。
ドラッグストアで、自分に『使わないにしても用意しないのはダメだ』と言い聞かせながら、コンドームを手に取る。横にあったローションが目に入った。
痛い思いはさせたくない。僕のが大きいのかはわからないけど、負担は大きいって聞いたことがある。よし。これも買うか。
準備はできた。あとは明日を待つだけだ。寝れるかなぁ……。
◇◆◇◆◇◆
土曜日の昼。沙織ちゃんと約束した日。僕は泉大山市で沙織ちゃんが来るのを待っていた。どうやら電車が遅れているらしい。
「ごめんね! 遅くなっちゃった!」
沙織ちゃんが謝ってくるので、「気にしないでいいよ」って宥める。沙織ちゃんのせいじゃないのに、ちょっとしょんぼりしている。
「沙織ちゃん。お昼ご飯さ、最近できたハンバーグ専門店に行こうと思うんだけど、どうかな?」
「いいよ! 楽しみ〜」
沙織ちゃんと手を繋いで歩く。まだ少し恥ずかしいけど、『恋人つなぎ』で。歩きながら、周りの雰囲気がピンク色というか、そわそわしているのに気づいた。
今日って、何かあったっけ……と、何気なくコンビニを見ると『2.14 VALENTINE』の文字が。
あ。あ、あーー!! 今日って、バレンタインか。すっかり忘れてた!! 縁がなかったからなぁ。僕も沙織ちゃんからバレンタインチョコもらえるかなぁ……。
「直樹くん?」
「ん? 何でもないよ、沙織ちゃん」
バレンタインだとしても、沙織ちゃんとのデートなんだから、ちゃんとデートに集中しなくちゃな。
◇◆◇◆◇◆
少し遊んだ後、部屋に帰ってきた僕達。
沙織ちゃんを部屋に招き入れると、沙織ちゃんが何故か感動している。
「おぉ〜っ! ここが直樹くんの部屋……」
「ごめんね、あんまり綺麗じゃなくて」
「え? え??? これのどこが? すごい綺麗だよ!」
「あ、ありがとう」
「でも、あんまり、物がない……?」
「あまり物を置かないからね」
「コートってどこにかけるの?」
「ああ。僕が預かっておくよ」
沙織ちゃんからコートを預かると、僕のジャケットと一緒にウォークインクローゼットに掛けに行く。
「わ! 小さな列車がいっぱいある!」
「うわぁっ!?」
何故ついてきちゃったの!?
クローゼットにコートとジャケットをかけたあと、沙織ちゃんが申し訳なさそうに「ご、ごめんね?」と謝ってきた。
「沙織ちゃんのせいじゃないから、気にしなくていいよ」
「でも、せっかくの模型、飾らなくていいの?」
「愁にバレたら面倒だから、このままでいい」
ーー数年後、沙織ちゃんから「あの時にね、『直樹くんと一緒に住むときは趣味部屋を作るぞ!』と決意したんだ」と打ち明けられて、嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちになったけど、気兼ねなく趣味かできる部屋の快適さに感動した僕は、沙織ちゃんに感謝したのだった。
僕の列車の模型の件が落ち着いて、まずは飲み物を用意することにした。
「コーヒーと紅茶、ジュースがあるけど、沙織ちゃんはどれがいい?」
「私はコーヒーがいいなー。コーヒーが好きなの」
「奇遇だね。僕もだよ」
「そうなの? 嬉しい!」
紅茶派かなって思って紅茶も買ったけど要らなかったかな?
そんなことを思いながら、嬉しそうな沙織ちゃんの元にコーヒーを持って行く。
「はい。砂糖とミルクもあるよ」
「ありがとー。でもブラックで飲むから平気だよー」
「お。そこも一緒だ」
「ふふっ。一緒だね!」
「うん」
「あ。ちょっと待ってね」
沙織ちゃんが鞄から小さな袋を取り出して僕に差し出した。
「あのね。バレンタインのチョコクッキーを作ったんだ。食べてくれる?」
差し出された小さな袋を受け取る。
「ありがとう! 一緒に食べようよ」
「うん」
コーヒーをお供に沙織ちゃんからもらったチョコクッキーを食べる。
「美味い」
女の子から生まれて初めてもらった本命バレンタインプレゼントなので、喜びもひとしおだ。
「良かったー! 沢山食べてね!」
沙織ちゃんはほっとしたように微笑うと、自分もクッキーを一つ食べて、後は僕がクッキーを食べるのをニコニコしながら見ていた。
後編に続く